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平成21年8月 第2369号(8月5日)

高めよ 深めよ 大学広報力〈41〉 こうやって変革した38
  個性と特色を生かす
  最先端の実践教育マルチリンガルを強化
  麗澤大学

 来年度から学生募集を停止する私立大学が5校も出るなど厳しい私大経営。中教審の大学分科会は、大学は個性と特色を生かした多様な教育を提供していくのが望ましい、と機能別分化を促した。どこの大学も個性と特色を打ち出す教育に生き残りを賭けている。モラロジー(道徳科学)を建学の精神に掲げる麗澤大学(中山 理学長、千葉県柏市)もそうだ。二学部の大学だが、外国語学部は英語プラスもう一つ他言語をマスターするマルチリンガル教育を強化、経済学部はビジネスゲームを導入するなどした「最先端の実践教育プログラム」を始めるなど、機能別分化を図っているように映る。Jリーグの「柏レイソル」と提携するなど広報面でも独自色を打ち出す。個性と特色を生かした多様な教育を実践する麗澤大を訪ねた。(文中敬称略)

道徳教育・人格教育に力

 麗澤大学は1935年に開塾した道徳科学専攻塾(本科と別科を設置)が前身。50年に麗澤短期大学(英語科)として開学、59年、麗澤大学(外国語学部)となった。「麗澤」という語は、中国の「易経」の「象曰、麗澤兌。君子以朋友講習」(象に曰く、麗ける澤は兌びなり。君子以て朋友と講習す)という言葉からとった。
 学長の中山が大学を語る。「本学は、創立者廣池千九郎の『高い品性と専門性を備え、自分の考えを国際的に発信できる人材の育成が大切である』との考えをもとに、建学以来『知徳一体』の真の国際的教養人の育成を目指して教育の充実を図ってきました」
 道徳教育・人格教育に力を入れている。大学付属の企業倫理研究センター(R-bec)があり、日本では珍しい企業倫理ゼミを経営学科に設置している。一年生の初年次教育の一環として、「道徳科学」が必修になっている。
 さて、外国語学部の英語プラスもう一つの言語をマスターしようとするマルチリンガル教育の舞台はキャンパス。そこは文字通り「小さな地球」になっている。外国人教員、留学生が多い。20カ国以上から500人を超える。キャンパス内では、英語はもちろんのこと、ドイツ語、韓国語、中国語など様々な言語が飛び交う。
 広報室長の今井 昇が説明する。「マルチリンガル教育のコアになっているのは多言語習得プログラムとクロス留学です。
 特に後者は、学生が専攻している言語ではない地域に留学して、その専攻言語を学習する。例えば英語を専攻する学生がドイツや中国・台湾に留学して英語を学ぶ、といったことも可能で、卒業するときには、バイリンガル以上のマルチリンガルを目指せます」
 日本人学生の留学派遣の数も全国トップクラスである。年間100人以上が海外留学を経験している。「外国語学部で約4割、経済学部で約1割の学生が、卒業までに留学や語学研修を経験します。半年以上の長期留学をしても、単位互換制度があるため休学することなく4年間で卒業できます」(今井)
 学長の中山が、こう力説する。「語学を学ぶ目的のひとつは、グローバル・リテラシー(国際的対話能力)やコミュニケーション能力を高めることにあります。グローバル・リテラシーを備え、国際社会で知的にも道徳的にもリーダーシップを発揮できる人材、独創的な知の創造とフロンティア精神をもった人材の育成を目指しています」
 もう一つの学部の経済学部の特長はどこにあるのか。副学長で経済学部教授の佐藤政則が説明する。
 「経済学部の教育目標は、グローバルな視野にたって、自己利益だけでなく、他者の利益をも考えて問題の発見と解決にあたり、社会に貢献できる『国際公共人』の育成にあります。ビジネス社会の調和ある発展に資するため、企業倫理、コンプライアンス、リスク・マネジメントなどに関する問題を総合的・多角的に研究し、成果を広く社会に公表しています」
 経済学部のビジネスゲームを導入するなどの「最先端の実践教育プログラム」について、佐藤が語る。「学生主導の教授法になります。A徹底的に学生の立場になって教育を行う(学生基点)Bビジネスゲームを通して、経営を体験し理解する(実践中心)C環境問題が深刻化する近未来社会のビジネスを学ぶ(未来志向)という、三つの、いわば原点があります」
 とくに、実践教育プログラムのなかにCO2などの地球温室効果ガスの排出枠を売買する「排出権取引市場」の学習を取り入れたのが大きな特色。また、ビジネスゲーム(レベル1からレベル5まで)では、レベルが上がるにつれ、専門科目の選択の幅が広がっているので、学生は時間をかけ、上のレベルを目指すことになる。
 学長の中山が補足する。「排出権取引市場は将来の環境に寄与できる人材の育成につながるし、ビジネスゲームの採用は座学より疑似体験することで自分の問題と考えるようになる。知徳一体という麗澤の教育理念は、経済学部でも脈々と受け継がれています」
 柏レイソルとのパートナーシップ提携は「地域貢献のひとつと考えている」(中山)そうだ。「柏レイソルは本学からリーダーシップ論や英語などの外国語を学びたいと言ってきています。本学はサッカーの指導やオープンキャンパスでも講演などをお願いしようと考えています。単なるスポンサー契約ではなく、人的な交流を目指しています」
 地域貢献には力を入れている。麗澤大学開学50周年を記念して、6月には「国際交流と地域貢献について語り合う会」を開催した。地元の自治体、高校、商店街の代表がパネリストになって熱っぽく語り合った。
 「国際交流に関し地域で語り合ったのは初めてでした。外国語初級会話教室も開きましたが、地元の方々は楽しく学んでいました。今後の本学の国際交流のあり方を考え直す機会にもなりました」(今井)
 最後に大学広報について中山に聞いた。「他の大学にない素晴らしいものを打ち出していくのが要諦だと思います。本学においては、知徳一体、という建学の精神をみえる形で外部に発信していくことです」
 そして、こう付け加えた。「道徳というものを日本では暗いイメージにとらえていますが、本来は人間を幸せにする、明るいものなのです。今年四月には、教員と学生の手で『大学生のための道徳教科書』を作成しました。米ボストン大学と共同で道徳の教材を開発する話も出ています」
 「学長は大学の広告塔だと思っています。教育・研究の発表の場、卒業生の集まり、あらゆる集まりに顔を出すようにしています」と自ら述べるように広報の大事さはかなり認識しているようだ。
 「ドラマ『北の国から』などの俳優、田中邦衛さんは本学OB、車いすテニス世界チャンピオンの国枝慎吾さんは本学卒業の職員でした。これからは、こうした柔らかな話題もどんどん発信していきたい。麗澤ブランド確立に広報の役割は大きい」。立て板に水を流すように喋る学長だが、繰り返し口にした「知徳一体」という言葉をとても大事にしているのが印象的だった。

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