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教育学術オンライン

平成23年8月 第2453号(8月24日)

大学は往く 新しい学園像を求めて〈25〉
  東京電機大学
  千住移転で再生と進化 
  実学尊重学生主役 技術力で社会に貢献

 都心回帰ではなく都心内移転で再生と進化を期す。東京電機大学(TDU、古田勝久学長、東京都千代田区神田錦町)は、2012年、創立の地の神田にある本部と学部・大学院を足立区千住に移転する。北千住駅東口のJT社宅跡地に新キャンパス「東京千住キャンパス」が誕生。未来科学部、工学部、工学部第二部と関連大学院の約5000人の学生が移る。前身の電機学校は、“社会の第一線で活躍する技術者の育成”を旨とし創立した。以来、「実学尊重」を掲げ、技術で社会に貢献できる人材を育成、多くの卒業生が社会で活躍してきた。東京千住キャンパスの創設にあたって掲げたスローガンは「TDUルネッサンスと進化」。「実学尊重」が建学の精神で、「技術は人なり」が教育研究の理念。科学技術の急速な発展、社会構造の変化といった情勢を踏まえ、これまで以上に社会に貢献できる大学をめざす。改革の歩みとキャンパス移転という大改革のねらいを学長に聞いた。(文中敬称略)

就職に強い大学  多くの卒業生が活躍

 東京電機大学は、1907年、若い技術者の廣田精一と扇本眞吉が「最新の電気や機械を扱える技術者育成」を目的として創立した電機学校が淵源である。1949年、学制改革により東京電機大学(工学部第一部電気工学科・電気通信工学科設置)を開設した。
 開学当時、教科書は英文の専門書しかなかった。そこで、電機学校では、独自の教科書を作成、通信教育も開始し、出版局を設立。1914年、出版局の雑誌部が独立し、オーム社となった。同社は、現在、エレクトロニクスを含む理工学関連の出版社として知られている。
 さて、改革は70年代からスタートする。77年、埼玉鳩山キャンパスを開設、理工学部を設置。00年、理工学部に情報社会学科、生命工学科を、01年、工学部第一部に情報メディア学科、千葉ニュータウンキャンパスに情報環境学部を設置した。
 07年の改革は画期的だった。工学部第一部を改編し、新たに工学部、未来科学部を神田キャンパスに開設。5学部13学科を有する“理工系総合大学”に。現在、東京神田、埼玉鳩山(比企郡鳩山町)、千葉ニュータウン(印西市)の三つのキャンパスに1万500人の学生が学ぶ。
 学長の古田が改革を説明した。「07年の改革は創立100周年を機に行ったもので、教育や科学技術の動向を捉え、次の100年を見据えての全学的な改編でした。工学部は安全で快適な社会の発展に貢献、未来科学部は未来の生活空間をデザインするのが目的です」
 古田が教育について語る。「本学は、『技術で社会に貢献する人材の育成』を使命に、『実学尊重』、『技術は人なり』、『学生主役』を大学の教育・研究理念としてきました。充実した実験・実習科目を備え、産学協同プロジェクトやインターンシップにも積極的です」
 具体的には?「社会の変化に柔軟に対応できる科学技術者を育てるためには、何より基礎が大切です。学部・学科・学系・コースでの基礎教育をさらに充実させて、積極的に時代の要請に応えていきたい」
 基礎教育の一環として力を注いでいるのが、「フィールド教育」や「フォーミュラSAEプロジェクト」「IDCロボコン」など。「こうした国際的なコンペティションへの参加は、学生のコミュニケーション力などを鍛える場となっています」
 IDCロボコンは、同大を含む各国の学生が混成チームをつくり、10日間でロボットをつくる競技会。「海外諸国の学生との共同作業は学生が大きく伸びる契機になっています。2012年度は東京千住キャンパスでの開催を計画しています」
 産学協同プロジェクトについて続けた。「情報環境学部では企業から与えられる研究テーマに挑む『プロジェクト科目』を通じて、企業との共同研究の場にも学生たちを参加させています。技術で社会に貢献する人材の育成につながると確信しています」
 東京千住キャンパスは、神田キャンパスの2.59倍の2万6221u。最先端の技術を集約したエコキャンパスになるという。北千住駅から徒歩1分と駅と指呼の間にある。千住移転=TDUルネッサンスと進化について話す。
 「最新設備を備えた世界トップレベルの教育と研究の場であるとともに地域社会との連携にも寄与する新たな大学像をここから発信していきたいと考えています。理工系総合大学として日本の技術社会に寄与し社会的役割を果たしたい」
図書館など地域に開放
 東京千住キャンパスは門や柵がない。「コミュニティ広場やカフェ、図書館などは地域の住民に開放するつもりです。地域社会の一員として開かれた大学を目指しています」
 ほぼ校舎など建物は出来上がった。遠くから見ると、建物の一部に小さな四角い空間がある。「それは、『アゴラ』です。学生らが集い、活発な意見を交わすことで新たな考えや価値を生み出す空間です。キャンパスの各所に配置してあります」
 新キャンパスへの移転に合わせて、教育力、就業力の強化を図る。その前段として今年度から学内に「教育改善推進室」を設けた。学部・学科を横断して、情報を共有する取り組みを全学で実施する。
 「まず着手したのが基盤教育の一層の強化です。さらに、専門基礎教育のほかに問題解決能力とコミュニケーション能力を培う選択科目『PBL』を設けました。これによって、対人交流をスムーズにし、専門領域を越えて議論する場でも対応できる技術者を育てたい」
就職先満足度は95%
 理工系大学の中でも就職に強い大学といわれている。卒業生アンケートでは、約80%の学生が第一志望、または第二志望の企業に入社。就職先満足度は約95%と高いという。
 「就職先は、一部上場企業が多く、他大学と比較しても就職率は群を抜いているといえます。学生の就職率は高く、毎年コンスタントに90%以上の学生が就職しています」
 その秘密は?文科省の平成22年度「大学生の就業力育成支援事業」で、同大の「三つの力で就業力を育成する教育プログラム」が採択された。三つの力は、人間力、社会人基礎力、実学的即戦力だ、という。
 「このプログラムに沿って、平成23年度入学生から、1年次科目にフレッシュマンゼミ、2年次科目にキャリアワークショップ、3・4年次科目にTDUプロジェクト科目を開講して就業力を育てています」
女子を2割にしたい
 リケジョ(理系女子)について尋ねた。「現在、女子は全体の1割。これを2割に増やしたい。建築、環境、生命理工といった分野は女子にも人気があります。女性の感性でTDUに新しい風を巻き起こしてほしい」
 「グローバル化に向けて、留学生数も2020年には学生数の5%にしたい」と付け加えた。そのうえで、「TDUはインテリジェント・ユニバーシティを目指す」と述べた。それは?「産業連携協力、社会との連携協力により、教育研究内容を社会および科学技術の変化に適応し、技術で社会に貢献できる人材を育成することです」
 最後に、こう語った。「科学技術はいま、産業界はもちろん、企業経営や経済、政治にもなくてはならないものになっています。この視点に立って、理論と実学を併せ持つ視野の広い技術者、世界に通用する技術者を育てていきたい」
 「技術は人なり」という理念、「技術で社会に貢献する人材の育成」という東京電機大学の使命は時代が変わろうと微動だにしない。


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