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平成21年1月 第2344号(1月14日)

第2章 学士課程教育における方針の明確化

 本章では、前章における改革の基本方向を受けて、学士課程教育の充実のための具体的な取組として、学位授与の方針、教育課程編成・実施の方針、入学者受入れの方針の三点に関し、現状と課題、改革の方向と具体的な改善方策について述べる。

 第1節 学位授与の方針について〜幅広い学び等を保証し、21世紀型市民にふさわしい学習成果の達成を〜

 (1)国際的な動向
 (ア)今日の大学教育の改革は、国際的には、学生が修得すべき学習成果を明確化することにより、「何を教えるか」よりも「何ができるようになるか」に力点が置かれている。
 こうした流れの背景として、次の四つを指摘することができる。
 第一に、グローバルな知識基盤社会や学習社会において、学問の基本的な知識を獲得するだけでなく、知識の活用能力や創造性、生涯を通じて学び続ける基礎的な能力を培うことが重視されつつある。こうした能力は、多様化・複雑化する課題(例えば、人口問題、資源エネルギー問題、地球環境問題など地球の持続可能性を脅かす課題)に直面する現代の社会に対応し得る自立した市民として不可欠なものである。
 第二に、高等教育のグローバル化が進展する中、知識・能力等の証明である学位の透明性、同等性が要請されている。
 第三に、労働力の流動化に伴い、個人の学習や訓練の履歴、知識・能力等を証明するシステムが求められている。
 第四に、企業の採用・人事の面において、産業界から大学(とりわけ学士課程)に対し、職業人としての基礎能力の育成を求めるようになっている。
 (イ)主要国では、大学や評価機関においても、学生の修得すべき学習成果を重視した取組を進めており、それぞれの機関の個性や特色を踏まえ、学位授与の方針等を具体化している。このような国家政策と個々の大学との一種の協調的な営為は、当該国の大学の国際展開や留学生獲得の面で寄与している面が少なくない。
 (2)我が国の課題
 (ア)我が国の大学を取り巻く環境も、こうした他の先進諸国と異なるものではない。
 これまでの本審議会の諸答申において、大学教育あるいは学士課程教育において育成すべき資質・能力に関して、種々の提言を行ってきた。特に、基本的な考え方としては、課題探求能力の育成を重視すべきこと、二十一世紀型市民の育成・充実を共通の目標として念頭に置くべきことなどを示してきた。
 (イ)こうした考え方の基本は妥当であるものの、日本の学士が、いかなる能力を証明するものであるのかという国内外からの問いに対し、現在の我が国の大学は明確な答を示し得ず、国も、これまで必ずしも積極的にかかわろうとしてこなかった。
 個々の大学が掲げる教育研究上の目的や建学の精神は、総じて抽象的であり、学士課程で学生が身に付けるべき学習成果を具体化・明確化していこうとする動向に照らしても曖昧であると言わざるを得ない。したがって、学位授与の方針として、教育課程の編成・実施や学修評価の在り方を律するものとは十分になり得ていない。
 (ウ)我が国の学士課程教育は、かねてから入難出易と評され、評価の厳格化が求められてきた。
 しかしながら、進学率が上昇し続け、大学全入に至ろうとする今日、入学生の約八割が修業年限で卒業し、卒業までに退学する者は一割程度にとどまるという状態に目立った変化はない。OECDの調査によれば、日本は最も大学生の修了率が高い国となっている。大学卒業生全体の学力が低下したという実証的な分析結果はないものの、産業界のそうした印象、さらに言えば不信感を払拭できるような具体的な根拠を、大学も国も十分に持ち合わせているとは言えない。
 (エ)大学が学生に身に付けさせようとする能力と、企業が大学卒業生に期待する能力が乖離しているとの指摘もなされている。近年、「企業は即戦力を望んでいる」という言説が広がり、学生の資格取得などの就職対策に精力を傾ける大学が目立っている。
 しかしながら、実際に企業の多くが望んでいることは、むしろ汎用性のある基礎的な能力であり、就職後直ちに業務の役に立つような即戦力は、主として中途採用者に対する需要であると言われる。
