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平成22年2月 第2392号(2月24日)

新刊紹介
  現代の“三国志”
 「中国 巨大国家の底流」
  興梠一郎 著

 こうした本は、時代の流れをいかに読むか、のちに、それが適格だったか、が問われる。著者は刀の刃渡り、の心境でペンを走らせたはず。
 〈過去60年、共産党は人民の生活を改善した。いま、中国は超大国の道を突き進んでいるかに見える。だが、内部には、様々な矛盾が渦巻いている〉と序章で書くように、その矛盾に切り込む。
 神田外語大学教授の著者は、片足をジャーナリズム、片足をアカデミズムに置いているかのよう。中国内外の新聞記事、政府の公式発表や統計資料、インターネットの書き込みなど膨大な資料をもとに分析するのはジャーナリズムの手法。
 それによって、国際金融危機、暴動、少数民族の反乱、四川大地震、食の安全、ナショナリズム、資源、中国共産党…中国内部に渦巻く矛盾の内幕を読者の前に曝す。
 〈なぜ、中国では、頻繁に暴動が起こるのか、(中略)民衆の正当な抗議行動を、すぐさま「陰謀」とみなす思考パターンが問題である〉
 〈チベット暴動をきっかけとして燃え上がった「愛国主義」は、明らかに動員されたものだ。(中略)劉暁波は「愛国主義」が「独裁者に利用されている」と指摘する〉
 中国の猛烈な資源外交には戦慄さえ覚える。アフリカのナイロビで、胡錦濤国家主席の息子が「汚職」に巻き込まれるスキャンダル、胡と前任者の江沢民の権力闘争、陰謀の数々…現代の「三国志」を読むような感覚で読む。ニューアカデミズムの新しい旗手の登場。
 最近の劉暁波の懲役11年の実刑確定、グーグルの撤退検討の表明、NHK海外放送での天安門事件の映像遮断…著者の「読み」通り巨大国家は動く。現代中国を「読む」出色のレポートといえる。

 「中国 巨大国家の底流」 興梠一郎著
 文藝春秋
 п@03―3265―1211
 定価 1600円(税別)

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