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平成21年4月 第2355号(4月8日)

高めよ 深めよ 大学広報力(28)
  こうやって変革した

 日本私立大学協会(大沼 淳会長)には、360法人、382の大学が加盟している。大きな大学から小規模な大学までさまざま。どの加盟校も教育に、研究に、地域貢献に、それぞれ存在感を示すべく頑張っている。今回は、小さな大学で奮闘している二つの大学を取り上げた。聖路加看護大学(井部俊子学長、東京都中央区明石町)と広島文教女子大学(角重 始学長、広島市安佐北区)。学生数350人の聖路加看護大では看護師や保健師の資格を取った卒業生は引く手あまた、学生数1200人の広島文教女子大は、教員採用試験に強く、英語教育に本気になっている。小さくてもキラリと光る二つの大学に、独自の教育、そして広報体制などを尋ねた。両大学のトップは、ともに大学広報の大事さを語った。(文中敬称略)

聖路加看護大学
看護師ら引く手あまた

広島文教女子大学
「英語力」強化に新機軸
「小さな大学」の存在感

 聖路加看護大学のキャンパスは、築地本願寺に近く、銀座まで徒歩約10分の距離。広い芝生と緑豊かな木々のなかに建つチャペル。チャペルに向かって左側が大学本校舎、右手奥に建つのが聖路加国際病院。かつて赤穂藩主、浅野内匠頭長矩の邸や大正の文豪芥川龍之介の生家があった。
 聖路加看護大は、1920年、ルドルフ・B・トイスラーがアリス・C・セントジョン女史の協力のもとに聖路加国際病院付属高等看護婦学校を設立。聖路加女子専門学校、聖路加短期大学(三年制)を経て1964年、聖路加看護大学として開学した。
 私立では日本初の看護学部四年制教育を開始した。看護学部(看護学科)、大学院(看護学研究科)がある看護の単科大学。現在、大学には345人の学生が学ぶが、ほとんどが女子学生で男子学生は11人。
 大学案内には、男子学生も登場、聖路加をPRする。「ディスカッションが頻繁に行われるのも聖路加の特徴。技術だけでなく、看護とはどんなものなのか、看護師としてのこころのあり方からしっかりと学ぶことができると思います」就職率は100%
 同大の学生は、看護師、保健師、助産師をめざす。事務局長の山口喜義が語る。「看護師、保健師の国家試験をとって卒業していきます。就職率は例年、100%。卒業生の就職先は9割が病院、あとの1割が保健所、助産院、大学院進学です」
 在宅医療、介護やメタボ検診など多様化する医療現場にあって看護師、保健師の需要は多い。学長の井部が説明する。「うちの大学の卒業生が欲しい、といってきてくれる病院には全て学生を送り込みたいのですが、全てには応えきれず、お断りするケースも出ています」
 同大を受験する生徒は、かつては全国から来ていたが、各地に看護大学ができたため、現在は関東地区が7割を占める。「4年制の大学を出たあと、親の入院を体験して看護に関心を持ち学士編入してくる学生も結構多い」(井部)という。
 小さな大学だが、競争的資金獲得などでは頑張っている。科学研究費補助金(教員一人当たり)では、東大、京大など旧帝大に続いて11位に食い込んでいる。私学助成(学生一人当たり)の薬・看護・医療系学部では、トップとなっている。
 03年の「21世紀COEプログラム」では、同大の「市民主導型の保健生成をめざす看護拠点の形成」が採択され、03年から07年まで取り組んだ。市民と「看護ネット」
 この研究過程で「看護ネット」(市民が健康情報を手軽に利用し、相互交信できるシステム)などの成果を生み出している。
 外部へ向けて存在感を示している。日本の看護界で初めて、世界保健機関(WHO)のプライマリーヘルスケア看護開発協力センターになり、活動を展開している。また、同じキリスト教宗派の立教大学と提携。「立大には一般教養の科目がたくさんあり、うちには立大にない健康や看護の講義があります。私も週一回、立大へ講義に出かけています」(井部)
 サークル活動も看護大学ならではのものが多い。Night Friend (NF)もそうだ。「NFは聖路加国際病院の小児病棟で活動する学生ボランティアグループ。患児と面会中の保護者をロビーで待っている患児の兄弟姉妹と遊び相手になったり、ご家族が見舞いに来ることができない患児に付き添う活動をしています」(山口)