 こうした例に示されるように、大学は、企業の発する情報を必ずしも正確に理解しているとは言えず、企業も、自らの求める人材像や能力を十分明確に示し得ていない。
 (オ)こうした中、国においては、基礎力の養成を求める産業界の意向を踏まえた政策的な対応も始まっている。
 しかしながら、学士課程教育の目的は、職業人養成にとどまるものではない。自由で民主的な社会を支え、その改善に積極的に関与する市民や、生涯学び続ける学習者を育むこと、知の世界をリードする研究者への途を開くことなど、多様な役割・機能を担っている。各大学は、このことを踏まえて、自主性・自律性を備えた教育機関として、学士課程を通じて学生が修得すべき学習成果の在り方について、さらに吟味することが求められる。
 (カ)これまで大学設置の規制を緩和したり、機能別の分化を促進したりすることで、個々の大学の個性化・特色化を積極的に進めてきた結果、大学全体の多様化は大いに進んだ。しかしながら、学士課程あるいは各分野の教育における最低限の共通性があるべきではないかという課題は必ずしも重視されなかった。
 例えば、学位に付記する専攻分野の名称は年々多様化し、その種類は、平成十七年度時点で約五八〇に達する。また、その名称の約六割は、専ら当該大学のみで用いられている。このように過度に細分化された状態が、真に学問の進展に即したものなのか、学生の学習成果を表現するものとして適切なのか、能力の証明としての学位の国際的通用性を阻害するおそれはないのか、懸念を持たざるを得ない状況である。
 こうした状態は、今後進めていこうとする留学生交流についても、隘路となってしまうおそれがある。
 (3)改革の方向
 (ア)学位授与の方針に関し、以上のような国際的な動向や我が国の実情を踏まえると、今後、学生による学習の成果を重視する観点から、各大学では、学位授与の方針や教育研究上の目的を明確化し、その実行と達成に向けて教育活動を展開していくことが必要となる。
 (イ)各大学において、学生の学習成果に関する目標を掲げるに当たっては、二十一世紀型市民として自立した行動ができるような、幅の広さや深さを持つものとして設定することが重要である。また、各大学の教育理念や建学の精神との関連に十分留意して、学習成果として目指す姿を明確に示し、これを学生に浸透させることが必要である。
 その際、一般教育や共通教育、専門教育といった科目区分にとらわれることなく、また、学生の自主的活動や学生支援活動を含む教育活動全体を通じて検討されるべきである。
 (ウ)また、国として、そうした大学の取組を支援していくとともに、個別大学の取組を支える基盤として、分野を横断し、さらには各分野にわたり、学位の水準の具体的な枠組みづくりを促進していくことが極めて重要となる。
 我が国は、OECDの高等教育における学習成果の評価(AHELO)のフィージビリティ・スタディに参加する意志を表明しており、こうした動きへ適切に対応していく観点からも、必要な取組を進めていくことが求められる。
 (エ)なお、「具体的な改善方策」の「国によって行われるべき支援・取組」では「各専攻分野を通じて培う学士力〜学士課程共通の学習成果に関する参考指針〜」(以下、「参考指針」という。)を掲げている。
 これは分野横断的に、我が国の学士課程教育が共通して目指す学習成果に着目したものであり、我が国の学士課程の多様な現実(アメリカのリベラル・アーツ型から医歯薬学教育等の職業教育まで)を踏まえる必要があるという認識に立ち、できる限り汎用性があるものを提示するよう努めた。
 参考指針は、どの分野を専攻するのか、将来像答申の掲げる諸機能のいずれに重点を置くのかを問わず、それぞれの大学、学部・学科において、自らの教育を通じて達成していくものとして受け止めていただきたい。
 (オ)この参考指針は、個々の大学における学位授与の方針等の策定のための参考となることを意図したものであり、もとより、その適用を国が各大学に強制することを求める趣旨ではない。
 学士課程における学習成果の目標について、一定の標準性が望まれるとしても、その実現や評価の手法は多様であるべきであり、各大学の自主性・自律性が尊重されなければならない。また、参考指針が提示しているのは、標準的な項目にとどまるものであり、実際に各大学が学位授与の方針等を定める場合には、当該大学の教育理念や学生の実態に即して、各項目の具体的な達成水準などを主体的に考えていく必要があろう。
