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平成25年5月 第2524号(5月22日)

改革の現場
 ミドルのリーダーシップ <43>
 「北陸一の教育大学」目指して
 金沢星稜大学


 金沢星稜大学の起源は、1932年の北陸明正珠算簿記専修学校創立までさかのぼる。その後1967年に金沢経済大学、2002年に現在の校名に名称変更、2007年度より人間科学部が開設され2学部4学科になった。坂野光俊学部長時代の様々な試みが功を奏し、最も勢いのある大学の一つとして注目されている。稲置誠也事務局長、長久保 実入学・広報センター長、小山裕之教務課長に話を聞いた。
 下がり続ける志願倍率を背景に、2000年に第1期改革を敢行したが、学部名称変更等に留まった。2004年、坂野教授が学部長に就任。金沢大学から赴任してきた寺井嘉治元事務局長と「まずはできるところから始めよう、理屈は後からついてくる」と意気投合し、第2期改革が始まった。「教学システムの構築と就職支援の充実について、お二人を中心に新しい動きが生まれました。ドラスティックな動きに教職員は反対する間もありませんでした」と稲置事務局長は振り返る。その結果、志願者は回復路線に転じた。
 代表的な取り組みを紹介しよう。
 キャリア・ディベロップメント・プログラム:税理士・公務員・教員を目指す学生のための特別学習プログラムであり、資格試験の専門家を招聘し、5限と6限に試験勉強を支援する。更に日常的なフォローはエクステンションセンターで行うため、常時きめ細かな指導ができ、また、学生から学生に勉強法が受け継がれていく。これは事務局主導で提案された。
 ダブルゼミ:大学での居場所づくりも兼ねて1年から4年まで週に2回のゼミを開講。一つは、初年次教育、キャリア教育の位置付け、もう一つは、ビジネス能力検定3級(1年次)、2級(2年次)の合格を目指す。後者は、商業高校出身教員が行っていた取組を全学に広げた。受験料は大学負担、教材は基本的に市販本を使用。受験率から合格率まで教授会で開示する。この検定、教職員も受講する。
 星稜ジャンププロジェクト:学生発提案に大学が助成金を付ける仕組みの自己成長プロジェクトである。経緯について、長久保センター長は「もともとは、学生にオープンキャンパスの手伝いを呼びかけたのがきっかけでした。学生も自分たちを頼ってもらえたのが嬉しかったのでしょう、その後も事務局に滞留するようになりました。それを契機に職員と学生の距離を縮め、滞留する場を学生たちと共同で作っていきました。その後、学生たちと企画を考えていく中で、朝から晩まで事務局には常に学生がいる状態になりました。この動きが星稜ジャンプに繋がりました」と説明する。
 就職活動のスイッチを入れる船上合宿「ほしたび」や、4年生へのインタビュー・編集して冊子にするなど、就職活動の支援もユニークだ。「就職活動は大学総出の団体戦です。面接でも周りに同じ大学の学生がいれば安心感もあります。そういうことで、星稜ネクタイを作成し、就職活動生につけてもらっています」。こうした学生たちが出身高校に戻って話をする時、忙しいけど満足しているということが高校の先生や生徒たちに伝わる。評判は電光石火で伝わり、志願者増に結び付いた。「勉強させる大学」の評判も徐々に形成されていった。
 「改革に際しては、人間科学部の効果も大きいです。こども学科の教員は、学生と体験型の取り組みを展開することが多い。事務がこれまで仕掛けてきたことを、正課授業の中で行ったりして、一気に学生支援の取り組みが進みました。」と小山課長は振り返る。
 職員の優れた取組の一つが「星稜TODAY」の発行である。これは、事務組織の各部局が持ち回りで毎日学生向けに発行する、A4判一枚の情報紙であり、学生の取り組みや各部局からのお知らせ等が書かれている。これは寺井元事務局長が金沢大学付属高校時代に始めたもので、同大学に移ってからも発行し続け、現在では部局の仕事となっている。「大変ですが、学内の情報収集・共有になりますし、書くことで文章力、編集力も磨かれます。事務職員が学生に目を向け、様々な取組のきっかけになるとともに、良い能力形成の機会になっています」と稲置事務局長。
 面倒見を良くすると自立心が失われるというジレンマがある。現在の新・星稜ジャンプでは、教職員は手を出さず学生の自力に任せ、自主的に動ける人材の育成を行う予定だという。教職員が徐々に手を引いていくこの仕組みはジレンマを解消する手法として注目したい。

