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平成26年2月 第2554号(2月26日)

改革の現場
 ミドルのリーダーシップ <59>
 鍼灸師育成からリハビリテーション・看護へ
 森ノ宮医療大学


 森ノ宮医療大学は、大阪湾に面したベイエリア、大阪市住之江区に2007年に新設された新しい大学ではあるが、7人の鍼灸師によって設立された大阪鍼灸専門学校(現・森ノ宮医療学園専門学校)は40年の歴史があり、鍼灸系の専門学校では初の附属診療所、出版部、ミュージアムの併設とユニークな取組を行ってきた。現在は保健医療学部に鍼灸学科、理学療法学科、看護学科の3学科を擁する。専門学校の文化を引き受けつつ、特徴ある大学マネジメントを行う同大学で、清水尚道理事長、安田 実専務理事に話を聞いた。
 取材依頼の電話では、清水理事長自ら対応して頂いた。「現場の手を煩わせたくないので、自分が出来ることは自分でやります」と笑う。理事長室はあるものの、普段は仕切りのない事務室に学長と席を並べ、現場からは相談を受けつつ情報収集も行い、一般職員と仕事をこなす。また、学部教授会に出席、学科会議にも陪席して現場の意見に耳を傾ける。理事長が教授会に出るなら、教員は言いたいことが言えないのでは。「副理事長時代から参加していますし、積極的に意見を頂いてます」。専門学校の文化も継承しつつ、大学としての新たな文化を創造するために、教職一体となった大学運営を行う。
 荻原学長は、元大阪大学医学部附属病院長、前大阪府急性期総合医療センター院長というキャリアを持つが、小規模大学の運営状況を把握し、この教職一体で業務を遂行する文化に対して非常に合理的でもあるとすぐに馴染んだ。「大学設置直後は、様々なバックグラウンドを持つ教職員が様々な提案をするので、全てのルールも一から創り出す状況で、学内には議論疲れの空気もありました。その時に、荻原学長に就任して頂き、リーダーシップを発揮して頂いたことで、「大学らしさ」を進化させることができたように思います」と安田専務理事は振り返る。小さい、新しいなどという言い訳はやめよう、教育のクオリティに小さいも大きいもない、と呼びかけているうちに、教職員もその気になってくる。その後、荻原学長は、看護学科の設置時にも実習先も含めて同大学の方向性を位置付けた。
 教職のみならず、学科間の教員同士、あるいは学生とも仲が良い。大きくはないキャンパスの中で、食堂に行けば常に知っている人がいる環境である。「奨学金等も含めて、学生からの相談は基本的にまずは教員に受けてもらっています。これは建学の精神である『臨床に優れ、かつ豊かな人間性に裏打ちされた医療人を育成する』に基づいており、学生に教員から多くのことを学んで欲しいという思いからです」と安田専務理事は述べる。
 理事長、学長のほか、専務理事も管理職と同時に教員でもあり、一人二役を務めるプレイングマネジャー。日常の大学の意思決定は、学長のリーダーシップによって行われ、その判断材料の提供を法人本部長、大学経営企画室長が中心となって行う。「一人二役の配分については注意が必要ですが、全教職員の顔と名前がわかる環境の大学のガバナンスのあり方として、最前線の状況を把握するための一つの方法だと考えています」と清水理事長。
 教職員の人材育成システムもユニークだ。「森ノ宮塾」という研修を2012年に始める。これは、大学と専門学校の中堅から若手教職員24名を集め、1年をかけて学園の理念や歴史を学びつつ、学内外の課題、SWOT分析などを行い、学園の理解を深めて行くもの。「大学と専門学校、教員と職員ということではなく、森ノ宮医療学園のメンバーとして学園の価値という視点でディスカッションをしてもらうことに大きな意義があると思っています」と清水理事長。「教員、職員、教学、経営、大学、専門学校など、学校という形態には様々な区別が存在する可能性がありますが、私学運営においては全てが関連性をもっており、総合的な意味で学園全体が一体となった経営が目標です」。
 実は、学校法人としては珍しい特区制度を活用して設置もされている。「近隣に大阪市の大規模な運動施設があり、市としてもその施設の有効利用を考えておられました。そこで、グラウンドについては、そこを利用させてもらうことにして、大阪市に特区申請をして頂きました。本学は、自前のグラウンドは持っておりませんが、バスで5分程度という距離であることも含め、いい施設を学生に提供できています」と安田専務理事は経緯を話す。
 現在は、大学と専門学校間の人事交流も始まった。若い経営者、トップと教職員の距離が近い運営スタイルと、これまでの大学経営の常識を吹き飛ばすようなベンチャー企業的発想とスピード感を強く感じさせる話だった。