 さらに、国においても、参考指針の内容を固定的に考えることなく、OECDの取組など国際的な動向を踏まえつつ、我が国の実情を勘案しながら、必要な見直しを柔軟に行うことを望みたい。
 (カ)学士課程教育に関しては、諸答申において、教養教育と専門基礎教育とを中心とするという考え方が謳われており、改正された教育基本法では「高い教養と専門的能力を培う」(第7条)旨が大学の基本的な役割として規定されている。
 教養の意味・内容をめぐっては、多年にわたって様々な議論のあるところであるが、今回の参考指針は、学生の学習成果という観点から記述したものである。ここに挙げられたものは、教養を身に付けた市民として行動できる能力として位置付けることができる。
 (4)具体的な改善方策
 【大学に期待される取組】
 ◆大学全体や学部・学科等の教育研究上の目的、学位授与の方針を定め、それを学内外に対して積極的に公開する。
 その際、それらが抽象的な記述にとどまらず、学生に身に付けることが期待される学習成果を重視する観点から、具体的で明確なものとなるように努める。
 ◆学位授与の方針の策定に当たって、PDCAサイクルが稼動するようにする。学内の共通理解を確立すること、実践の段階に応じて目標を具体化すること、客観的に測定可能な指標によってあらかじめ目標を設定しておくこと等に留意する。
 ◆学位授与の方針等に即して、学生の学習到達度を的確に把握・測定し、卒業認定を行う組織的な体制を整える。
 各大学の個性や特色、専門分野の特質に応じて、客観性・標準性を備えた学内試験の実施や外部試験の結果の活用についても検討し、適切に対応する。
 ◆大学の実情に応じ、学位の水準を確保する観点から、学位授与の方針の策定、学位審査体制の確立に当たって、それらの客観性を高める仕組みについて検討する。
 例えば、大学間連携の取組の一環として相互に関与したり、外部専門家の意見を参考にしたりすることを検討する。
 ◆学位に付記する専攻分野の名称については、学問の動向や国際的通用性に配慮して適切に定める。
 類例がなく定着していない名称は避けるよう努める。仮にそれを用いる場合、依拠・関連する既存の学問領域との関係について説明責任を果たすようにする。

 【国によって行われるべき支援・取組】
 ◆国として、学士課程で育成する二十一世紀型市民の内容(日本の大学が授与する学士が保証する能力の内容)に関する参考指針を示すことにより、各大学における学位授与の方針等の策定や分野別の質保証枠組みづくりを促進・支援する。
 各専攻分野を通じて培う学士力 〜学士課程共通の学習成果に関する参考指針〜
 1. 知識・理解
 専攻する特定の学問分野における基本的な知識を体系的に理解するとともに、その知識体系の意味と自己の存在を歴史・社会・自然と関連付けて理解する。
 (1)多文化・異文化に関する知識の理解
 (2)人類の文化、社会と自然に関する知識の理解
 2. 汎用的技能
 知的活動でも職業生活や社会生活でも必要な技能
 (1)コミュニケーション・スキル
 日本語と特定の外国語を用いて、読み、書き、聞き、話すことができる。
 (2)数量的スキル
 自然や社会的事象について、シンボルを活用して分析し、理解し、表現することができる。
 (3)情報リテラシー
 情報通信技術(ICT)を用いて、多様な情報を収集・分析して適正に判断し、モラルに則って効果的に活用することができる。
 (4)論理的思考力
 情報や知識を複眼的、論理的に分析し、表現できる。
 (5)問題解決力
 問題を発見し、解決に必要な情報を収集・分析・整理し、その問題を確実に解決できる。
 3. 態度・志向性
 (1)自己管理力
 自らを律して行動できる。
 (2)チームワーク、リーダーシップ
 他者と協調・協働して行動できる。また、他者に方向性を示し、目標の実現のために動員できる。
 (3)倫理観
 自己の良心と社会の規範やルールに従って行動できる。
 (4)市民としての社会的責任
 社会の一員としての意識を持ち、義務と権利を適正に行使しつつ、社会の発展のために積極的に関与できる。
 (5)生涯学習力
 卒業後も自律・自立して学習できる。
