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平成21年7月 第2367号(7月15日)

私大協会
  第1回教育学術充実協議会を開催
  文科省・徳永高等教育局長が「大学改革の課題」を講演
  メインテーマ「学士課程教育の構築と質保証」

 日本私立大学協会(大沼 淳会長)の平成21年度第1回(通算第38回)教育学術充実協議会(担当理事=中原 爽日本歯科大学元理事長・学長、福井直敬武蔵野音楽大学理事長・学長)が、去る7月13日、東京・市ヶ谷のアルカディア市ヶ谷において、加盟384大学から219大学の学長等を中心に約300名が出席して開催された。メインテーマを「学士課程教育の質の向上」とし、「大学改革の課題」と題する文部科学省のコ永 保高等教育局長の特別講演をはじめ、「学士課程教育の質の向上」に関する日本私立大学団体連合会の共同作業部会からの報告、さらに、ディプロマ・ポリシー、カリキュラム・ポリシー、アドミッション・ポリシーに関わる三人のパネリストによる問題提起、フロアとの質疑を含めてのディスカッションが黒田壽二金沢工業大学学園長・総長をコーディネーターに熱心に行われた。

 中原担当理事の挨拶に引き続いて、さっそく協議に入り、まず、中央教育審議会大学分科会の「中長期的な大学教育の在り方について」の審議等を精力的に推進しているコ永高等教育局長が「大学改革の課題について」と題し、同審議の三つの検討事項である「社会や学生からの多様なニーズに対応する大学制度及びその教育の在り方」、「グローバル化の進展の中での大学教育の在り方」、「人口減少期における我が国の大学の全体像」に関わる課題を図表等を基に解説するとともに、特に質保証システムと量的規模の在り方について力説した。

施策のフォローを

 同氏は、規制緩和による大学の量的拡大、大都市圏と地方における地域別定員充足率のアンバランス、各国の大学進学率比較(特に大学入学者のうち、25歳以上の割合が、我が国はOECD平均20.6%に対して、わずか2.0%で25番目と低い)などの状況を述べ、次に、教育、研究、学位又は称号、社会貢献・地域貢献、管理運営、公財政支出、質保証などの課題に対する大学審議会以来の審議動向を語った。
 その上で、「これまでの多くの大学政策がどのような効果を上げたかの検証をエビデンスベースで把握してきただろうか」と振り返り、「これまでの施策をきちんとフォローしていきたい」と述べた。
 質保証システムについては、国際化の視点からも設置基準、設置認可審査、認証評価等は欧米における質保証を参考にし、公財政支出と併せて一体的に運用していくシステムの構築が急務であるとした。また、量的規模の在り方については、機能別分化や国公私大の役割分担等を明確にしていく中で、じっくり議論していきたいなどと語った。

