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平成25年12月 第2547号(12月18日)

改革の現場
 ミドルのリーダーシップ <58>
 伝統を生かし、堅実な運営
 奈良大学


 奈良大学は1925年、薮内敬治郎氏が向学の精神に溢れる勤労青年のために創設された、薬師寺境内に間借りした南都正強中学(夜間制)に原点がある。1969年に、奈良市宝来町に大学を開学、1988年にキャンパスを全面移転。現在は、文学部、社会学部、通信教育部を設置している。ユニークな学科の設置背景等を市川良哉理事長、石原 潤学長、浅川正美本部事務局長、石井和人事務局長、米田忠史本部事務局次長、中嶋和也広報室長、森脇好幸総務課長、越智和彦学生支援センター教務担当課長、中川富幸同センター学生担当課長、松井 朗入学センター課長に聞いた。
 自己点検評価・報告書には、冒頭に「大和(やまと)」と絡めて建学の精神が記述されているところに、奈良大学の方向性が凝縮されていると言ってよいだろう。考古学と美術史と保存科学を柱に置いた、全国的にも珍しい文化財学科が設置されたのは1979年。全国的に高速道路が整備される計画が進み、その際には発掘調査をしなければならないことから、この調査を行える人材のニーズが高まったことがきっかけだった。
 こうした経緯が体験学習を重視する学風に繋がり、大学の方針として各学科で実践を重点に置いた実習が行われている。例えば、国文学部では天平衣装を着たり、文化財学科では発掘調査を行ったりして、奈良ではの体験的な知識を習得する。また、全国から様々な文化遺産等の修復・保護の依頼があり、その体験学習も行われる。附属図書館には全国の発掘調査報告書が集書され、全国の考古学研究者が訪れる。大学広報も奈良自体の歴史・文化・社会等の研究成果を解説するブックレットシリーズを刊行。ユニークなのは、2013年ですでに7回目を迎える「全国高校生歴史フォーラム」だ。優秀者は、奈良に招待、教員と一緒に奈良の文化財を巡る見学等も用意される。公開講座も当然、奈良・文化遺産にちなんだものと、奈良という地の利を徹底的に生かす。
 一連の改革の発端は臨時定員がなくなる2004年。「約4億円ほどの収入減が見込まれました。そこで、通信教育部を新設して約3億円増収、予算の10%削減で約1億円減を計画しました」。入学者減を背景に、2005年に21世紀長期計画基本構想委員会が設置され、新学部・学科についての構想を含む長期計画基本構想案を答申した。これを受けて同年、通信教育部文化財歴史学科を設置。現在では1500名(平均年齢55歳前後、最高齢91歳)の在籍者があり、大学の一翼を担う。予算の削減は、前年踏襲型予算を止め、目的不明確な支出をカットした。
 開学40周年となった2009年には、やはり入学者の減少等を背景に、中期財政計画を策定し、経営方針や中期・長期目標の設定をした。2010年には、組織改革委員会のもと、教務課と学生課を統合して学習支援センターを設置。以前は学生窓口も別々で縦割りだったが、仕切りもなくして横並びに。学生情報の交換ができるようになり、1人の学生を教職員が一体的に支援することが可能となった。
 一方、大学は、理事長主宰で理事、評議員で構成される戦略的企画会議が重要な会議で、将来を見越した新学部・学科や学生支援、学長選考規程の方向性等を協議して、大学各セクションに伝える。これをいったん現場に返して議論し、理事会で決定する。
 教学組織は学部教授会(学部会)に加えて全学教授会があり、また、学部ごとの委員会の他、全学委員会がある。従って、学部ごとに自立的に決定するというよりは、全学で意思統一をしていく仕組みで、全員が顔を合わせて議論をすることを重視しているという。学部長会は、学長と4人の学部長、事務局長、総務課長が出席。これが日常の情報交換と、簡単な意思決定を行っている。
 SDの特徴的な取り組みは、2011年から学生が訪れる全ての窓口対応に関するアンケートを行っている点だ。「行きやすい雰囲気か」「対応時の態度は適切か」等を質問し、結果を改善に結び付ける。アンケートは、理事長も情報共有している。
 教職協働体制について。全学教授会に、職員は評決はできないが発言はできる。委員会は正規メンバーである。教職員は協力して一人一人の学生の情報交換を行う。確かな教育、確かな研究をしてもらうためには、職員が支えないと達成できないので、そういう自覚は必要になるという。
 奈良大学は、奈良という土地の特色を最大限に生かしつつ、社会人学生の獲得にも成功している。生涯学習型大学に最も近い大学の一つではないかと考えられる。

