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教育学術オンライン

平成24年3月 第2476号(3月28日)

大学は往く 新しい学園像を求めて〈40〉
  帝塚山学院大学
  「人間力」持つ学生を育成
  男女共学化順調に推移 地域とともにある大学

 トータルな人間教育を行う、幼稚園から大学院までを設置する総合学園である。帝塚山学院大学(酒井信雄学長、大阪府大阪狭山市、堺市)は、面倒見の良い、地域に愛される大学をめざす。短期大学、女子大学時代は、大阪屈指のお嬢さん大学として知られていた。2007年4月から完全男女共学化を実施。現在は、男女比は半々より、女子が若干多い構成。前身の帝塚山学院小学校(大阪市住吉区)の卒業生には、芥川賞作家の阪田寛夫、庄野潤三、サッカー日本代表監督の岡田武史、テレビキャスターの国谷裕子ら錚々たる顔ぶれ。帝塚山学院大の教育面では、特色あるカリキュラムと現代社会のニーズに応える教養・専門教育、キャリア教育が特長だ。「知性と感性を備え、自らの可能性を伸ばしていける、真の『力ある人』を育てています」と学長。男女共学化や教養・専門・キャリア教育、そして大学のこれから、などを学長に尋ねた。(文中敬称略)

前身の小学校著名人を輩出 「力の教育」が建学の精神

  「帝塚山」という名称は大阪市住吉区帝塚山に由来する。前身である帝塚山学院小学校が1917年に設置された場所である。帝塚山には同学院設立の中心となった大阪船場の木綿商たちの邸宅が多く存在した。
 帝塚山学院小学校は、男女共学だが、併設の帝塚山学院中学校は女子校だ。このため、男子児童は同系列校で共学校の帝塚山学院泉ヶ丘中学校、または他の中学校に進学するそうだ。
 帝塚山学院短期大学は、戦後まもない1950年に設立された。「小野十三郎、寿岳文章、庄野英二、杉山平一、長沖一といった錚々たる教授陣と女子学生たちの豊かな人間的交流があったそうです」と学長の酒井。
 帝塚山学院大学は1966年、文学部(日本文学科、英文学科、美学美術史学科)1学部で開学した。98年、泉ヶ丘キャンパスを開設、短期大学を改組して人間文化学部(文化学科、人間学科)を設置した。
 酒井が帝塚山学院大学を語る。「帝塚山学院は大正5年の学院開設以来、90余年の伝統があります。『意志の力、情の力、知の力、躯幹の力』を備えた、有為な人材を社会に送り出す『力の教育』を建学の精神として掲げてきました。2学部4学科体制のもと、バランスの取れた、『人間力』を持つ学生を育成していくのが本学の役割だと考えています」
 帝塚山学院大は、1999年、帝塚山学院短期大学の廃止に伴い、矢継ぎ早に改革を行う。2002年、文学部英文学科を英語コミュニケーション学科に、美学美術史学科を芸術学科に改称。
 03年、人間文化学部を共学化。06年、人間文化学部に食物栄養学科を開設。07年、文学部を男女共学化。09年、文学部を改組し、リベラルアーツ学部を設置。人間文化学部を名称変更して人間科学部とした。
 現在、リベラルアーツ学部(リベラルアーツ学科)が狭山キャンパス(大阪府大阪狭山市)、人間科学部(情報メディア学科、心理学科、食物栄養学科)が泉ヶ丘キャンパス(大阪府堺市南区)で、2学部に2027人、大学院生を含むと2074人の学生が学ぶ。
 男女共学化を聞いた。両学部とも、共学にした年は、7・3と女子が多かったが、年を追うごとに男子が増えていき、5・5に近づいていったそうだ。
 「大正時代から女子教育の伝統を誇ってきましたが、時代の要請と、今まで以上に、社会に有為な人材を送り出したいということから共学化に踏み切りました。共学化にあたっては、心理、メディア系の学科を設けるなど学部学科の再編に腐心しました」
 教育について。リベラルアーツ学部は、総合的・学際的教養力を養成し、段階的に専門性を追求する。「九専攻あり、英語とマスコミ、中国語とアート、というように専攻を組み合わせることもできます。英語教員になるにしても、幅広い教養を身につけた教員をめざしています」
