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平成21年1月 第2344号(1月14日)

第5章 基盤となる財政支援

 第2章〜第4章において述べた制度や関係者による取組を支える前提となっているのが、国立大学法人運営費交付金や私立大学等経常費補助金といった基盤的経費による財政支援である。加えて、最近では、GP事業等の予算措置によって優れた取組を重点支援することなどにより、大学間の競争環境をつくり、質の向上を促進している。
 本章では、これらの財政支援について述べる。

 1 財政支援の強化と大学の説明責任の徹底
 (1)ここまで大学教育の質を保証するための取組の現状と課題を述べたが、こうした活動を支えるのが、国による財政支援であることは言をまたない。
 (2)将来像答申は、国の中心的な役割として、「高等教育の在るべき姿や方向性等の提示」、「制度的枠組みの設定・修正」、「質の保証システムの整備」、「高等教育機関・社会・学習者に対する各種の情報提供」、「財政支援」の五つを挙げている。
 これらは、いずれも重要であり、国は、政策目的に応じて適切な手段を選び、多角的に各大学を支援していくこととなる。その際、教育基本法の謳うとおり、大学の自主性・自律性を尊重することが求められる。
 (3)特に、我が国の高等教育に対する公的財政支援は、対GDP比等で見ると、他の先進諸国と比較して、手薄であると言わざるを得ない。教育研究環境をめぐるアメリカに対する圧倒的劣位の背景の一つには、顕著な投資規模の格差とその拡大がある。ユニバーサル段階を迎え、多様な学生を受け入れていく中、積極的な投資がなければ、教育の質の向上はおろか、現状維持さえ困難となる。
 大学の自主性・自律性を尊重する観点からも、基盤的経費を確実に措置した上で、競争的資金を拡充し、財政支援全体の強化を図っていくことを強く望みたい。
 一方、大学は、社会に対する説明責任を十分果たしていくことが求められており、国は、そうした枠組みづくりを進めていくことが望まれる。

 2 学士課程教育の優れた実践に対する重点的な財政支援の拡充
 (1)文部科学省のGP事業は、競争的な環境の中で、国公私立大学の優れた教育の取組を重点的に支援するとともに、その成果を広く情報提供することにより、我が国全体としての大学改革を推進していくことを目的としている。
 この事業は、大学の多様な機能や社会のニーズ等に対応して、年々そのメニューを増やし、支援額も拡充してきている。各プログラムに対しては毎年多数の応募があり、申請に至るまでの大学内での熱心な検討の過程などを通じ、各大学の大学改革、教育改革の進展に大きな成果をあげている。
 (2)今後のGP事業においては、学士課程教育に対する社会からの期待はますます高度化、多様化していることを踏まえ、第2章で言及した三つの方針(学位授与の方針、教育課程編成・実施の方針、入学者受入れの方針)が明確にされたところに対し、次のような支援を行うことが考えられる。
 (a)学生の修得すべき学習成果の達成に向けて、体系的な教育課程の編成、きめ細かな指導と厳格な成績評価等に取り組む大学への重点的な支援を行う。
 (b)社会的な期待が大きい新たな教育モデルの開発などに積極的に取り組む大学への支援を行う。
 (c)思い切ったカリキュラム改革等に伴う人員や設備に対する支援を行う。
 (d)全学的な取組から、学部・学科単位の取組まで、その取組規模に応じたきめの細かい支援を行う。
 このほか、教育課程外における支援を含めて、学士課程教育の質の向上に努める大学への支援をより一層拡充し、大学教育改革の取組をさらに加速させていく必要がある。
 (3)また、各大学の取組の成果については、当該大学の教育の質の向上のみならず、我が国の大学全体の教育改革の進展や質の向上に、より効果的に反映させる必要がある。
 このため、国や各大学からの情報提供に加えて、優れた取組の成果を各種の評価に反映させる、あるいは設置基準の改正等により各大学が取り組むこととされた内容の実践状況を把握するなど、国による財政的な支援を、計画・実践・評価・改善のサイクルに組み込むことで、大学教育改革のさらなる加速を促す必要がある。

 3 教育の機会均等の確保と教育費負担の在り方の見直し
 (1)本答申では、具体的な改善方策として、「大学に期待される取組」、「国によって行われるべき支援・取組」について述べた。社会からの信頼に応え、国際的通用性を備えた学士課程教育の構築に向けて、これらの方策が確実に実行されることを期待する。そのためには、適切な財政措置をはじめとする多角的支援の飛躍的充実が欠かせない。教育の成果や質と資源投入との関係は不可分である。
 また、ユニバーサル段階では、高等教育が市民に広く普及し、経済社会の発展の礎として不可欠の存在となる。学士課程教育の便益は学生個人のみならず、社会全体に帰着するということに留意する必要がある。
 (2)大学改革を推進していくに当たっては、各機関の自主性・自律性を尊重しつつ継続的・安定的な支援をすること、各大学の努力の成果である優れた取組を重点的に支援すること、管理運営の在り方の見直しを促進すること、などが重要であり、そうした観点から、機関補助は有効な政策手段である。
 (3)一方、主として教育の機会均等の観点から、個人補助も重要な役割を持つ。我が国の高等教育については、OECD諸国と比較して、家計負担を中心とする私費負担の割合が高い水準にある。これまで授業料が一貫して上昇してきたこと等を背景に、教育費に関する保護者の負担感は強まっている。進学率は五〇%を既に超えたものの、大学教育を受ける能力・適性を十分に備えた者が、経済的な理由によって、進学や学業の継続を断念せざるを得ない事例が存することを看過すべきでない。機会均等が揺らぎつつあることを懸念する意見も示されている。
 (4)こうした事態を生じさせないようにする観点から、無利子及び有利子奨学金の充実に努めることが必要である。さらに、経済的に恵まれない優秀な学生に対し、合理的・客観的な基準により授業料減免等の措置が広く講じられたり、TA(ティーチング・アシスタント)やSA(ステューデント・アシスタント)等としての貢献に見合った経済的支援が提供されたりするような手立てを望みたい。個人補助を通じて、家計負担を軽減するとともに、学生の学習インセンティブを向上させる仕組みを取り入れるならば、学士課程教育の充実にも寄与することとなろう。
 (5)我が国の大学は、多くの場合、授業料に依存し、外部からの寄附の比重が少ない。大学自らが、教育基本法の理念の下、社会の発展に寄与する存在として、一層の説明責任を果たしていく必要があるが、同時に、我が国社会全体として寄附の文化を育てていくことが重要な課題である。そのための誘導策として、大学に対する企業や個人からの寄附を優遇する税制上の措置などを積極的に講じていくことを期待したい。

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