経営・教学、教員・職員一体となった取組みで特色強化
桜美林大学教授/日本福祉大学学園参事 篠田道夫

 1300年の歴史が息づく奈良、奈良大学はこの風土、伝統文化を生かし、本物を見て、触れて学ぶ体験型の教育を重視する。「奈良が教室」「奈良が図書館」を合言葉に、全学科を通してフィールドワーク中心のカリキュラムを採用、日帰り研修や野外調査、海外の遺跡修復や国内の発掘調査にも参加する。
 1979年、日本初の文化財学科を設置、全ての都道府県出身者が在籍する全国型の学科だ。世界遺産コースもわが国唯一で、このコースを全学部・学科に設置することで学部の枠を超えた共通の学びを作り出す。教養教育が専門教育と並行して1年次から4年次まで置かれ、学部・学科を飛び越えた履修や所属学部に関係なく履修できる全学自由科目が幅広く置かれている。教養部教授会が一般教育のほか、語学、情報、初年次からキャリア・資格教育まで共通教育を一貫してサポートする。
 特色の面倒見の良い教育は、クラス担任制やTA制度を徹底活用、教務・学生課が一体となった学生支援センターもあらゆる面から学生をサポート、キャリアセンター職員は学科担当制で、徹底した個人面談を中心にきめ細かい就職支援を行う。
 教育改善にも努力し、年2回、学生の授業改善アンケート結果に基づき、各教員に自己評価・改善報告書を提出させ冊子にまとめる。これを学生に公表、またアンケート集計結果報告会を開くなど授業評価のフィードバックシステムを作ることで授業改善を促す。FDで授業公開を実施し、終了後、意見交換会も行う。職員も学生窓口を持つすべての課室で窓口アンケートを実施、「相談や質問に行きやすいか」「言葉使いや態度は適切か」などを聞き、評価に基づき改善に努めることで学生満足度は飛躍的に向上した。自己啓発研修補助制度を置き、積極的な職員のさらなる力量向上を支援する。
 こうした運営を作る上で、法人・大学の一体運営の要、理事長が主宰する戦略的企画会議が重要な役割を果たす。ここでは将来計画や大学運営の重要事項を協議、経営・教学の管理者が一堂に会することで連携を強固なものにしてきた。教学部門の意見が理事会に伝わり、また法人運営の方向性が提示され、闊達かつ率直な意見交換が行われる。
 大学の最終意思決定機関は全学教授会で、ここには全教員と事務管理職も参加する。全体の教育研究に関わる方針の審議を行う全学企画委員会や全学教務委員会が機能し、教員人事委員会でも全学的な教員編成や人員計画を検討する。学部や専門分野に偏らない教学運営や人事編成で、大学一体の政策の立案・遂行を実現する。機構改革委員会では委員会の統合や事務組織の見直し、学生目線での事務室配置まで、スムーズな組織運営を目指した改革を進めた。
 2005年には21世紀長期計画基本構想委員会が設置され、長期的視野での教育目標、学部・学科の特色化、人材育成計画や財政計画などを策定した。答申「21世紀長期計画基本構想案」では、世界遺産学科、看護学科、心理学科、観光学科などが提起され、それぞれの利点や問題点を徹底議論、その中から現実性のあるものを着実に形にし、奈良に立地する特性を生かした学部構成に進化させてきた。さらに今後、戦略的企画会議を軸に、新学部・学科の必要性の検討、社会調査学科の強化策、学生の学習支援、学長選考規程の見直し等の直面する重要課題に取り組む。
 これらの推進を財政面から支えるのが第1期・中期財政計画(平成21〜25年度)である。常にこの財政計画をベースに諸事業を行うことで堅実な経営を実現させてきた。すでに第2期計画(平成26〜30年度)の策定が進んでいる。
 こうした一連の改革推進の背景には、定員割れはないが、志願者が減少傾向にあるという厳しい環境がある。1998年、キャンパスを現在地に全面移転、社会学部を増設。2004年には臨定を解消し入学定員を710人から600人に減員、収容定員も440人減り大幅な収入減となった。これに対応し、2005年には通信教育部を新設し規模拡大を図るとともに、予算の10%削減を断行した。前年踏襲型予算を排し、厳格な事業計画に基づく予算を編成、目的の不明確な支出をカット、費用対効果の高い事業に積極的に配分するなど、安定経営を保持する施策を次々に実行してきた。そして平成27年、90周年に飛躍を期す。
 奈良立地の強みを徹底的に生かし、「努力は天才である」という創立者の言葉を堅持し、理事長、学長の方針を浸透させつつ現場との接合を重視、全員参加型の運営で堅実な改革を進めている。


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