 4. 統合的な学習経験と創造的思考力
 これまでに獲得した知識・技能・態度等を総合的に活用し、自らが立てた新たな課題にそれらを適用し、その課題を解決する能力

 ◆将来的な分野別評価の実施を視野に入れて、大学間の連携、学協会を含む大学団体等を積極的に支援し、日本学術会議との連携を図りつつ、分野別の質保証の枠組みづくりを促進する(第4章で説明)。
 例えば、大学の個性化・特色化に伴う教育の多様性の確保に配慮しつつ、学習成果や到達目標の設定、コア・カリキュラムの策定、モデル教材やFDプログラムの研究開発などを促進する。
 あわせて、海外の先導的な事例に関する情報収集を行い、その成果を広く提供する。
 ◆OECDの高等教育における学習成果の評価(AHELO)の内容・方法が適切なものとなるよう、関与・貢献していく。
 我が国は、OECDの高等教育における学習成果の評価(AHELO)のフィージビリティ・スタディに参加する意志を表明している。フィージビリティ・スタディの過程では、調査結果が安易な序列化を招くことなく、信頼に足るものとなるようにするとともに、我が国の大学教育の質の向上に寄与する知見が得られるように努める。
 ◆学習成果の測定・把握や、学習成果を重視した大学評価の在り方などについて、調査研究を行う。諸外国の先進事例を調査する。また、国として直接、あるいは、大学間の連携強化に向けた取組の支援を通じ、学生の生活実態や価値観、学習状況に関する実証的なデータを整備する。
 ◆学位に付記する専攻名称の在り方について、一定のルール化を検討するとともに学問の動向や国際的通用性に照らしたチェックがなされるようにする。
 ルール化の検討に当たっては、日本学術会議や学協会等との連携協力を図る。また、英名表記の国際的通用性の確保に留意する。学部等の設置審査や評価に際しては、唯一単独の名称を用いる場合、関連する学問領域との関係について十分な説明を求め、必要に応じ、見直しを含め適切な対応を促す。
 ◆産学間の相互理解を深め、連携を強化するため、関係者の対話の機会を設ける。そうした機会を通じ、産業界のニーズを学士課程教育の改善に向けて適切に反映するとともに、大学の実情に関する産業界の理解の増進を図り、必要な支援や協力(例えば、企業の採用活動の早期化等の是正、職業教育分野における学習成果の在り方に関する共同研究)を要請する。

 第2節 教育課程編成・実施の方針について〜学生が本気で学び、社会で通用する力を身に付けるよう、きめ細かな指導と厳格な成績評価を〜

 教育課程編成・実施の方針に基づき、学生を本気で学ばせるとともに、単位制度を実質化させることは、入難出易と言われてきた我が国の大学において大きな課題であった。さらに、教育課程の内容にとどまらず、学生の視点を踏まえつつ、指導方法、成績評価の改善を講じ、学生が社会で通用する力を確実に身に付けさせるようにすることが、いよいよ重要となっており、学生本位の改革を進めていくことが求められている。
 以下では、教育課程編成・実施の方針について、教育課程の体系化、単位制度の実質化、教育方法の改善、成績評価の四点に分けて述べる。

 1 教育課程の体系化
 (1)現状と課題

 @教育課程の体系性
 (ア)教育課程編成・実施の方針については、学位授与の方針や教育研究上の目的等との整合性・一貫性を持つことが求められる。また、法制上も、教育課程が体系性を持つことが要請されている。また、各大学では、それぞれの個性と特色に基づいて、基礎教育や共通教育、専門基礎教育、専門教育などの適切な区分を設けた上で、教育課程を編成・実施することが期待されている。
 学士課程教育を通じて到達すべき学習成果は、こうした科目のみでなく、課外活動を含め、あらゆる教育活動の中で、修業年限全体を通じて培うものである。
 (イ)かねて我が国の学士課程の教育課程については、科目内容・配列に関して個々の教員の意向が優先され、必ずしも学生の視点に立った学習の系統性や順次性などが配慮されていない、あるいは、学生の達成すべき成果として目指すものが組織として不明確である、などの課題が指摘されてきた。個々の科目についても、その目標や、内容・水準が判然としないことがあり、単位の互換性や通用性の面でも、支障が生じかねない。
