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平成25年2月 第2515号(2月27日)

改革の現場
 ミドルのリーダーシップ <40>
 「アクションプラン60」軸に着実な改革
 福井工業大学


 福井工業大学は、1950年に創設された北陸電気学校を起源とする。1965年に大学が開学し、工学部のみの単科系ながら、電気、機械、建築、化学、原子力、デザイン、経営情報など地域ニーズに応じ幅広い学科・専攻を開設してきた。就職率は97.3%と高く、就職後の離職率も低いとの調査結果も出ている。佐野清克大学事務局長、柏正信次長、堀田裕一次長、松浦悦郎法人経営企画部長(現海外事業部長)、渡邉徹也法人総務部長に同大学の改革状況を聞いた。
 同大学の特色ある教育は次の二つが挙げられよう。「フリー・トーキング・アワーズ(FTH)」と「創成科学」である。教養と専門を融合し、学生が主体的に取り組むことを重視している。
 FTH(2000年度〜)は、少人数グループ(5〜7名)で寺子屋式感覚の授業を行い、学生に学問の魅力や必要性などを教示し、学習意欲と適正能力の啓発を図り積極的な学習への取り組みを勧めることで、日常生活から進学、就職、将来や人生の諸問題に至るまで、担当教員の助言とコミュニケーション能力の会得を指導することを目的とする。一方、創成科学(2001年度〜)は問題解決型の学生を育成する試みで、いわば「ミニ卒業研究」を行う。大学教育の重要な要素である問題発見とその解決能力を養い、理論的思考ならびに討論・検討・発表能力を高めるために有効である。「研究内容は創成科学部会で評価し、前後期で優秀賞や努力賞を授与したり、教授会で発表してもらったりしています。FTHでは、各教員の優れた取組を共有・議論して冊子にまとめています」と堀田次長が解説する。
 就職率の高さは、教職員のあきらめない支援と、歴史と伝統に裏打ちされた地域産業界との信頼と情報網の賜物であると言う。「地域のモノづくり企業では研究中心の大手大学の卒業生ではなく、現場でのコミュニケーション力を生かし、積極的な態度を身につけた技術者を必要としています。福井市は、知り合いの知り合いが町工場の社長という規模の都市ですから、どういう人材が必要か、地域のニーズを丁寧に吸い上げることができます。中小企業の後継者問題にも真剣に向き合っています。だからこそ、マッチングがうまくいき、就職率も高くなります」と佐野事務局長。
 このような地域企業では、やはりグローバルな対応が最近のトレンド。「エンジニアとして、中国やタイなどアジアに商談に行って欲しい、と言われたときに、「英会話には自信がある」と言える逞しい人材を育成したい。そのために、英会話を中心とした本学独自の英語教育プログラム「SPEC」によってコミュニケーション力が育つよう力を入れています」と柏次長は説明する。
 特徴的なFDは、2001年から年2回、全教員を対象に授業法やキャリア教育をテーマに、4、5名の教員が講演するシンポジウムを行っている。また、「FDコミュニケーションズ」というかわら版新聞を学内教職員に配布しており、新任教員が1年を過ぎての所感を書いたり、学長がFD目標を書いたり、創成科学の成果を発表する内容となっている。
 SDについては、理事長が若い教職員のアイデアを取り入れたいということで始まった「学園プロジェクト」が挙げられよう。教職員がチームを組んで、部局横断のプロジェクトテーマを決め、最終的には幹部の前でプレゼンテーションを行う。部局間連携が生まれ、参加した職員にリーダーシップや自信がついたという。
 このような同大学のアキレス腱が財政問題。金井理事長からは、2013年を目指して収支バランスを取ることについて、「教育の質は維持しつつ、経費等を削減せよ」と指示を受けた。教育については、少人数教育を進めていく中で、年間1000を超す開講コマ数になったが、そのうちの3、4割が受講者が10名以下の専門科目であり、学科の専門教育としてのミニマムエッセンシャルズを決めることにし、2013年度からは専任教員の削減も含めて大幅にカリキュラムの再編を行う。「教員から抵抗があるかもしれませんが、現状の財政状況を理解してもらい削減します」と渡邉部長は説明する。
 職員組織については、前例踏襲主義や惰性で行っていた事業があるので責任を持って止めることにした。また、予算を一割削減すると伝えると、「代わりにこういう事業をやります」という現場の意見も出てくる。例えば、社会貢献活動は、社会貢献課を設置して、これまで各教職員がバラバラで行っていたものを一本化して効率化した。
 こうした中、2009年度から五年間の中期経営計画に当たる「アクションプラン60」は、経営企画部によって各部局にヒアリングのうえ立案され、2009年に常任理事会で決議した。「日頃から金井理事長が朝礼などで話したり、文章で書いたりしたものをまとめて基本方針としてきちっと明文化し、それを基に各学校や各部局の具体的な目標を現場で組み立てようということになりました」と松浦部長は語る。毎年1月の常任理事会で方針が示され、プランの実施状況が中間報告され、年度末に各部局から役員へのプレゼンテーションという形で総括が行われる。定員割れをして4年経っていた危機感もあり、理事長・学長の考え方に基づいて、全学的に組織がまとまろうという機運があったという。
 伝統に裏打ちされた強い総合力をもって、更に飛躍するため、現在は力を溜めている最中にも見えた。

