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平成22年1月 第2387号(1月20日)

新春講演会・新年賀詞交歓会開く
  東京理科大専門職大学院 宮永教授が講演
  「セレンディピティとイノベーション」

 日本私立大学協会の関東地区連絡協議会(大沼淳会長、21年度議長=塚本桓世東京理科大学理事長)は、去る1月14日、東京・市ヶ谷のアルカディア市ヶ谷において、同協議会所属校から61大学113名が出席して、平成22年「新春講演会」及び「新年賀詞交歓会」を開催した。
 開会に当たり、同協会の廣川利男副会長(東京電機大学学事顧問)が挨拶に立ち「昨年末に22年度予算案が閣議決定された。概算要求から始まり事業仕分け、閣議折衝等を経て取りまとめられたもので、私大の要望に叶ったもの、期待はずれのものなどがある。いずれにしても、各大学は質の保証や情報公開等を通じて社会に理解してもらうように努めるとともに一層の特色化に向けた改革を進めていかなければならない」と述べた。
 また、塚本議長からは「昨年はアメリカでオバマ政権が、そして鳩山政権が誕生。チェンジの年であった。今年もチェンジの年になると思うが、共に私学振興に邁進したい」との挨拶があった。
 次に、同協会の小出秀文事務局長が、平成22年度の予算案と税制改正のポイントについて概説した。
 予算案では、私学助成全体が過去数年間「対前年度▲1%」とされていたが、私大の財政基盤である経常費補助金の一般補助において「中小規模大学の支援」として新たに4億円が増額されるなど、やや上向きの感触を得たこと、さらに、研究振興関係予算についても、“がんばる大学”への支援が強化される見通しであること、一方、税制改正では、寄附税制の拡充として、所得税の寄附金控除適用下限額が5000円から2000円に引き下げられ、少額寄附者の裾野の拡大が図られることになったこと(なお、年末調整での簡素な処理については今後の検討)などを挙げた。
 引き続き、講演に移り「セレンディピティとイノベーション」と題し、東京理科大学専門職大学院総合科学技術経営専攻の宮永博史教授が登壇した。
 科学の実験等においては、夢中で没頭している時に偶発的に起こる予期しない発見がある。セレンディピティ(serendipity)と言う。
 宮永氏は、初めに東京理科大学のMOTの専任教員組織についてA(アカデミック系教員)、B(ビジネス系教員)、C(コンサルティング系教員)の構成をとり、これまで結びつくことが難しかった技術と経営を融合させる教育を紹介。
 その上で、A、B、C担当教員にまつわるエピソードや具体的な商品開発の裏話、さらにはノーベル賞受賞等、いくつかのセレンディピティを紹介した。
 ▽強力な接着剤の開発中に“付くがはがれてしまう”失敗作となったが、後々「ポスト・イット」として製品化
 ▽すい臓ガン検査用の内視鏡開発が成功しなかったが、すい臓ではなく胃部の検査で大きな成果
 ▽コンピュータ会社が家電の携帯用音楽プレーヤー開発のアイデアを小型化・大容量ができずに棚上げしていたが、他社の開発した超小型大容量のハードディスクドライブと出会い、あきらめかけていた1000曲ほども保存できる携帯用音楽プレーヤー“iPod”を商品化
 ノーベル賞関係では、
 ▽ノーベル氏は衝撃を与えると容易に爆発してしまう液体のニトログリセリンをこぼしてしまうが、珪藻土の上に落ちたニトログリセリンが固まったことからダイナマイトを発明
 ▽田中耕一氏は試料のビタミンB12のイオン化の実験中にアセトンとまちがえてグリセリンを混ぜてしまった。しかし、すぐにまちがいに気づいたが、やり直すのではなく、冷静にレーザーを当て続け「ソフトレーザー脱離イオン化法」の開発に成功
 これらのエピソードとともに宮永氏は、「失敗してもあきらめずに、予想外の起こったことを冷静に分析し、記録して残しておくこと」「困難に陥っても、打開策を別の分野からヒントを得る」「失敗を別の形で活かす」など、MOT教育に係る基礎研究から商品開発までの視点や五つのポイント(基礎研究、コンセプトづくり、初期の技術開発、製品開発、マーケティング)等をわかりやすく例示した。特にコンセプトづくりに関して「素人のように考え、玄人のように実行する」の言葉が印象的であった。
 最後に、セレンディピティは“気づきの意識が準備できているかどうか”にかかっていると締めくくった。
 講演の終了後には会場を移しての賀詞交歓会が開かれ、大沼会長が「今年も相変わらず厳しい年となるが、“坂の上の雲”はきっといい雲であると信じて、皆さんと共に希望をもって進みたい。今日は文科省の河村潤子私学部長を始め、幹部の皆さんも多数お出でいただいている。我が国の高等教育の充実を目指し、その77%を担う私立大学の振興を期しての賀詞交歓会としたい」と挨拶し、和やかな懇談となった。

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