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教育学術オンライン

平成24年3月 第2474号(3月7日)

相互研修型SDの提案
  職員の気付きを改革に結び付ける


  教育学術新聞では、2011年7月より、日本福祉大学常任理事の篠田道夫氏の協力を得て、「改革の現場―ミドルのリーダーシップ」を連載しているが、これを通して、改革に一定の成功が見られる大学の共通点の一つとして、ある特徴的な研修が行われていることが見えてきた。講師を招いての研修でもなければ、職場でのOJTでもない。いわば、「相互研修型」とでも言うべき新しいSDの形である。

 相互研修型の「FD」は、京都大学教育開発研究促進センターが提唱しており、外部から専門家を招いてFD研修を行うのではなく、教員相互の授業参観や意見交換によって授業改善を行うものである。このたびのSDについても、類似のスキームが見てとれた。
 松本大学では、月に一度全職員が一同に集まり、若手一人に仕事の進捗を発表させている。筑紫女学園大学では、夏休みに一度、全教職員が講堂に集まり、教学と事務から毎年交互に年次報告等を発表している。東京電機大学では、一人15分程度にまとめて100名の職員の前で発表を行うワークショップ研修を行っている。神田外語大学では月に二度、各部署から若手一人が参加し、部署の報告と学内提案をまとめて発表を行う。終了後には議事録がイントラネットで共有される。
 各大学で共通するこれらの取り組みでは、報告者が自らの仕事の現状、改善点、提案を発表し、それに対して他の職員が質疑応答や提案を行う。いわば、職員一人一人の仕事の棚卸しと可視化であり、また、発表者自身が仕事のリフレクションを行うことで新しい気付きを得ることができる。
 他部署から異なる視点で指摘を受けることで、大学全体と自分の仕事がどのように関連しあっているかに気づく契機となり、異動の多い大学職員にとって部署間の情報共有というナレッジマネジメントツールにもなる。やり方次第では、コラボレーションの可能性が見出されるだろう。この相互研修型SDを何度も繰り返して行くうちに、A部署の課長とB部署の課員が仲良くなり、業務上も連携しやすくなるという効果も期待できるだろう。
 取材の中で、「これから求められる職員の能力」を尋ねたところ、「外部から情報を集め分析して、企画を創りあげる力」や「他の教職員とのコミュニケーション力」を挙げる幹部職員が多くみられたが、まさに相互研修型SDは、これらの力を獲得できる機会を内包している。
 こうした取り組みを始めるに当たり、必要なことは何もない。新たな経費も掛からない。強いていえば会場の電気代と発表の紙代くらいである。
 まず、開催頻度と参加者の条件を決める。毎週、全職員となると継続が難しいので、まずは有志による参加でもよいかもしれない。しかし絶対に外してはならないポイントは、幹部職員は必ず参加し、発表者に賞賛を送り、出てきた意見は否定せず、ポジティブな姿勢を見せ、質疑応答や議論を促進していくことだ。そうすれば、日常の不満を提案に変えさせ、大学改革の一翼を担っている、という当事者意識を持たせることもできる。文京学院大学では、副理事長自らが職員のワークショップで若手の意見に耳を傾けている。
 会場は講堂等でもよいが、できれば可動式の椅子や机のある講義室がよい。発表のあとにグループになり、ワークショップを行って、各担当部署が発表者の提案に対して何ができるかを話し合うことができるからだ。グループの数を調整すれば、大規模大学から小規模大学までいくらでも対応できる。最近、ワークショップでは有名な「ワールドカフェ」という手法を用いれば、更に議論は深まるだろう。
 長所を連ねたが、各職員の負担になることは間違いないし、始めてすぐは意見もあまり出てこないと考えられる。やはり幹部職員の議論の促進役としての力量が問われる。意見を引き出し、ぶつけ合い、改革案が溢れ出て、また、職員一人一人が再び参加したい、と思わせる場にするにはそれなりの準備が必要だ。
 イノベーションとは、本来「新結合」を意味するが、この相互研修型SDによって、これまであまり交流のなかった部署同士だからこそ、まさに新しい改革のタネ=新結合を生み出すことができる。大学改革に結び付けるSDとして試みてはいかがだろうか。

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