専門学校の強みを生かしたトップと教職員の一体運営
桜美林大教授/日本福祉大学園参与 篠田道夫

 専門学校から発展してきた若い大学である。一貫して臨床力を高める教育を重視、これまで4500名の臨床家を育て、それを基礎に2007年、大学を設置した。理学療法、看護へと分野を広げながらも専門職育成・資格取得に特化した個性ある教育を展開する。2010年には1982年に開設された附属のクリニックと鍼灸院をリニューアルし、伝統医学である東洋医学と現代医学である西洋医学、両医学思考や知識を身につけた人材の輩出を目指す。
 人間力育成の教養教育も重視、カリキュラムは3段階の構造からなり、基礎に幅広い一般教育を置き、次に科学的・論理的な思考を涵養する科目群を配置、その上に各学科にふさわしい基礎的な医学知識を身につけた医療人の育成を目指す。就職を希望する全学生が就職を実現、就職率100%は大きな特色だ。授業アンケートを基に教員はリフレクションペーパーを提出、学生に公表する。公開授業週間を設定し、教員相互評価、職員も参観に加わる。学習支援センターも本格稼働し、エンロールメントマネジメントにも力を入れる。
 2013年の志願者は前年から倍増、定員充足率は106.3%、定員割れの大学もある昨今にあって安定した募集を作り出す。退学率は2.4%と少なく、これもきめ細かい教育の成果だ。
 大学運営システムは確立期にあるが、基本に忠実で小規模専門学校からの伝統が息づいている。理事長は若いがリーダーシップがきちんと確立し、理事会主導で動く。教授会は理事長も規程上の構成員で、法人本部長、事務局長も構成員として加わる。その他にも理事長は、あらゆる経営会議や大学の学科会議まで傍聴も含めできるだけ参加する。直接現場の意見を聞き、率直に議論することで実効性のあるリーダーシップの発揮を目指す。このトップと教職員の距離が近い伝統的な運営が、経営方針や意思決定が身近で行われる実感を作り出し、重要な施策にも全員が他人事でなく参加意識を持って取り組む風土となる。トップダウンとボトムアップが同時に機能している。
 重要事項の事前審議は管理運営会議で行い教授会にかかる。この構成は理事長をトップに教学役職全員、事務局長以下事務幹部も加わる全学一体組織だ。ボトムアップで提案された事項も、ここを経て教授会、理事会に提案・承認される。経営の実務は法人本部長(専務理事)が主導、法人本部、大学、専門学校事務局、出版部等を統括している。各部局や委員会には職員も構成員として参加、教員組織と事務組織の連携が進んでいる。小規模を生かし理事長・幹部が業務全般を直接掌握、戦略的意思決定ができる体制と現場からのアイディアを生かす円滑な運営を両立させる。
 人材育成を最優先課題として重視、大学ではまだ数少ない組織的な幹部育成システムを実行する。ML森ノ宮塾と名付けられたこの組織は、次世代を担う人材の発掘・育成を目的に自薦、他薦で24名が参加、講師は学園幹部とコンサルが担当する。学園の理念と歴史、高等教育の状況や課題、学園のSWOT分析、グループ討議などで昨年度は計7回行われた。学園の経営トップ層の育成はNB森ノ宮塾。環境変化を如何に経営に生かすか、理念・ビジョンの検証・再構築、行動指針とその徹底策を、中期経営計画の手法を学びつつ本音で討議、実際にその骨子の策定を行う。対象者は40代中心で、ここから森ノ宮医療学園中期経営計画基本戦略書作成プロジェクトが誕生した。
 年度ごとの事業計画と事業報告書を一対のものとして重視、理事長、役員が各部門長をヒアリング、新規計画の立案、計画進行状況のチェックや総括を行うなどPDCA実質化の努力が行われている。予算書も理事長自らヒアリングを行い作成、理事長直轄の内部監査室を設置、厳正な執行管理を目指している。
企画部門も重視、法人本部に経営管理室、大学にも経営企画室を設置する。第一次中期経営計画(2014年〜2018年度)の策定作業も進行中で、ミッションの実現へ行動計画の具体化、進化を目指す。
トップと現場の活発な議論と徹底したコミュニケーション、迅速な意思決定と行動など専門学校時代から育んだ運営システムが学園に活気ある風土を作りあげている。



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