 多様な科目から場当たり的な選択がなされる、あるいは中核となる科目の位置付けが曖昧であるならば、学生の学びは、狭く偏るか、逆に散漫になり、学生の到達すべき学習成果として想定していたものは達成されない。
 また、専門教育については、大学院の役割が大きくなっており、学士課程教育では、完成教育よりも、専門分野を学ぶための基礎教育や学問分野の別を超えた普遍的・基礎的な能力の育成が強調されている。そこで、教育課程の体系性に関しても、学問の知識の体系性だけでなく、当該大学の教育研究上の目的に即して、専攻分野の学習を通して、いかに学生が、学習成果を獲得できるかという観点に立つことが一層大切となる。
 (ウ)目的意識の希薄化、学習意欲の低下等、学生の多様化により、大学側の対応の困難性は増している。最終的には、課題探求能力という高等教育に相応しい高次の目標の達成に努める必要があるが、一方で、基礎的な読解力や文章表現力などを修得させることも重要である。
 また、学生に目的意識を持たせ、学習意欲を喚起する観点から、地域や産業界との連携を深め、外部人材の積極的な参画を得たり、質の高い体験活動の機会を積極的に設けたりするなど、開かれた教育活動を推進することも有意義である。
 A大綱化以降の教育課程の変化
 (ア)大学設置基準の大綱化以降、科目区分、必修教科などの見直しが急速に進んだ。また、学部・学科等の組織の改組が活発に行われ、学位の専攻分野の名称と同様、多様な名称の学部・学科が登場するようになった。
 こうした組織改編等の中では、現代的な課題に即した学際的な取組を目指した動きが目立つようになっている。
 (イ)文部科学省の調査によれば、直近の過去五年間に限っても、八五%の大学がカリキュラム改革を実施している。また、この一〇年間で実施率が大きく伸びた科目・内容として、情報教育科目、文書作成の訓練、ボランティア活動、インターンシップ、大学外の教育施設等における学修の単位認定などがある。
 このように、カリキュラム改革の進展により、多様な科目が開設され、総じて学生の選択幅が広がってきたことが伺える。
 (ウ)また、様々な調査研究によれば、大綱化以降、分野による相違はあるものの、全般的に以下の傾向が見られる。
 第一に、教育課程の中で専門教育の比重が増している。具体的には、基礎教育や共通教育の履修単位の減少と専門基礎教育の組み込みが見られる。専門職業との結び付きの強い学部(例:医療、家政、芸術系)では、専門教育の早期化や高度化が生じている。
 なお、高学年向けの共通教育や基礎教育はあまり普及していない。
 第二に、共通教育や基礎教育において、外国語能力や情報活用能力など、スキルの訓練に関する教育の比重が大きくなっている。
 第三に、初年次教育や補習教育、資格取得支援、就職支援、インターンシップなどが様々なかたちで教育課程内外に位置付けられる例が増えつつある。
 第四に、学際的な教育活動について、関連する学問の知識体系(ディシプリン)に関する基礎教育が必ずしも十分になされていない。
 第五に、人文系、社会系などの学部は、基礎教育や自由選択の比重が高いこともあって、専門教育の学際化が進んでいる。
 (エ)各大学では、学生の変化や社会的ニーズに柔軟に応えようとする努力が見られる。しかし、その努力が、学士課程教育の本来の姿を実現し、教育水準の維持・向上に寄与しているとは言い切れない。
 例えば、第1節で述べたとおり、企業全般が学卒者に即戦力を求めているとの誤解により、学生の就職支援にかかる教育活動が実施される場合、それが学士課程教育の一部として位置付けられるのにふさわしい内容・水準を持つのか、その実施体制は十分かなど、疑問の生ずる事例も見受けられる。
 (オ)また、先行研究により、教育課程の改革に向けた大学の取組、学生の学習活動や意識・価値観などについて、分野別の実情が明らかにされつつある。
 学士課程の学生の約半数を占める人文・社会系の学科での教育課程の体系化・構造化に向けた取組が十分でないという指摘もある。
 ただし、こうした現状分析に当たっては、大学・学部等の教育環境などによる影響も無視できない。今後の分野別の質保証の枠組みづくりに向けた審議に当たっては、我が国の大学の実態や学問の在り方、また、国際的な通用性を踏まえた十分な検討が望まれる。
 (2)改革の方向