12項目の特色を報告

 続いて、日本私立大学団体連合会の質保証の共同作業部会が実施した「学士課程教育の質の向上に関するアンケート」結果と7月末に取りまとめられる予定の「報告書」から、私立大学における教育の質の向上に関する現状分析とその実現に向けた各種提言について、同作業部会委員の古矢鉄矢北里大学学長補佐・学長室長が報告した。
 同氏は、「質向上に関するアンケート」が同連合会傘下の517大学を対象に行われ、85.3%の回収率であったと述べた上で、アンケート結果の分析から「私立大学の12の特色」をクローズアップした。
 @80%以上の大学で組織的に「建学の精神」が教育されている。A一般入試は「二科目」で実施している大学が最も多い反面、約90%が「三科目」以上を理想としている。B入学者の学力不足を補う「リメディアル教育」を実施している大学は約70%弱。入学者の学習意欲・学習姿勢などを高める「初年次教育」を実施している大学は85%以上。C「教養教育」が適切に位置づけられている大学は約95%弱。関東など都市部で多い。D「専門的知識・技術」を重視している大学は約90%、特に北海道・東北、中・四国・九州では95%を超えている。「社会人としての基礎能力」を重視している大学は約75%。E「単位制の実質化」では、95%以上の大学で単位制の趣旨も踏まえた授業や学習の質の充実に取り組んでいる。F組織的な「学習成果の評価」は約60%の大学で実施。「共通の成績基準を設定」では、南関東で約90%、東京約75五%で実施。G授業科目以外での基本的学力を年次ごとに「共通テスト」などで測定している大学は約15%だが、「検討中」「検討予定」を含めると約75%が積極的。Hディプロマ・ポリシー(「卒業時の学力達成度」など)について、「建学の精神」との関連性を持った具体的な学力を設定している大学は、「ある程度設定」を含め70%以上。I学位授与条件や学習到達度について、グローバル・スタンダード等を意識して定めている大学は18%と少ないが、「検討中」「検討予定」を含めると約80%。J「質保証」という観点を加味した新しい「FD」体制を組織的に実施している大学は約95%。地域のFD拠点の形成への支援が求められる。K「質の保証」に関わる新しい点検・評価体制は大学の約70%、部分的な整備を含めると約80%。
 そのほか、「報告書」の構成の概要に触れた。
 第T章・アンケート結果の概要、第U章・私立大学における内部質保証システム(PDCAサイクル)、第V章・私立大学の学士力―21世紀型教養教育への貢献と責任、第W章・大学間の学生移動の促進―学士課程教育の質保証・向上の実質化、第X章・国際交流と私立大学教育の質の向上―留学生30万人計画を活かして、第Y章・私学振興における国家の質の保証について、第Z章・私立大学の質の向上を目指して。

問題提起と質疑

 研究協議では、「学士課程教育」答申で示されたディプロマ・ポリシー、カリキュラム・ポリシー、アドミッション・ポリシーの各視点に関わる問題点から学士課程における教育の質の一層の向上方策について、黒田金沢工業大学学園長・総長をコーディネーターに、次の三人のパネリストによる【第一部】問題提起、続いて、【第二部】ディスカッションが展開された。
 始めに、神戸大学大学教育推進機構の川嶋太津夫教授が、「確実な『学士力』実現を通じた高等教育の質保証〜アウトカム重視のアプローチと学習成果マネジメント〜」と題して、学習成果(学士力)として、学生が「何ができるようになったのか」が一番重要であるとし、その期待される学習成果のマネジメントこそ継続的に改善されなければならないと論じた。その上で、学習成果を上げるための教育プログラム、さらにアドミッション・ポリシーの三位一体の運用によって質の保証が成し遂げられるとした。
 次に、福山大学の牟田泰三学長が、「『学生の学び』に視座を置いた教育課程の改革」と題して、同大学で実施している目標設定型教育(教育目標の明確化、目標に向けた教育課程の編成、教育課程の点検評価)について説明するとともに、「教育プログラム(Do)↓到達度測定(Check)↓プログラムの評価↓改善(Action)↓企画立案(Plan)↓教育プログラム」のPDCAサイクルの取組を紹介した。併せて、全学的な教育体制の標準化(同大学のHP参照)にも言及した。
 最後に、関西国際大学の濱名 篤理事長・学長が、「学士課程への円滑な移行〜アドミッション・ポリシーと高大接続〜」と題して、まず、大学入試をめぐる状況で、選抜性の高い入試による「学力の質保証」が一部の大学を除いて機能しなくなったとし、推薦やAOといった多様な非学力入試に移行している。これら非学力入試の「底支え」といった意味での「高大接続テスト」も検討されていることなどを解説。その上で大学に求められる対応として、@アドミッション・ポリシーの具体化・可視化、A入学前教育による高大接続の強化、B入学後のリメディアル教育体制の整備、C入学後の初年次教育・学習支援・学生支援の充実を挙げた。
 三人のパネラーによる問題提起の後、フロアからの質問票の提出を受け、コーディネーターのもとで取りまとめ、各パネラーから回答された。「カリキュラムについて、どのように大学全体の標準化を行ったのか、また、人間的な成長はどう評価しているのか」〈回答:点数化はできないので相対的評価〉「入学前教育の目的はどこに置くのか」〈回答:入学に対する不安をなくし、期待を持たせること〉などの質問が出された。
 講演、報告、研究協議を通じて、大学が学士課程教育の質の保証に向けて着実に動き出していることが伺える協議会であった。

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