学生による学生支援を軸に自立的な力を育成する
桜美林大学教授/日本福祉大学学園参与 篠田道夫

 いま金沢星稜大学の改革の成果は端的に志願者増に現れている。2004年ボトムが556人、2007年人間科学部を設置した頃から839人と上向き始め、2009年から1000人を突破、2012年は1690人となった。10年前と比べると志願者2.4倍、入学者1.5倍、オープンキャンパス参加者は141人から1169人と8.3倍にもなった。
 ではなぜこうした急成長を遂げ、小規模の地方文系大学が全国的に評価されるのか?それは教学システムの構築と出口への傾注を重点とする3本柱@基礎ゼミナールとビジネス基礎演習のダブルゼミA徹底した自主活動支援の星稜ジャンププロジェクトBCDPを軸とした就職力育成だと自己評価する。この中には、「学生による学生支援」を軸とする星稜独自の巧みな学生成長の仕掛けが含まれている。
 第1は日本でもまだ少ないダブルゼミ。週2回同一クラスメンバーで二つのゼミを必修で学ぶ。ひとつは徹底した基礎学力の養成、もう一つはビジネス能力検定3級を全員合格させる。これまで成功体験の少なかった学生たちにやればできるという自信を付けると共に、就職準備力量向上、居場所作り、仲間作りに大きな効果を表した。
 第2は「星稜ジャンププロジェクト」と銘打つピアサポート。プロジェクトはオープンキャンパスの企画・運営、大学広報活動、就職支援活動等。他大学と異なるのは年8〜9回のオープンキャンパスの方針・計画の立案、実行、評価のPDCAを意図的に体験させ、また新入生向け『キャンパスガイド』の編集や就職が決まった4年生に3年生がインタビューし冊子にまとめるなど全てを学生に任せ自立的力をつけようとしている点。その他にも大学活性化、学生支援、国際交流、地域活性化等のテーマで企画をプレゼンし、採択されれば活動費は大学から出る「ジャンプチャレンジ企画」。4月、学生と教職員で1年間の目標を設定、年度末には達成の振り返りを行う「ジャンプアクション」。学生の自主活動や学習行動に必要な知識・能力を育成し核となる学生を作る講座「ジャンプワークショップ」など学生の自立成長のための多様な企画を準備する。事務室が学生ホールになったと言われるように、学生が大学に滞留する仕掛けづくりを徹底する。
 第3は総合的で多彩な就職支援。進路支援センターが中心となり、就職ガイダンスは3年次後期からはほぼ毎週開催、200社以上の学内合同企業説明会、全学生との個別面談、3年次には就職合宿も行う。1〜3年次生対象の合宿クルーズで北海道、上海に航海し船上研修する「ほしたび」。独自の就職支援サイト「ほしなび」。内定学生が下級生を支援する指導アドバイザー制度、3年生編集の内定学生活動集発刊など、ここでもピアサポートが威力を発揮する。さらにエクステンションセンターでは格安の授業料で多くの資格講座を開催、CDP・キャリアディベロップメントプログラムとして公務員、税理士、小学校教諭等の難関試験の合格をサポートする。就活オリジナルネクタイ・リボン、履歴書用写真撮影会、メーキャップ講座などなど星稜オリジナルの就活ノウハウの詰まった支援ツールを編み出してきた。この結果、就職率は全国平均を15%〜20%上回る99.2%。卒業生比でも81.5%(2011年)、上場・店頭公開企業内定率を6年で0.9%から39%へ急上昇させた。
 2004年から改革を主導したのは、同年から学部長に就任した坂野現学長、同じく事務局長に就任した寺井元常務理事、そして危機意識を共有し未経験な「自己流改革」に挑戦し続けてきた教職員の力がある。かつては授業終了前にカウンターを閉め終業するなど古い体質の事務局から、いかにして教育改革を先導する事務局に生まれ変わったか。そのきっかけは、職員による学生向け日刊ミニ情報誌「星稜TODAY」の発刊にある。駄目だ駄目だと言っていないで何か日本一になることをやろうではないかと繰り返し訴える中で始まったこの取り組みが職員を変え、学内情報に強くなり、文章力が向上、学生そして教育への関心と関与、提案を強めて言った。そのあたりのいきさつは『私学経営』(2012年10月号)に詳しいが、前述の企画の多くは職員、課長などからの提案や実践をベースに始まっている。
 面倒見を良くするだけでは自立心が損なわれ、指示待ちになる。基礎教育、自主的に動く機会、学生同士の支援を巧みに組み合わせ、真の自立的な力を育成、就職に結実させ評価を高めることで「北陸一の教育大学」創りを進めている。



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