Home日本私立大学協会私学高等教育研究所教育学術新聞加盟大学専用サイト
教育学術オンライン

平成21年2月 第2347号(2月4日)

教育実践コミュニティを目指して "相互研修型"FD拠点発足シンポ

 京都大学高等教育研究開発推進センターは、一月二十四日、二十五日、同大学において、国際シンポジウム「日本のFDの未来」を開催した。このシンポジウムは、同センターが推進する大学教員教育研修のためのモデル拠点形成プロジェクトの発足式もかねており、「相互研修型」FDの拠点を目指すにあたり、先行して実践、組織化されている米国カーネギー教育振興財団のSoTL(Scholarship of Teaching and Learning:教授と学習の学識)を代表する研究者がゲストとして招かれ、事例を発表した。

 始めに、同センター長の田中毎実教授が開会挨拶をするとともに趣旨説明を行なった。
 相互研修型FDについて、田中教授は、「京大では、実質的なFDがごく日常的に遂行されてきた。それぞれのローカリティに拠って教員集団が教育改善について議論を交わし共同意志を形成する、自生的な『相互研修型』FD活動が展開されてきた」と説明。FDの義務化は、「むしろ、アリバイ作りのための儀礼化・非日常化されたFDを増大させた」とし、相互研修型FDの実践は、FDの実質化を試みるものとした。
 このたびの相互研修型FD拠点モデルでは、こうした背景を元に、(1)京大内でのFD活動支援、(2)関西地区各大学のFD活動の連携・支援(関西地区FD連絡協議会の発足)、(3)全国の大学のFD活動の連携、情報発信、(4)海外センターとの交流・共同研究を担っていく事等が説明された。
 プログラムは二日間にわたり、基調講演に続いて、(1)FDネットワークの構築、(2)テクノロジー利用によるFD、(3)FDの推進主体を問う、と題したセッションが行なわれ、各セッションにおいて、実践的にも理論的にも先行する米国における取り組みと日本のFD実践の第一人者、京大の取組事例が発表された。
 基調講演で登壇したメアリー・テイラー・ヒューバー・カーネギー教育振興財団上級研究員や第一セッションで発表したジェニファー・メタ・ロビンソン・インディアナ大学上級講師は、『教員が、教授という仕事を再構想し、教授と学習について考えを探求し共有し批評し合う教員の実践コミュニティ』である「SoTL」と、その発展形ともいえる、『教授法の研究と改革に取り組む教育者の概念空間』である「ティーチング・コモンズ」について、特徴や展開、課題を紹介した。SoTLは、京大が提唱する相互研究型FDの理念に近いモデルとされる。
 飯吉 透マサチューセッツ工科大学教育イノベーション・テクノロジー局シニア・ストラテジストは、米国のSoTLの広がりを支えた「KEEP Toolkit(www.cfkeep.org)」というウェブテクノロジーの開発とコンセプトを紹介。これは教授と学習に関する自らの経験の簡潔な概要レポートを、関連する「振り返り」の記述や補足・関連資料とともにオンライン上に作成する技術であり、オープンソースで安く、手軽に要約を公開でき、また、用途に合わせてカスタマイズができるため、爆発的に広まった。飯吉氏が「コミュニティへの参加が負担にならないことが大切だ」と指摘するように、効率を高めることが念頭に置かれている。この日本語版を京大のプロジェクトが製作中である。
 また、個別大学の事例として、フランク・プロチャスカ・ノースカロライナ大学本部副部長は、テクノロジーを駆使して同大学一七キャンパス間が有機的なネットワークを構築しながら取り組まれているFDを紹介した。
 一方、日本からは、東日本地域で広域ネットワークを構築する「FDネットワーク“つばさ”」議長の小田隆治山形大学教授が、“つばさ”の概要と取組を紹介。最後に、「FDネットワークはあくまで教育をよくするためのもの。FD自体が目的化してはいけない。日本型モデルを作り出すことが我々の責任だ」と主張した。
 また、もう一つのFDモデルとされる「専門家」型FDの第一人者として、ファカルティ・ディベロッパー(FDer)の佐藤浩章愛媛大学准教授が、愛媛大学での事例を挙げながら、教員、学部教育責任者、全学教育担当管理職、FDerの各役割を論じた。FDerは、FDを担当する専門スタッフであり、集合研修の講師、個別教員に対する授業のコンサルテーション等を行なう。この専門職も米国で発達してきたものだが、日本においても認識されつつある。
 専門家型と相互研修型の話題が上ると、ヒューバー氏は、「対立するものではなく、例えばFDerは、SoTLのコミュニティ・オーガナイザーとしての役割が求められる」と述べ、飯吉氏も、「教授法を学ぶ教員にとって何が良いかを選択できることが重要なのであって、どちらのモデルが正しいというものではない」との考えを示した。
 最後に田中氏は、「今後も、FDを探究する場所と方法を提供していきたい」と締めくくった。
 スカラーシップ(学識)という言葉は日本ではまだ馴染みが薄い。しかし、FDを支援する環境は、日本でも徐々に整いつつある。重要なのは、ヒューバー氏が指摘したように、教員一人ひとりが「教えるという行為を、挑戦しがいのある知的な仕事である」とみなすことができるかではないだろうか。

Page Top