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平成26年2月 第2552号(2月12日)

 地方私大からの政策提言

  地方小規模私大の現状と課題

松本大学学長  住吉廣行

 地方私立大学には、小規模という形容詞も付随する。定員がせいぜい500名で、収容定員も2000名以下が多い。全国的には定員未充足の大学が50%弱であるが、地方の小規模私大の場合はもっと高い。日本私立学校振興・共済事業団が発表する動向調査では、規模別に充足率の動向を見ている。収容定員が3000名を超えると、「入学者/定員」の平均値が100%を超えている。長野県の私大は最大でも収容定員1350名と小規模で、6私大中4校が定員未充足である。満たしている2私大の内一つは看護系で、もう一つは本学である。
 従って、大学経営の視点から地方小規模私大が直面する焦眉の課題は、定員割れをどう克服するかにあるといっても過言ではない。ここで考え方が分かれる。@大学進学率を高め、社会人入学者も増やす。A受験生(或いは保護者や進路指導者)の選択に任せて自然淘汰し、大学数を減らす。Bある程度の規制を設け、頑張っている地方大学は発展させる。
 社会人入学者が増えない理由―高学費と就職環境
 @について。進学する側から考えると、特に社会人の場合は高額の授業料に見合ったメリットが無ければ入学を躊躇う。しかし、格安にすれば大学経営に資することにはならない。確かに日本は社会人学生が少ないが、授業料無料の国と比べても意味がない。そこで『社会人の授業料を半額程度に抑えるため、受入数に応じ大学に補助金を出す』という政策を提言したい。以前、社会人入学に力を注ぐ短大を調査したが、釧路短大が上手く機能させていた。これは高位の資格を取得することで、ステップアップした職に就く可能性が見えていたからだった。複雑化した社会状況下で、どんな職場でもより高度の知識や技術が求められる時代。他方で大学進学はユニバーサル化しており、必ずしも大学卒業証書が就職先を保証するわけではない。そういう状況を反映してか、大学進学率の頭打ち傾向も出ている。
 少子化時代における人口配置の将来像―大学のCOC機能と地域活性化
 Aについては、50年も経てば全人口も今から25%は減少するので、大学進学率が楽観的に見て60%まで大幅上昇したとしても、18歳人口を対象としている限り、大学受験者も6万人以上は減少する。入学定員1000人規模の大学が60校余が不要ということになる。長野県でも、県内残留率など現状のままだと350人程度(私大の1校分相当)は不要となる。自然淘汰に任せていると、例え進学率が上がっても人口減少には追いつかない。大学が閉鎖に追い込まれると、立地する都市も若い力を失い崩壊の危機に直面する。過疎の農村部で限界集落と名付けられているが、これが町へ小さな市へと波及していく。例えば松本市は24万人が18万人へ、これで今の都市機能が維持できるのか? コンパクト・シティなどの考え方もあるが、もう少し広い視点で『国土の人口配置、その大きな要素としての大学問題』と位置付ける必要がある。大学が元気、だから地方自治体も一緒に元気。或いはその逆。これがCOCが持つ本来の意味合いではなかったか。
 将来の高等教育のあるべき姿を求めて―質保証と必要な規制
 次にBについて。中教審の将来像答申に対応し、どの大学も自らのミッションを考え、その実現に向けアドミッションなど三つのポリシーも設定した。しかし外部からは、学力不足を問題視し、授業時間外学習についても注文が付いている。ほぼ授業料で大学が経営されている地方小規模私大とは違い、国公立大は税金で賄えるのだから思い切って「リメディアル教育などは不要な学生を鍛える」という方向を打ち出すべきだ。政策提言としては『学力低下を嘆かなくて済むよう、大規模大学は質を保証できるところまで定員を削減する』。ただし『学生数に応じた補助金等の急減を避けるための逓減措置をとる』。実際に、学力維持の視点で佐賀大・経済学部や私大大手の早稲田大等、入学定員を減らす方向の取組も出ている。
 人口増加期には、私大に依拠して乗り切った経緯もあった。減少期には『18歳人口のどれくらいの割合を国公立で吸収するか、確固としたプランを立てる』べきだ。さらに数十人という入学者数は地方小規模大学では大きな意味を持つ。そこで、定数を超えて入学させた場合に補助金を削減する制度も1.2倍等の『比率だけではなく、絶対数でも考えるべき』だ。スキージャンプの板の長さも背の低い日本人には不利であったように、比率では地方小規模大学は苦しい。例えば1500人の入学定員を持つ大きな大学では、20%増でもその絶対数は地方小規模私大1校分に匹敵してしまう。
 このような状況だから、今後は学部・学科や大学新設等には慎重な対応が求められる。特に「官」が頑張っている「民」と類似の計画を進め、「民」を苦境に陥れる(例えば長野県)のは論外で、『周囲の大学の同意がないと認可されないシステムの構築』も今後は重要になる。
 自ら改革する私大の姿勢と人材育成―競争的資金の活用と私学助成の増額を
 現在地方小規模私大が感じている矛盾・困難を解消するために様々な希望を述べてきたが、他力本願だけでは乗り越えることは不可能だ。松本大学の場合「大学の規模で優劣のないGP制度」を「自らを省み、将来を展望する機会、自己変革する梃子」として活用し、大学教育改革を旺盛に進めて来た。その延長線上にCOC採択もあったと感じている。こうした『自助努力をエンカレッジする制度を維持・拡大する』べきだ。
 例えば小規模ならオーダーメイドの教育等、それを有利な条件と見なして大学運営・経営に取り込み、学生を真摯に育てていれば評価は後から付いてくる。しかしより積極的に、高大連携の視点も取り入れ、主に知識量を問う試験を排する努力に加え、難しいが『偏差値に代わる大学評価指標を共同で開発する』ことも、グローバル化時代だからこその急務だ。最後に、国の将来を担う人材育成のために『私大への補助金を当面現行の2倍にする』ことを提言として付加しておきたい。


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