 人間科学部は、心の心理学科、体の食物栄養学科、暮らしの情報メディア学科、という3学科を擁する。「心、体、暮らしという人間を取り巻く諸問題に科学的な視点からアプローチします。食物栄養学科は管理栄養士を養成しています」
 学部学科間のハードルが低い。「学部学科間の垣根を越えて学ぶことができます。一つの専門分野にとどまることなく、より広く総合的・学際的教養力を身につけ、基本的な学問研究の方法を修得し、『自立した学習者』をめざします」
 初年次教育にも力を入れる。早期に入学を決めた学生を対象に行う入学前教育。「高大接続をソフトランディングさせるため、作文の添削、授業とクラブ活動における時間の管理から、パソコンの使い方やプレゼンテーションの仕方なども学びます」
 作文やレポートを書くことを全学的に行っている。「文章を書くこと」は就業力にも結び付く。「建学の精神である『自学自習』、そして基礎力を培うため、文章を書くことは必修科目。新聞記者出身の講師たちが担当、希望者には『自分物語講座』を開講、自分史を紡ぐことで文章力、表現力を磨いています」
インターンシップ充実
 キャリア教育、インターンシップ・実習が充実している。実習や実験、職場体験など実際の経験を通して、現場で必要な実践力を養う。ユニークなのは、「プロジェクト型インターンシップ」。
 「企業に対して、学生の目線で調査、課題を見つけて提案しています。若年層を顧客にするにはこうすべき、と大手ホテルに提案しました。学生同士で議論し、企業にはプレゼンをしてお返しします。企業に入る前に就業現場を知るいい機会にもなります」
 教育開発・支援センター(CEDS)は、帝塚山学院大の「もうひとつの学び」だ。学生支援体制の強化、教育・研究の充実と整備と、地域の知の拠点として、地域と大学をつなぐさまざまなプロジェクトの開発・運営に取り組む。
 学生支援の「CEDSプログラム」。英語や中国語、ハングル講座など正課授業以外の授業が自由に受講できる。「セッズ(CEDS)アシスタントの学生は、CEDSの教職員とともにタッチタイピングコンテストやプレゼンテーションコンテストなどを企画運営しています」
学生が地域貢献に汗
 地域貢献では、2006年、大阪狭山市と「生涯学習推進に関する協定」を結んだ。「人材の育成や活力ある地域社会の創造に寄与する、というのが目的。学生が狭山池まつりや三津屋川の清掃など世代を超え市民と汗を流しています」
 学生が教室から出て、地方自治体の課題を考えたり、行政の仕組みを学ぶことに重きを置く。堺市からは「子ども電話相談」を受託。「大学院人間科学部研究科臨床心理学専攻大学院生や卒業修了生が、堺市民の『心の悩み』の電話相談に応えています。すっかり地域に根をおろしました」
 学校法人帝塚山学院は、2016年に創立100周年を迎える。記念事業として大阪・住吉校学舎に「同窓生顕彰記念ホール(仮称)」を建設。「芥川賞作家の庄野潤三、阪田寛夫の著書や自筆原稿などの展示や文化勲章、文化功労者、直木賞などを受賞した同窓生を顕彰する施設です」
 大学のこれからを聞いた。「変化する社会、グローバル化の波に、どれだけ柔軟に対応できるか。帝塚山学院は英語教育には定評があります。新しい時代に基礎力を備え、自信溢れた学生を育てることが要諦です」
 「資格取得も大切ですが、しっかりした教養を身につけ、社会に目を開き、社会に役立つ人材を育てるため、これからも教職員一丸となってサポートしていきたい」
 酒井は「地域に密着した大学」、「地域の中で育つ学生」、「建学の精神である自学自習を育む大学」を繰り返した。建学の精神を忘れず、地域とともにある大学が学長の描く大学の形だ。いまも、そして、これからも。


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