 広報体制について、井部が語った。「現在、PR会社と大学の広報のあるべき姿を煮詰めているところです。学生やご父兄、卒業生はもちろん、大学として社会や地域に向けてメッセージを発信していくことは大事なことだと思います」
 国家試験の合格率や就職率の高さや21世紀COEプログラムの採択、サークル活動のNFのこと…広報する材料は結構ありそうだ。聖路加看護大のこれからのメッセージの発信が楽しみだ。
高い教員への就職率
 広島文教女子大学は、1948年設立の可部女子専門学校が前身。57年、女子高等学校、62年、女子短期大学を設置、1966年に4年制の広島文教女子大学文学部(国文学科・英文学科)となった。
 キャンパスは広島市北部の安佐北区可部、広島市のベッドタウンにある。可部は古くは城下町として栄えた。松本清張の小説「駅路」にも登場する。学生は、広島県内の私大のなかでは県外の出身者が多いのが特徴だという。
 2000年、文学部を人間科学部に名称変更した。現在、人間科学部の単科大学で、学科は人間言語学科、初等教育学科、人間福祉学科、心理学科、人間栄養学科がある。
 各学年約300人、1200名強の学生が学ぶ。
 人間科学部の一学部制について、学長の角重が説明する。「人間と人間の営みについて学びます。この学習があって、各学科の専門教育が生きてきます。ただ『先生になる』『管理栄養士になる』のでなく、『どういう先生になるか』『どういう管理栄養士になるか』を探求しています」
 同大は、資格を取ることに力を入れる。初等教育学科には三つのコースがある。児童教育コースは「教養豊かな小学校教員」、幼児教育コースは「実践力あふれる幼稚園教員、保育士」、教育心理学コースは「心理学に強い小学校教員」をめざす。
 卒業後の進路では、教員への就職率が高い。教員の都道府県別合格者では、広島県内だけでなく、北海道から沖縄まで幅広い地域にまたがっている。学園統括部長の武田義輝が説明する。
 「県内の女子大としては開学が後発だったので、入試広報では県内よりも四国九州など県外に力を入れました。いまでも県内が六割、県外が4割で、そうした影響かと思います。教職員も加わる学生の県人会があって、そこで教員採用試験のノウハウを教え合うのも教員試験に役立っているようです」
 小さな大学ゆえに、「いや小さな大学だからこそ、教員と職員、そして学生の距離が近くなり、一体で行っていることが多い」と武田が語ったように、同大の大学案内に登場した在校生は、こう語っている。
 「先生になりたくて、少人数の広島文教女子大学を選びました。実際、先生との距離が近く、職員の方々もみなさん親切で、文教は思った以上に、自分が成長できる大学かな」
 いま、最も力を入れているのは、BECC(文教英語コミュニケーションセンター)による英語教育。08年4月、語学教育では定評のある神田外語大学(千葉県)と連携、外国人教員を派遣してもらうなどして英語学習を行っている。
神田外語大学と連携
 BECCは三階建ての専用棟。授業で使うだけでなく、昼休みや放課後には2階のサロンで学習アドバイザーと英語による会話が出来る。2階以上は日本語禁止で、映画やCD、漫画が教材として備えてある。発音などを自学学習できる小部屋もある。
 角重が語る。「本学は07年から『文教スタンダード21』というカリキュラム改革を行ってきました。BECCによる英語教育プログラムも、その一環です。高等教育の質の保証、グローバル化時代の学士力を高める面からもBECCは本学の進むべき方向を示していると思います」
 広報活動について、武田は「入試広報は教職員だけでは限界があるとして外部から専門家を呼びました。広報全体も、教員、職員が一体となって、軌道に乗りつつあります」と語る。
 角重は最後に、こう話した。「さきほど述べた『文教スタンダード21』から、つぎは『文教ブランド』の確立です。これに向けて着実に歩んでいきたい」。こう続けていいのではないか。「それには大学広報力が大事になるはずだ」。小さな大学の挑戦はまだまだ続く。

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