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平成25年2月 第2513号(2月13日)

 地域創職 ソーシャルビジネスと若者  終

 実践型インターンシッププログラムの作り方
 NPO法人ETIC. マネージャー 伊藤淳司

 
 過去4回の連載で扱ってきた内閣府地域社会雇用創造事業「ソーシャルビジネスエコシステム創出プロジェクト〜ソーシャルビジネスインターンシップ事業〜」では、地域社会における「大学×コーディネート機関」が実施する正課の短期実践型インターンシップ(事前研修+現場実習+事後研修=180時間)の事例を紹介してきた。
 地域の多様な関係性の中で若者たちが育まれるだけではなく、その若者が媒介となって受け入れ側で新たな挑戦が生まれた。またそれを地域の他の関係者が関わり応援をしていくことで、地域の課題解決に向けて一つの事業が生まれていく挑戦の生態系とも言える事例も誕生した。
 最終の第5回では、今後、実践型インターンシップを各地で実施する際の具体的な「プログラム(プロジェクト)の作り方」について触れたい。

プログラムの作り方
 地域の中小企業と連携して実施する実践型インターンシップのプログラム作りには以下の三つのポイントがある。
@企業の受入メリットを考えた設計
 学生が企業活動の中に一緒に入り込み、何かしらの協働プロジェクトを共に実施する実践型インターンシップでは、受入側の学生に対する期待が高いこと、すなわち、経営者が社員に任せるにはまだ早いが、どうしても次に挑戦したい、試したいことを切り出せるかが重要だ。経営者にとって「本気の現場」を用意することで学生への期待も高まり、受入企業も、地域貢献として学生を単なるお客さんとして受け入れるのでもなく、また逆に安価な労働力(単純作業の繰り返し等)として扱うのでもなく、一人のパートナーとして学生を迎え入れる環境が用意できる。
A仮説があるか
 本気の現場の取り組みだが、学生に丸投げをするのではなく、当然、経営者側に「仮説」が必要である。例えば、老舗のモノづくりメーカーで新たな自社の新商品開発をしたいが「学生の若い視点で何でも提案して欲しい」ではなく「ターゲットは若い夫婦向けが自分は良いのではないかと思っている」など、経営者なりの方向性や仮説があると良い。学生の得意分野である行動力を活かし、時間をかけて丁寧に小さなことを積み重ねる現場でのマーケティングリサーチやヒアリングなどはインターン生が力を発揮しやすい内容である。
B顧客の声と接する現場がある
 本気の現場で仮説に基づいて実施するプロジェクトが用意できたら、次にインターン生が実習中に「顧客」と接点を持つ機会を用意することが重要だ。例えば、生花の小売り事業を展開する企業が、個人宅向けの生花宅配事業立ち上げを検討しており、その実現可能性をインターン生と共に検討したいという事例の場合、机上で数字だけを考えネットでマーケティングやリサーチするだけではなく、インターン生が該当する地区の駅前で実際に顧客となる人たちに200名の街頭インタビューを行った。多くの顧客対象者と接することで、インターン生は経営者より多くの「現場の声」がインプットされ、現場の声を活かしながら学生本来の「若い視点」を加えることで、より実現可能性が高い提案が可能となる。ちなみに生花宅配事業は、最終的にインターン生たちが事業化は難しいという提案を行い、経営者側も断念したという結果となった。
 これらは、受入企業の中での実際のプロジェクト設計におけるポイントだが、他にも事前学習において学生が「動機づけ」されるためのカリキュラム作り、また、実習中の日報制度を活用した「日々の振り返りと落とし込み」も重要なポイントである。学生時代に挫折・葛藤経験を持っているか、また、困難な状況に立ち向かうことで一皮むける経験を持っているか。さらに、そうした経験を修了後に自己認識しているかどうか。答えの見えない状況の中で人と信頼関係を築くことができる「場づくり」をしているか。こうした視点も、学生も受入企業にも利得がある実践型インターンシップのプログラム作りには必要である。

コーディネート機能の類型
 これまで紹介してきた実践型インターンシッププログラムを実施するには、学生・受入企業・大学・自治体などをつなぐ「コーディネート機能」が重要になってくる。こうしたコーディネート機能が確立されている地域には、コーディネート役が現場をつなぎ、若者と地域資源を繋ぎながら、地域の新しいチャレンジを生み出していくという動きが生まれてきている。
 コーディネート機能を担う主体は以下の三つのパターンに類型化される。
@専門機関:これまでの連載でも取り上げたように地域の専門のNPOや株式会社が運営するコーディネート機関が担う(例:チャレンジ・コミュニティ・プロジェクトの「チャレンジ・プロデューサー」等)
A大学内に設置:学内に専任の人材を設置するのは難しいが、多様な財源を活用して採用したコーディネート専門人材が担う
B商工会議所に設置:地域の中小企業振興の観点からも経済団体内の職員がその役割を担う事例もある。(例:尾鷲商工会議所で実践型インターンシップを会議所の事業として実施。二名の職員がコーディネート機能を担っている)
 「チャレンジ・コミュニティ・プロジェクト(事務局:NPO法人ETIC.)」では、2004年から、こうした「コーディネート機能:つなぎ役」を担う全国約30地域のパートナー団体と共に地域の次世代を担う人材育成を実践型インターンシップという手法を通じて取り組んできた。

地域で求められる「業」を起こす人材を育てるには?
 この取り組みを通じて、日本各地で抱える「地域における仕事づくり」という課題の解決に、若者の存在が大きなカギを握っているということが見えてきた。起業家精神を持ち、何かに依存することなく自立して行動していける力を持った若者たちは、これまで企業や行政がカバーしてこなかったニーズ、新しい困難な地域課題に挑戦し、それを解決していくことが可能だという事例がたくさん現れてきたからだ。若者にとって、これまでの大企業のような終身雇用に身を任せられる時代はもはや存在せず、会社が生活や働きがいの保障をしてもくれるわけではない。自分で仕事を作っていける力、新しい領域を開拓していく起業家精神が必要になり、地域社会一体となって、そうした人材を育てる動きも多くの地域で顕在化している。
 地域の「コーディネート機能(コーディネーター役)」という存在は、こうした若者のために挑戦の場を創り、様々な資源を繋いで新しい価値を創っていく役割を果たすが、コーディネーターや企業、若者に加えて、大学、自治体などの各セクターも、それぞれが当事者意識を持って、自分たちの役割を担うことができる。逆に言うと、地域のすべての立場の人が当事者になれるし、地域の仕事づくりを創造していく役割があるのだと考えることができる。
 チャレンジ・コミュニティ・プロジェクトでは、このようなコーディネート機能が全国に展開するように、2013年4月からコーディネーター養成講座も開講予定である。多くのコーディネーターがより効果的な実践型インターンシップを推進できるように、大学関係者の方々含めて各方面と連携していきたい。

〈お知らせ〉
 チャレンジ・コミュニティ・プロジェクト(事務局:NPO法人ETIC.)では、全国14地域の実践型インターンシップの事例集を作成しています。
 「好きなまちで仕事を創る〜大学生・若手社会人編2013」(税込1000円)
 ご関心のある方は、ETIC.(03―5784―2115 担当:瀬沼)までご連絡ください。

 

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