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平成23年11月 第2463号(11月23日)

大学は往く 新しい学園像を求めて〈33〉
  お茶の水女子大学
  リーダーシップ教育推進
  確かな知と他者を尊重 社会を変える女性育成

 静かな大学改革が進む。お茶の水女子大学(羽入佐和子学長、東京都文京区大塚)は、日本最初の女子高等教育機関として多様な分野で活躍する女性を社会に送り出してきた。大学院への進学率が30〜40%(理学部では60%以上)で、卒業後は専門職に就く学生が多い。少子化、大学全入といった厳しい環境の中、各大学とも学部学科の新設や改編、共学化などの改革を行った。お茶の水女子大は90年代に生活科学部の設置、文教育学部の学科再編を行った。そのお茶の水女子大が近年、リーダーシップ教育の推進など女子大の存在意義を賭けたと思える大きな改革に動きだした。08年、リーダーシップ養成教育研究センターを設置、就業力の向上など社会を変える女性リーダー育成を意識した改革。「理念は、確かな知を身につけ、他者を尊重し、寛大な心をもつことです」という学長に、静かで大きな改革の中身や女子大のこれからを尋ねた。(文中敬称略)

高い大学院への進学率 多い専門職に就く学生

 お茶の水女子大学は1875年に開校した東京女子師範学校が淵源。85年、東京師範学校女子部となり、90年、高等師範学校から分離独立し女子高等師範学校に。1949年、国立学校設置法によって新制お茶の水女子大学となった。
 新制お茶の水女子大学は文学部・理家政学部の二学部だったが、翌年から文教育学部・理学部・家政学部の三学部に。その後の改組・改称を経て、現在は文教育学部、理学部、生活科学部の三学部に2091人、大学院生1042人、の計3133人が学ぶ。
 学長の羽入がお茶大を語る。「女性の持つかぎりない可能性を、創立以来、深く信頼してきました。真摯に学ぶ女性を育成し、教育と研究の成果を社会に還元することで、日本のみならず国際的に社会をリードし未来を創造しうる女性のためのより高度な教育研究機関となることを目指しています」
 お茶大のよさは?「小規模な大学であること。4年間の授業は、ほとんどが少人数の授業。学生は授業を通して学生とは勿論、先生方とのディスカッションをする機会が多くあります。他の専門の学生や分野の異なる教員の考え方に直接触れる機会も多く、思考の柔軟性や創造性を身に付けることにもなります]
 「お茶大の卒業生には、専門を活かした仕事についている人の割合が高く、生涯を通して仕事を続けている人の割合が他の大学出身の女性より高い。学生の3人に1人が大学院生という『高度な専門を学ぶ風土』が背景にあります」
 教育面では、今年度からは新たに「複数プログラム選択履修制度」がスタートさせた。「学生の主体性を重んじ、それぞれの関心に沿って専門性を深め、あるいは領域を横断して広く学ぶことができる履修制度。広く学びたい学生のために副プログラム、学際プログラムが選択できるようにしました」
 3年前から開始したのが、21世紀型リベラルアーツ教育。「問題を発見し、それを解決する能力を習得するお茶大固有の教育プログラムで、既存の学問分野を超えた知識と学問の手法を提供。生命と環境など五つのテーマにアプローチする文系・理系の科目セットを整えました。学生は主体性を発揮しながら授業を選ぶことになります」
 「もうひとつ、力を入れているのが国際化に向けての語学教育。学生には日本文化を伝えるための外国語能力を持つようにさせたい。国際化というのは、日本の文化を知り、それを発信できる語学能力だと思います」
 卒業生の進路について。「伝統的に教職に強い大学と言われていますが、実際の就職先はIT業界から金融、メーカー、公務員と多岐にわたります。企業からは、基礎学力があり安心して任せられるといわれています。就職率?平成20年までは100%でしたが、昨年の90%という数字に危機感を抱いています」
 さて、なぜいま、リーダーシップ教育なのか、を聞いた。「現在の混沌とした社会では、『共に在ること』を心に留めていきたい。社会の中で生きる人を育てる大学として、リーダーとなる人材を育てることが使命だと思います」
 具体的には?「リーダーに必要なのは、知識と見識と寛容さ。個性を伸ばし、主体性を重んじることがリーダーシップ教育につながります。これまでも教育分野などで先導的なリーダーを輩出してきました。これからも、専門的な知識を基盤に人間として高い見識をもったリーダーを育てていきたい」
 リーダーシップ教育の理念を具現化した施設が二つある。ひとつが、今年度開設した学生寮。5人の寮生が一つの「ハウス」を作って共同生活する。50人の定員はすぐに埋まった。「お茶大SCC(Students Community Commons)と名づけました。理念は、『共に住まい、共に学び、共に成長する』」。お茶大SCCは日本デザイン振興会が主催するグッドデザイン賞(住宅部門)を受賞した。
 もうひとつが、平成19年に設置した附属図書館の「LearningCommons」という空間。80台のパソコンが設置され自由に利用できる。「そこでは『共に学び、共に成長する』ことを理念としました」
 社会・地域貢献にもお茶大らしさがある。昨年10月、お茶大グッズをリニューアルした。幾つかのグッズの購入代金の一部は途上国の女子教育支援に役立てられる。生活科学部の学生らは、「ときわこまち」というお菓子を開発。「お茶大に伝わる秘伝の『ときわじるこ』をどら焼きに仕上げたもの。イベント等に合わせて本郷三原堂で製造している。
 ところで、大学運営では、私大の女子大より国公立の女子大のほうが国の助成などで優位とみられているが、国公立の女子大ゆえの困難があるという。
 国公立の女子大が男子の受験を拒んでいるのは、法の下の平等に反するという議論がある。大阪女子大、広島女子大、高知女子大など公立女子大学が共学化した。私立の女子大は、建学の精神があるため問題にならない。共学化を問うた。
 「大学としては、日本の女性の活躍状況を考えた時に、優れた女性が社会で活躍できる環境を整え、それを提案することが重要な使命であると考えています。リーダーシップ教育も、単に女性の役職者の割合を増やすということではなく、人間が真の意味で豊かに生きる社会を築くことをも意味しています」
校歌は昭憲皇太后の歌
 お茶の水女子大の校歌「みがかずば」は、昭憲皇太后から下賜された和歌。学問の道を究めるため常に努力を怠らない姿勢を、宝石や鏡を磨くという行為になぞらえている。現在も歌い継がれている。
 リーダーシップ教育の理念を示すロゴをつくった。「みがかずば」の精神によって育まれる、知性としなやかさ、心遣いを兼ね備えたリーダー像をイメージし直線と曲線を融合。曲線は「みがかずば」の「Mi」と、「Make a Difference」の「M」をモチーフにした。
多様な個性生かす大学
 羽入は、最後に語った。「これからも、多様な個性が生かせる大学でありたい。『みがかずば』の先にあるのは、自分自身、そして身近なところから社会までも変えていく『Make a Difference』の実践です。常に問題意識を持ち、自ら積極的に周囲に働きかけ社会に変革をもたらす、新しい時代のリーダーに育ってほしい」
 こう付け加えた。「リーダーになるのは、決して難しいことではありません。問題意識を持ちながら自分本来の能力を見出し磨くことによって、誰もがなれるものなのです」。学生は社会を変えるリーダーを、お茶の水女子大学は女子大の強みを生かした改革で女子大のリーダーをめざす。


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