徹底した少人数教育で北陸トップの就職率を維持
日本福祉大学常任理事/桜美林大学大学院教授 篠田道夫

 学校法人金井学園・福井工業大学は「アクションプラン60」の4年目の仕上げの時期を迎え、建築生活環境学科の新設、教育の本格的な充実、高い就職率の維持・向上、財政安定化を軸とした厳しい経営改革に挑んでいる。「アクションプラン60」(中期経営計画)は、8項目の重点、選ばれる学校を目指す教育力の向上、中高大の連携、社会貢献活動や産学共同研究の推進、教職員の人材養成等を柱に据える。金井理事長の強いリーダーシップの下、経営企画部が調査・企画・原案作成し、理事会で決定して全学提示するトップダウン型だ。しかし、その具体化は各校に基本的に任され、大学の場合は学長が「経営目標の達成のための大学改革―平成24年度の計画」などとして具体化、教学充実と経営目標の具体化を提示する。
 この進捗状況は常任理事会に報告され、成果の評価・承認、指摘事項があれば次年度計画へ反映されるPDCAサイクルを実行している。「アクションプラン60」中間報告書に記載された内容は、テーマ、項目、担当部署別に極めて具体的で、項目ごとに、現状・問題点・改善事項・収集資料を記載する形式で、方針一つひとつを曖昧にせず、確実に実行に結び付ける仕組みとなっている。
 具体的な改善行動を作り出す上では、職員の多数を結集する横断的な学園プロジェクトも大きな役割を果たす。4年間で延べ33のプロジェクトが活動、チームで調査、議論、提案、有効なものを実践に移す活動を通して政策の浸透、参加意識が大きく高まった。
 学長が提起する大学の中期目標・計画では、アクションプランに対応し8つの柱を掲げる。特に「全てを学生のために―選ばれる大学づくり」の実現に向け、初年次教育の充実、授業改善、成績上位クラスの教育充実、学習到達度の把握、FD活動の日常化等を掲げる。
 特に、キメ細かい教育による学生育成を重視、前述の特色ある教育を必修で行う。1年次は大学生としての心構え、3年次は社会に出る心構えを育成する。授業内容報告書の提出を全担当教員に求め、優れた取り組みを冊子として発行し共有することで教育力向上の役割を果たす。2年次必修科目の創成科学は数名の学生を全教員が担当する。英語、数学、物理などは習熟度別クラス編成で、またグローカル教育と称し、話す力と併せ、地元企業が求める長期出張、海外赴任に耐えられる逞しい人材の育成を行う。
 97.3%、私立理工系大学で北陸2位、全国5位の就職率(2012年3月)は、こうした学生一人一人に家庭教師のように密着し力をつける教育の成果でもあるが、キャリアセンターの行う支援の内容・質も就職の成否につながっている。面接練習、履歴書添削、徹底したカウンセリング、キャリアセンターに足を運ぶことを習慣化させ、担当教員とセンター職員が情報共有し最後まで学生を支援し続ける。このような取り組みと地域社会が求める現場で前向きに働ける元気のよい技術者というニーズと養成人材がマッチし、入学者は着実に上昇、全学科定員確保も射程に入った。
 収入増が見込めない中でも財政の安定化を実現すべく、経営・財政の思い切った改革にも着手している。経費削減目標3億円を掲げ、教育の質を上げるためにも開講コマ数の大幅削減、これまで10人以下のクラスサイズが3〜4割を占めていたものを10人程度に平準化、人件費削減のため設置基準よりかなり多かった教員人員を思い切って減員、諸手当削減、センターや委員会の整理統合や事務局への移管などの経営改革を進めている。
 アクションプラン60や中期目標・計画の旗印を年度ごとにしっかり掲げ、多くの教職員を実践に巻き込み、学生をしっかりした社会人として送り出すことで厳しい地方の競争環境の中で着実な前進を実現している。



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