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平成24年8月 第2494号(8月22日)

【知の拠点から】
  Fukkaで行う運動教室〜地域の笑顔と大学教育の一体化〜
  

関西福祉科学大学保健医療学部
リハビリテーション学科 教授  野村卓生


 関西福祉科学大学(Fukka)は、平成9年に社会福祉学部社会福祉学科をもって開設し、平成13年に大学院社会福祉学研究科臨床福祉学専攻修士課程(現在は博士前期課程)を開設しました。平成15年には社会福祉学部臨床心理学科、健康福祉学部(健康科学科、福祉栄養学科)、大学院社会福祉学研究科臨床福祉学専攻博士後期課程および心理臨床学専攻修士課程を開設してきました。平成22年には同法人の関西医療技術専門学校理学療法学科・作業療法学科を前身とした保健医療学部リハビリテーション学科理学療法学専攻・作業療法学専攻の設置が認可され、平成23年4月1日に第1期生を迎え入れました。保健医療学部では、「医療人としての人の幸せを願う豊かなこころと教養および基礎知識を身につけると共に、リハビリテーション科学の発展と専門分化に追随し、応用できる知識と技術、および『超高齢社会』・『障がい児・者の支援』に対応する福祉科学を理解した、指導力と協調性を有する人材を育成する」ことを教育目的・目標として、全教員が一丸となって学生教育へ熱心に関わっています。保健医療学部リハビリテーション学科では、理学療法学専攻と作業療法学専攻の専門領域をそれぞれ五領域設定し、リハビリテーション科学の発展と専門分化に対応するようにしています。また、同学部では研究成果の社会還元、研究を通した地域貢献、リハビリテーション科学の発展に寄与することを目指して、スポーツリハビリテーション研究室、生活支援研究室、先端医療研究室の三つの研究室が設置されています。本稿では、スポーツリハビリテーション研究室の取り組みの一つである地域高齢者の健康づくりを目的とした運動教室を紹介します。
 日本における65歳以上人口は平成9年に1975万人(総人口の15.6%)、平成19年には約800万人増加し、平成37年には総人口の約30%が65歳以上になることが予測されています。欧米諸国に比較して、65歳以上人口の増加が急速であることが日本の特徴であり、介護を必要としないための高齢者の体力づくりは重要な課題となっています。一方、日本においては、動脈硬化が主な病因となる脳血管疾患や循環器系の疾患による死亡は全死亡数の38.8%(厚生労働省:平成22年人口動態統計)を占め、また、脳血管疾患と心疾患が原因で要介護状態となる割合も全要介護者の27.3%(厚生労働省:平成22年国民生活基礎調査の概要)を占めているのが現状です。加齢に伴い動脈硬化性疾患のリスクが高くなることは明白です。介護を必要としない状態を長く維持すためには、体力づくりとともに動脈硬化性疾患の予防等、総合的な視点をもって取り組んでいくことが必要です。
 太極拳は中国古来の伝統武術の一つであり、特別な用具や場所を必要とせず、高齢者にも適応可能な運動の一つとして知られています。太極拳を継続することで、高齢者の体力づくりや動脈硬化性疾患の予防・治療に有効である知見も様々な国から報告されています。しかしながら、太極拳の実践には一定の筋力やバランス能力が必要ですので、これまでに運動習慣がない、あるいは身体機能が低下した虚弱高齢者ではその実践が困難でした。そこで、虚弱高齢者でも「楽しく」、「安全に」、「気軽に」、「一人でもできる」、「長期に継続できる」をテーマとして、太極拳の要素を取り入れた体操『太極拳ゆったり体操』が福島県喜多方市で開発されました。『太極拳ゆったり体操』の特徴の一つとして、立って行う方法もありますが、座ってできる方法も用意されています。私たちはこれまでにこの体操を用いて、元気高齢者および虚弱高齢者を対象として、それぞれ大阪府堺市・枚方市で体操の短期継続が身体機能に与える影響を平成18年度から19年度にかけて検証してきました(JRHS:2007・AGG:2011)。結果、体操を3ヶ月間継続することで、元気・虚弱高齢者双方において、バランスや生活活動能力の向上など、身体機能の向上が認められました。平成23年には、その後の実態調査を行い、堺市において運動教室が地域住民主体となって継続されているのを確認しました。70歳を超える対象者からは「体操を続けていたらジャンプができるようになりました」などの発言も認められ、運動の継続は明らかに体力づくりに役立っていると感じました。さらに、『太極拳ゆったり体操』の開発者である福島県立医科大学公衆衛生学講座の安村誠司教授らの研究グループは、体操の長期継続によって新規の要介護認定の発生を抑制できると報告しています(日老医誌:2011)。
 『太極拳ゆったり体操』による身体機能の向上を中心とした介護予防効果は示されていますが、体操による動脈硬化性疾患の予防効果は明らかにされていません。前述しましたが、介護を必要としない状態を長く維持するためには、体力づくりとともに動脈硬化性疾患の予防など、総合的な視点をもって取り組んでいくことが必要です。そこでスポーツリハビリテーション研究室では、動脈硬化性疾患と密接に関連する動脈硬化関連指数(Cardio Ankle Vascular Index:以下、CAVI)を評価の指標として、地域の元気高齢者を対象として、平成24年1月から同大4号館の一室で体操の教室を開催しています(UMIN試験ID:UMIN000006991)。運動教室は、1回に60分とし、先ず健康情報や運動の効果等に関するミニレクチャーを10分程度行います。次いでウォーミングアップを行った上で、休憩をはさみながら体操を実施します。3ヶ月の間、週に1回の教室を開催してきました。4ヶ月目以降からは2週間に1回の教室を1年間にわたり開講する計画です。教室の参加者からは、Fukkaで行う運動教室について、「非常に満足している」もしくは「満足している」という回答が笑顔とともに認められています。
 今回紹介したスポーツリハビリテーション研究室の取り組みにおいては、3ヶ月毎のCAVIの評価に加えて、各種の体力測定を行っています。保健医療学部の学生を運動教室に参加させ、高齢者との触れ合いの中で社会人・医療人としての接遇マナーを学ばせます。また、体操の効果判定のための検査・測定を補助させる中で、医療専門職に必要な実践能力を教育しています。運動教室は、飲みものや茶菓子を用意し、“集い場”的な要素を取り入れ、住民同士のふれあいの場ともなるように運営しています。運動教室終了後も、社会還元・地域貢献を念頭に置いた取り組みを継続していき、そこに大学教育も一体化し、地域とともに魅力的な大学、オンリーワンの学部として発展していきたいと考えています。
 スポーツリハビリテーション研究室では、今回紹介した太極拳ゆったり体操を用いた運動教室以外にもノルディックウォーキング教室の開講など、地域に根差した住民の健康づくりに関する様々な取り組みを開催しています。また、今回は詳細を紹介できなかった生活支援研究室、先端医療研究室の活動についても大学ホームページ・広報誌などを通して広く一般公開していく予定です。スポーツリハビリテーション研究室、生活支援研究室、先端医療研究室の活動や研究成果へのお問い合わせは、同大事務局(柏原市旭ヶ丘3―11―1、TEL072―978―0088(代表)まで。


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