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平成22年2月 第2389号(2月3日)

科学技術政策研究所
  “移動”学生は約2割
 大学院進学時の教育機関間移動調査

 

 科学技術政策研究所は、このたび、「大学院進学時における高等教育機関間の学生移動―大規模研究型大学で学ぶ理工系修士学生の移動機会と課題」を公表した。同分析は、学生が大規模研究型大学の理工系大学院への進学時に、機関間をどの程度移動しているのか、移動の有無により学生の教育・研究の実態がどのように異なるのかなどの実態把握を目的としたもの。概要は次の通り。

 調査対象者は、日本国内の12の大規模研究型大学大学院で工学・理学・理工学・情報学を専攻する二年生以上の修士学生。調査期間は2008年10月22日から11月16日。有効回答数は2531人だった。
主な分析結果は、次のとおり。
 まず、学部・学科から修士課程へ進学する時に指導教員を変更した学生の割合は32.0%であり、高等教育機関間を移動した学生は19.8%だった。専攻分野によって移動状況は異なり、機関間を移動して進学した学生は工学系で14.7%と小さく、複合系では35.4%と大きくなった。これは、大学院に併設される同専攻の学部の有無やこれら学部の定員と修士定員の比率など大学院の設置形態の影響が示唆されている。
学生の研究・学習時間は移動の有無による違いがほとんど示されなかった。しかし移動しない学生の方が、学会発表や学術誌への投稿などの対外発表を経験する割合が大きい実態が示されている。もっとも詳細な分析からは、高等教育機関間の移動よりも指導継続性の影響が示唆されている。
高等教育機関間を移動した学生は、移動しなかった学生よりも所属する大学院の教育・研究を高く評価した。例えば移動者は、熱意を持って授業を行う教員の多さや、修士論文や成績の審査基準の厳正さをより肯定的に評価している。
 アンケートの自由記述では、複数の移動経験者が研究室での公平な扱いや組織的な支援の改善を求めている。また、修士課程への進学時に研究室を選択するための情報が十分に得られないことや、博士課程への進学を検討する際に研究室の移動をためらう理由として、教員が内部学生を重視する傾向や移動を肯定的に捉えていない雰囲気が指摘されている。
調査結果から示唆されることは次のとおり。
 中央教育審議会の答申(新時代の大学院教育答申 平成17年中央教育審議会)は、日本の高等教育システムが、学生が「高度な研究水準にある大学院等で教育・研究指導を受ける」機会や、「異なる学修歴を持つ学生」と接する環境を提供することの必要性を描いている。このたびの結果は、これらが近年着実に進展しつつある実態を示唆している。しかし、このような流動化によって、学生が「互いに切磋琢磨しながら自らの能力を磨いていく教育研究環境」(同答申)が作り出されているかどうかを知るためには、今後の探究が必要である。


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