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平成21年8月 第2371号(8月26日)

高めよ 深めよ 大学広報力〈43〉 こうやって変革した40
  「大学職員力」で改革
  教員と二人三脚文系学部、知名度向上へ
  杏林大学

 SD活動が大学運営の要になったともいわれる。大学事務職員には入学者確保に向けた広報活動、教員評価制度の導入やカリキュラムの見直しなどの役割が期待されるようになった。杏林大学(長澤俊彦学長、東京都三鷹市)は、医学部、保健学部と総合政策、外国語の文系二学部がある。医学部、保健学部の存在感は定着したが、文系二学部の知名度を高めることが課題だという。同大の広報・企画調査室に大学広報について取材に訪れた。印象に残ったのは、同大職員が、志願者アップ対策や授業の時間割の見直し、学生のボランティア活動の支援などに積極的に取り組んでいたことだった。大学職員は、長い間、大学の窓口業務や経理、施設など管理がメインだったが、大学を取り巻く環境の激しい変化で変わらざるを得なかったようだ。同大の広報・企画調査室にSD活動の一端と大学広報を尋ねた。
 (文中敬称略)

 医学部抱える大学の責任

 杏林大学は1966年に開設された杏林学園短期大学が前身。70年に医学部と大学付属病院、72年に看護専門学校、79年に保健学部、84年に社会科学部(名称変更して現在の総合政策学部)、88年に外国語学部を設置した。
 杏林は『古代中国の医師・董奉(とうほう)が、貧しい患者からは治療代を受け取らない代わりに杏の苗を植えてもらい、それがいつしか林となった』という故事・伝説から良医を表す語とされている。杏は、東洋医学においてその種を喘息の治療薬として用いてきた。
 広大な自然に囲まれた八王子キャンパスと、東京西部の中核医療センターである付属病院を持つ三鷹キャンパスの二つのキャンパスで、医学部、保健学部、総合政策学部、外国語学部の四学部、約4700人の学生が学ぶ。世界各国から300人近い留学生を受け入れている。
 事務局長の堀 和生が大学を語る。「建学の精神は『真・善・美の探究』です。真とは真理を究める為に学問をする、善とは倫理感を持ったよき人間性、人格を築き上げる、美は美しい立派な風格のある人間に成長してゆく、ということです。21世紀型市民としてふさわしい人を育て送り出すのが教育理念です」
 現在の大学の課題について、続ける。「開学して43年になりますが、医学部などの知名度は定着しましたが、文系二学部はまだまだです。広報の面でも病院が柱ですが、文系学部の情報を数多く発信して志願者の増加につなげるのが大きな目標です」
 医学部の教員にはテレビなどマスコミから取材依頼が殺到している。「病気や健康をめぐって、専門医としての見解を述べる機会が増えています。本学に、優れた臨床医がいることを知ってもらうために、取材依頼が来たら受けることを大原則としています」(堀)
 人気の付属病院HP
 広報を司る広報・企画調査室は室長の吹野俊郎以下7人、堀は直前の室長だった。大学付属病院のホームページなどを含めた病院広報担当者がいるのは医学部・病院を持つ同大広報の特長かもしれない。
 その任にあたるのが榎本菜穂。受診、入院や診療部門、看護部、人間ドッグの案内からドクター紹介、各診療部門の取組みまでわかりやすく見ることが出来る。人気は毎月更新のドクター紹介。8月は心臓血管外科の須藤憲一教授。 
 HPをのぞくと、教授の須藤の年齢、血液型からプロフィール、趣味まで詳細に出ている。白眉はインタビューで出身地、学生時代のことにも及んでいる。「患者さんが読んでいて、診察のとき、先生の趣味が話題に出るなど患者さんとのコミュニケーションに役立っているようです」(榎本)
 あってはならないのが病院で起こる医療事故。吹野が説明する。「医療事故が起きたら、隠さず公表するのが病院の方針で、それに沿って広報も動いています。病院が社会や地域から信頼されるために必要なことだと考えています」
 広報・企画調査室という名称が気になったので、その点を問うた。「部署を超えた案件、たとえば大学改革など大学全体の問題に取り組む役割を持つと考えています。中長期計画策定の事務局なども務めます」(堀)。具体的に行ったことを聞いた。
 「事務職員力を強めることに腐心しました。その結果、管理運営面に止まらず、志願者を増やすには、教員と事務職員が一緒に高校訪問をするなどの活動をしたり、それまで教員の都合を優先してつくっていた授業の時間割を学生中心に変えたりしました」
 文科系の週三回勤務だった教員に対して週四日の勤務を要請したり、他大学と兼務で教える講師の先生には、先方の大学から、その旨を証明する書類を出してもらう制度もつくった。「当初は反発もありましたが、先生方も理解してくれるようになり定着しました」(堀)
 大学職員から、各学部は、どのように映るのだろうか。堀が答える。「医学部と付属病院が、本学の礎であることに変わりはありません。医学的知識と技術を身に付けるだけでなく、正義感や倫理観を備えた人間性豊かな医師になって欲しい」
 「保健学部は、医学部や付属病院があるという恵まれた環境にあります。この三年間で三学科をつくりました。保健・看護・検査等の各資格試験の合格率もよくなり就職も順調です」
 来年、新学科を開設
 知名度アップをねらう文系二学部は、医学部、保健学部と若干、違って映るようだ。「外国語学部は、中国語の同時通訳の達人といわれる教員もおり、英語と並んで中国語にも力を入れています。2010年から外国語学部に観光交流文化学科を開設します。保健学部と連携して『観光保健論』などの科目も用意して、他大学の観光系学部・学科との差別化を図りたい」 
 「総合政策学部は、政治・経済・法律・会計・経営・環境・福祉など多様な分野を学び、実社会のさまざまな問題を解決するための実践力を培っています。インターンシップの取組みは他の大学より熱心なので、そうした利点ももっと生かすべきです」
 各学部のために広報は、今後、どのように動けばいいのか。吹野が語る。
 「外部社会と学内の接点に立つ大学広報としては、社会の動きを的確に把握し、大学にとって耳の痛いことでも発言していくのは当然の役割と考えます。一方で、大学が蓄積した知識を社会に還元するのも大学の大きな役割と考えます。人命を預かる、医学部・病院を抱える大学ですので、社会的責任は大きいと感じています。
 医学部では、新型インフルエンザの問題など社会や地域のために役立つ情報などは今後とも積極的に流していくつもりです。文系学部も、医学部や保健学部と提携しての取組みやボランティア活動や地域貢献などの話題をどんどん発信していきたい」
 医学部の存在が重たいため、文系学部の存在感が薄まってしまう側面があるのは事実。「医学部と提携しながら」というのは他の大学にない強み。これに、定評ある「事務職員力」が加われば鬼に金棒。杏林大の今後のステップアップを見守りたい。

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