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平成21年7月 第2368号(7月22日)

改革担う大学職員   大学行政管理学会の挑戦
  九州・沖縄地区研究会
  アジアにも照準合わせる   テーマ別ワークショップで交流盛んに

  九州・沖縄地区研究会理事/福岡大学教務部事務部長
小原 一郎

 当地区研究会は九州地区担当理事の柴田 温氏(長崎総合科学大学)と花田克彦氏(福岡大学)が世話人となり、1999年に九州地区の10大学30人の会員に呼びかけたことに始まる。その趣旨は、学会のミッションである「大学行政・管理の多様な領域を理論的・実践的に研究することを通して、全国の横断的な職員相互の啓発と研鑽を深める」をもとに九州地区会員の研究活動の場をつくりたいというものであった。
 第一回研究会は、同年11月に福岡大学で開催し、3大学10人が参加した。学会発足2年後のことである。記念すべき「九州地区研究集会」の初回の討議テーマは「少子高齢化社会の到来と地方大学の対応」であった。全国でも早い速度で少子高齢化が進む九州において、地方大学はどう自立し、どう生きていくのかについて当地区の実態に即した大学の対応策が討議された。18歳人口の減少が始まった1993年から6年が経過し、減少が一段落したいわゆる階段の踊り場時期、次の減少が始まる2003年の4年前のことである。
 10年間の歩み
 その後、2006年までは、年2回のペースで組織・人事・財政・教学・評価・キャンパス整備などの研究・事例発表を軸に学会会長の講演などを盛り込んだ活動を展開してきた。内容は、大学人の意識改革の必要性、変貌する事務領域への対応策、キャンパス統合における職員の関わり、地域連携をキーワードとした公立大学法人の新たな大学づくりなど興味深い発表が連なった。このことによる会員の関心の高まりと、各大学の積極的な学会活動支援も相まって徐々に会員数が増加していった。
 2007年からは、年3回のペースで研究会を開催し、研究・事例発表に加えて大学教授や私学振興・共済事業団理事を講師に招き、時宜を得た講演を盛り込むようになった。講演・発表テーマをみると「一職員が大学経営を考える」「学校法人中村学園における収益事業の展開」「高等教育における学校法人と国立大学法人の在り方」「私学助成を基本とした私学の活性化策」「私立大学のガバナンス・学長のリーダーシップ」「教員の視点からのSD」「高校の現状・高校の言い訳」「教育力の向上に果たす職員力とは」「特色GP九産大の英語教育プログラム」などがある。
 会員による研究領域は、経営改革・ガバナンス・収益事業・地域戦略・SD・教職協働・高大連携・特色GPなど広域に及んでいる。それらは今までの縦割り組織の枠組みではとらえきれない複合的な業務領域である。そして、関連する新規事業の成否はそれに関わる職員の力が大きな要素になっており、職員には、これまでの管理事務能力に加えて企画・調整・実行能力が求められていることが改めて確認された。
 また、新たな試みとして会員の関心領域別ワークショップや「初年次教育」などにテーマを絞ったワークショップなどを盛り込んで、会員に発言とネットワーク構築の機会を提供した。2008年までに20回の研究会を開催し、2007年には当学会の全国研究集会を九州(福岡大学)で初めて開催するなど活動が活性化してきた。なお、2003年に名称を「九州・沖縄地区研究会」に変更し沖縄地区までをカバーすることになったが、距離的な問題もあってか、いまのところ同地区からの登録会員は七人にとどまっており、当研究会への近年の参加はない。現在、登録会員数は123人であり、研究会は原則として年4回、土曜日の午後に開催し、研究会後の懇親会の情報交換も盛んである。研究会は会員以外にもオープンにしているので、毎回60〜70人が参加している。平成21年6月現在、当研究会の世話人は坂井 啓氏(西南学院大学)、平野純一郎氏(福岡女学院看護大学)と小原の3人が担当し、杉本宏二氏(福岡大学)が事務局で支えている。
 今後の研究会課題
 昨今の大学を取り巻く環境は地方大学に特に厳しいものがあり、少子化による定員割れや就職率低下の対策などは喫緊の課題となっている。また、中教審答申の「学士課程教育の構築に向けて」は、学位の水準を担保するために、学位授与の方針を具体化・明確化し、順次性のある教育課程の編成や単位制度の実質化、厳格な成績評価・卒業認定を求めている。そして、入学者受け入れ方針の明確化、入試方式の見直し、初年次教育や高大連携の推進を期待している。さらに、FD・SDを活性化させ、教員評価の教育面重視も謳っている。つまり、優れた人材輩出を主たる社会貢献とする大学にとっては、教育体制を盤石にすることこそ大学の活性化策であることを示している。
 そこで、今年度は「学士課程教育」を当研究会の統一テーマにとらえて、大学の経営資源をいかに教育活性化に投入するか、さまざまな領域からのアプローチを試みることにした。6月6日の研究会では文部科学省高等教育局大学振興課の今泉柔剛大学改革推進室長を講師に招き「中長期的な大学教育の在り方について」語っていただき、国の文教施策の方向について議論した。
 さらに、12月には東京を中心に活動している「学事研究会」との合同研究会を開催し、情報の共有と深化そして会員のネットワーク拡大を図りたい。
 九州・沖縄地区は国立大学を除いて大規模大学は極めて少数であり、多くが中・小規模大学である。夫々の特性を活かした大学づくりが求められている中、過去の研究発表から窺えることは、少子化が進行する地方の大学であっても、輝き続けることができるということである。それは「地域から愛され信頼される大学づくり」である。
 つまり、学生の「学び」に視点を置き、そこに大学の経営資源を集中させ、教員から職員まで全学を挙げて関わる仕組みをつくり、父母・卒業生・企業・地域などを核としたステークホルダーの協力を得ることにより、次の新たなステップに展開していくという正のスパイラルを構築するということである。それは、大学はだれのものかという原点に立ち返ることを示している。職員はこの枠組みの再構築と実行に率先して関わり、同時に関われる能力を具備しなければならない。
 九州・沖縄地区の大学は、関東・関西地区の大学との比較で議論されることが多いが、地方分権・道州制が語られる昨今、国際的通用性のある人材育成や知の拠点としての大学を考えるとき、しっかりと足元を見直すことが大切である。そして、視点を東から西へ移すと、東京よりも近くにプサン・ソウル・上海が、北海道よりも近くに台北・北京があることに当研究会の会員は、既に気づいている。地の利を活かした新たな取組が始まっている。

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