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アルカディア学報

アルカディア学報(教育学術新聞掲載コラム)

No.378
日常改革の積み重ねで前進 評価・改善の持続による入学者確保

研究員 篠田 道夫(日本福祉大学常任理事)

 毎年の改組・改革
 長岡造形大学は、長岡市と新潟県が設置経費の全額を負担して、1994年に設立された公設民営大学である。「米百俵」の精神風土を持つ長岡で、建学の理念「造形を通して真の人間的豊かさを探求する人材の養成」を掲げる。大学設立当初は、市長が理事長、市職員と設立準備委員会職員として採用された職員が事務局の中核を担った。私立大学として設立された狙いが、財政の自立をはかり、市議会が大学運営に直接介入しないなどの点にあり、事実その後、理事長も学内者に代わり、市派遣の職員は完成年次でいなくなり、財政援助は受けず、運営の自立を強める方向に進んだ。これが今日の長岡造形大学の強さを作っている第一の要件だといえる。
 造形学部学生は合計932人で、総定員800人に対し、1.16倍を確保している。創立以来一回だけ定員割れがあっただけである。学部は、四つの学科で構成され、さらに19のコースに分かれており、そのうちの13コースは新設(改組)されたもので、高校生のニーズの変化や希望に敏感に対応している。
 特にこの10年間は、毎年、学科やコースの新設・改組を行ってきた。この源には理事長諮問機関として設置された「中長期教育計画検討委員会」がある。ここが提案した「平成19年度から平成21年度に向けての事業計画」には、美術・工芸学科の新設、30人の入学定員増が提起され、そのための第三アトリエ棟や市民工房の建築、建築費等13億円の基本金への組み入れなどが計画されている。全教職員にアンケートを行い、全学的な検討会、意見交換会を頻繁に開催、またウェブ上での意見募集も行い、その意味では全学の知恵を結集して改革案を策定した。
 この中期計画を具体化する事業計画書、予算編成方針も優れており、10項目に上る重点事項、9分野46項目の実施事業が一目瞭然に記載され、確実に予算配分されるようになっている。中期計画と重点施策を繰り返し明示し、全学で共有することで、教職員が一つの方向に向かって揺るぎない取り組みを進めている。
 活発な議論と連携
 理事長と学長のリーダーシップもうまく発揮され、職員も企業等出身が多いことから、教員に遠慮せずに発言・提案する良い伝統が根付いている。理事は、長岡市副市長、商工会議所会頭など公私協力に配慮した構成で、日常経営は、学内理事5人が常任理事会を構成し、遂行している。
 大学運営の中核は、運営委員会と予算委員会である。運営委員会は教学そのものの事項を、予算委員会は逆に経営案件について意見を述べる仕組みで、二つの組織を巧みに機能させている。これを繋ぐ、理事長、常務理事、学長、事務局長の4名による「G4会議」が置かれ、トップレベルの率直な意見交換で、深い意思一致が図られている。今年度より企画推進課が置かれた。企画推進課長は事務局次長が兼務し、大学の政策立案、広報の実務上の中核組織として位置付けられている。
 学生募集の方法も、高校美術教員を集めた技術交流会や高校生対象のデッサン教室を開催し、美術教員との連携、美術系進学希望者の拡大を図る活動を持続的に展開している。
 学生募集は入試委員会が担当し、それを入試広報課、企画推進課が支えている。これは大学改革方針を作る企画部署が、同時にその社会的評価である募集に責任を負うことで、単なる学生集めの手法ではなく、高校生のニーズに基づく魅力ある大学作り、真の学募強化に繋げようという点にある。現在、東京の美術系私大との差別化を最も重視し、教育の優位性を作り上げる取り組みを進めている。
 カリスマ的リーダーはいないが、危機意識が浸透し、それを明るく前向きに乗り越えていこうとする気風がみなぎっている。普通の感覚で、日常的な改善・改革を積み上げていることが、この大学の強さ、優れた特長であり、厳しい環境の中でも定員割れをしない大学を作り上げている。
 評価で教育品質向上
 新潟青陵大学は、2000年に設立された新しい大学である。「こころの豊かな看護と福祉」の実践を通して地域への還元を目指している。
 看護系大学が県内に多数ある中でも、看護福祉心理学部、総定員770人に対し882人(1.14倍)を確保している。さらに2010年度には福祉心理学科の入学定員を100人から110人へ増員する。
 新潟県経営品質協議会の代表幹事も務める理事長は、「学校にとって学生はかけがえのない顧客」「質の高いサービス(=教育)の提供」という強い信念とリーダーシップで、単に授業改善に留まらず、学生満足度の向上につなげる経営改善サイクルの構築を強力に推進している。「T、本学が目指す学生の姿」、「U、本学が目指す教職員の姿」並びに新潟青陵学園の「V、本学園が目指す学園の姿」の三つのポリシーを定めた。学生像を示すだけでなく、教職員のあるべき姿を明記することで、学生・保護者に範を示し、自らの戒めとしている。教職員の価値観を統一し、ベクトルの全学一致を図ることで、高い学生満足度の獲得を目指している。
 新潟青陵大学は、2007年に大学基準協会による認証評価を受審した。「勧告」はなかったが、大学の一層の改善努力を促す「助言」を重視し、改革の指針とすることで評価を改善に繋げている。経営品質協議会の「日本経営品質賞」の受賞にも大学として挑戦している。その評価は、八つのカテゴリー、@経営管理のリーダーシップ、A経営における社会的責任、B顧客・市場の理解と対応、C戦略の策定と展開、D個人と組織の能力向上、E顧客価値創造のプロセス、F情報マネジメント、G活動結果となっている。このように、外部評価を意識的に活用して、学内での改革・改善を積極的に進め、弱点の補修だけでなく、強みを再認識する機会としても位置付け、教職員の自信を強め、評価に基づくPDCAサイクルを構築している。
 政策の立案と推進
 2007年から学園の長期目標、特定のテーマを実現するため、専門的知識を有する者を集めて取組む「プロジェクトチーム」や緊急性の高い問題を迅速・的確に対処するための「タスクフォース」と呼称する臨時的組織を設置している。活動成果として、平成20年度文科省の「戦略的大学連携支援事業」に代表校として申請し採択された。ニーズの変化に迅速に対応し、時々のテーマに合わせて必要な時期に必要な人を結集する。その検討結果と提案に基づくトップの決断と実行は、迅速な経営・教学改革を実現する上で、極めて有効な手段である。また、経営企画課を新設して、市場調査・分析から経営戦略、実行計画まで取り扱う専門部門とした。
 意志決定システムと表裏一体の関係にその伝達システムがある。同大では、例えば、教授会議事録のLAN上の公開や2006年には全教職員の意見集約と討論の場として「Web会議室」を開設するなど、情報環境を積極的に利用して情報の浸透、意見集約を図っている。構成員が少ない組織では、伝聞に頼ってかえって意思疎通が不十分になる場合がある。これを自覚した意図的な整備は学ぶべき点である。
 学長の選出は、理事長のもとに学長候補推薦委員会を置き、委員は理事会および教授会からの各三人で構成される。検討結果は教授会に諮問した上で理事会で決定する。経営と教学の一致に基づく望ましいリーダーの選任方法の一つの在り方といえる。学部長も教育と経営の見識と決断力を重視し、学部長人事を理事長の専権事項としている。
 これらのシステム全体を総合した力が、満足度の高い教育を作り出す原動力となって、定員割れのない大学を作り出している。
 (新潟青陵大学は、増田貴治愛知東邦大学法人事務局長執筆の調査報告書を基に作成)

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