Home日本私立大学協会私学高等教育研究所教育学術新聞加盟大学専用サイト
教育学術オンライン

平成25年12月 第2547号(12月18日)

 地方私大からの政策要望

  地域性を考慮した地方への傾斜配分助成を

金沢星稜大学学長 同女子短大部学長  坂野光俊

 今日大学は、キャリア教育の充実、社会人基礎力等の育成、アクティブラーニングの強化等によって、高等教育機関として国際競争力の強化という重い課題に直面している。それらの課題は大学生の75%を擁する私大全体の課題であるが、何より地方私大の課題であるという点に今日的特徴がある。地方私大における人材育成こそが、わが国の将来を決するという死活的重要性をもっていると考えるからである。
 わが国財政が破綻していることは、巨額の債務残高から明らかであるが、今後、税及び社会保険料負担の増大と社会保障・社会福祉サービスの抑制が不可避である。家計負担が増大し家計経済力格差が拡大する。それが直ちに大学進学率の低下に直結するとは簡単には言えないが、地方の高卒者が大都市部の大学に進学し、そこで社会的要請に適合した人材として育ち、地元に帰って活躍するという人材育成パターンの一典型は次第に困難となり、多数の家計では、親元から通学できる形態でないと大学進学できないという傾向が強まらざるを得まい。
 大学進学希望者の地域的配置と大学入学定員の地域間配分との不均衡は、出身地以外の大学に進学する学生が一定数存在するという形で調整されてきたが、出身地域外の大学で学ぶ学生の割合は次第に低下し、自県内進学率(大学進学者のうち出身県内の大学に進学する者の割合)がこの20年間余り全国的に上昇し続けている(平成5年度35.8%、今年度42.3%)。自県内大学に進学した学生数は、平成5年度の約20万人から今年度の約26万人へと約6万人増加した。このことの家計負担軽減効果・地域経済活性化効果は決して小さくはない。
 わが国経済について「失われた10年」とか「失われた20年」とかの表現がしばしばなされ、その際同時に「地域経済の疲弊」が指摘され、地方商店街の「シャッター通り」化が嘆かれてきた。地域経済の活性化、復興にとり、その地に大学が存在することは、極めて重要であることは、今更言うまでもない。
 だからこそ、これまでいくつかの自治体は、公立大学を設置したり、私立大学の地元への誘致を地域社会活性化策の根幹の一つに据えてきた。大学・高等教育機関の存在は、教育面・文化面のみならず、地域経済力の主要な担い手としても位置づけられて来た。今後の我が国の動向を考えた場合、このことは、これまでとは比較にならないほど重要な意味をもつ時代に入っていく。
 高卒生が進学する場合、地元以外の大学に行ける家計の負担能力があるかどうかの経済条件のみで判断するものでない。何よりも学びたい専門分野の学部・学科が地元にあるのかどうか、あったとしても自己の成長が期待できるかどうか等が大きく影響する。ここに、地方私大自身の責務がある。時代や地域社会の要請に適合した質を保持する努力を十分に行うという社会的責任を果たしているかが厳しく問われる。
 経済学の単科大学として1967年に開学した本学は、現在、経済学部と人間科学部の2学部の大学であるが、平成16年度に400名の入学定員に100近く満たない状態に陥った。当時は進学希望者の多くが本学を進学するに値する大学とは見なしていなかったということであった。その後の出口の充実等の大学改革により、地元進学希望者の評価が向上し定員割れを克服でき、本年度の大学全体の入学者は定員(480人)の1.2倍強になった。その分、石川県内の高等教育の充実、文化・芸術活動の活性化のみならず、地域経済への貢献度も増大したと言えよう。石川県の自県内進学者は平成16年度の1768人から本年度の2116人へと348人増加した。また、石川県出身の大学進学者数と石川県内大学に入学した新入生を比較すると平成16年度は新入生の流出超過数が135名であったが、本年度は692名の流入超過となった。これは県内全大学の努力の結果を示すものだが、本学への県内からの進学者の増加が寄与していることも確かである。つまり、一私大の個別的利益が地域全体の利益につながる結果を生んだ。
 本学の建学の精神は「誠実にして社会に役立つ人間の育成」であるが、社会が変化するにつれて「社会に役立つ人材」の姿は変化する。大学教育の革新が多様な形で求められているのは、求められる社会に役立つ人材の育成に現在の大学教育が必ずしも成功しているとは言えないという現実があるからだろう。地域社会時代のグローバル化が進行すれば、グローバル人材の育成が地域社会から求められるのは当然である。
 庶民にとって極めて厳しい生活を強いられる時代に突入し、しかも、その中で大学には今日的人材育成が要請さている。こうした新段階においては従来通りの高等教育政策の継続は破綻する恐れを増大させるだろう。
地域社会に必要とされる大卒人材を、彼等が育った高校の地元で育成できる仕組みを構築することは、地方私大の個別的利益の問題やローカルな問題であるのみならず、わが国の国家戦略の問題でもある。否、21世紀が地球的規模での社会的問題の解決を迫られており、各国で真の意味での国際的教養をもつ人材の育成が喫緊の課題であることを考えると、まさに、グローバル・インタレストの問題でもある。
 資源多消費型の経済活動が持続可能性を失いつつあることは、今や多くの国民の常識となりつつある。同様に高等教育機関としての人材育成も資源節約型(「地産地消型」)の持続可能性を重視した方式を確立することが時代の要請ではなかろうか。
 だとすれば、国の高等教育政策や私学助成政策もそうした観点(例えば、経常費助成や特別助成においても、地域性を考慮したり、地方への配分を割り増しする傾斜配分原則を導入するなど)を明確に打ち出すべきであり、それが新時代にふさわしい政策であると強く思う。

さかの・みつとし
昭和33年京都大卒、平成12年金沢経済大(現金沢星稜大)教授、同17年金沢星稜大副学長兼経済学部長、同20年同大学長・稲置学園理事、同24年同大学学長、同女子短大部学長。


Page Top