 (ア)各大学では、学位授与の方針等の確立と同時に、教育課程の体系的な編成が重要である。
 開設科目の種類と内容が多様でも、それが学位授与の方針や教育課程編成・実施の方針と遊離せず、学生の体系的な履修が可能となっていることが肝要である。
 (イ)また、多くの学生が、入学時に学科等への所属を決定しているが、これにより、共通教育や基礎教育の後退傾向や専門教育の早期化の動き、さらに第3節で触れる入学者受入れの方針も相まって、学生の学びの幅を早期から狭めてしまうことが懸念される。
 ユニバーサル段階において、自己決定力の未熟な学生も目立つ中、入学してから時間のゆとりを持って専門分野を選択できる、あるいは柔軟に変更できる仕組みづくりも検討課題とすべきである。
 (ウ)なお、大学設置基準の大綱化以降、国立大学を中心に、基礎教育や共通教育の担い手であった教養部が改組され、その多くが廃止された。この改革は、旧教養部等の教員に限らず、多くの教員が基礎教育や共通教育に携わることを目指すものであったが、現実には、個々の教員には、研究活動や専門教育を重視する一方、基礎教育や共通教育を軽んじる傾向も否めないという課題も残っている。
 各大学において、その実情に応じて、基礎教育や共通教育の望ましい実施・責任体制について、改めて真剣に議論し、適切な対応を取っていく必要がある。
 (3)具体的な改善方策
 【大学に期待される取組】
 ◆学習成果や教育研究上の目的を明確化した上で、その達成に向け、順次性のある体系的な教育課程を編成する(教育課程の体系化・構造化)。
 教養教育や専門教育などの科目区分にこだわるのでなく、一貫した学士課程教育として組織的に取り組む。専攻分野の学習を通して、学生が学習成果を獲得できるかという観点に立って、教育課程の体系化を図る。その際、例えば、科目コード(履修年次等に応じて付記)による履修要件の設定や科目選択の幅の制限等も検討する。
 ◆幅広い学修を保証するための、意図的・組織的な取組を行う。例えば、多様な学問分野の俯瞰を可能とする教育課程の工夫や、主専攻・副専攻制の導入等を積極的に推進する。また、入学時から学生が学科に配置され、専ら細分化された専門教育を受ける仕組みについては、当該大学の実情に応じて見直しを検討する(例えば、学部・学科間の移動の弾力化、学部・学科の在り方の見直しなど
 ◆英語等の外国語教育において、バランスのとれたコミュニケーション能力の育成を重視するとともに、専門教育との関連付けに留意する。
 「読む・書く・聞く・話す」の四技能のバランスに留意し、例えば、学内のライティングセンターなどにより、学習支援を行う。専門分野を学ぶために必要な語学力の修得を目指した教育活動を展開する。TOEFLやTOEICなどの結果に基づいて単位認定を行う場合、大学教育にふさわしい水準か、また、単位数が適当か等について吟味する。
 ◆キャリア教育を、生涯を通じた持続的な就業力の育成を目指すものとして、教育課程の中に適切に位置付ける。
 豊かな人間形成と人生設計に資するものであり、単に卒業時点の就職を目指すものではないことに留意する。アウトソーシングに偏ることなく、教員が参画して学生のキャリア形成支援に当たる。大学が責任を持って関与するインターンシップと、単なるアルバイトを区別する(後者は単位認定の対象にならない)。
 ◆一方的に知識・技能を教え込むのではなく、豊かな人間性や課題探求能力等の育成に配慮した教育課程を編成・実施する。
 例えば、資格取得にかかる教育を行う場合であっても、バランスのとれた教育活動を行う。教育課程内の活動とあわせて、学生の自主的な活動等の充実に向けた支援に努める。
 ◆共通教育や基礎教育の重要性について教員間の共通理解を確立し、教育活動への積極的な参画を促す。また、これらの教育における努力や業績を適切に評価する。
 共通教育や基礎教育の目的達成を、特定の科目に任せない。例えば、アカデミック・ライティングについては、基礎教育科目だけでなく、専門科目の学習を通じた実践的な訓練も行うことが望ましい。
 ◆個別大学の枠を超えて、地域の実情に応じて、大学間や地域の諸団体との連携・協同を強化し、学生に対する教育内容を豊富化する。
 地方公共団体をはじめとする地域の諸団体との連携・協力を推進し、地域の教育資源や教育力を活用する。また、大学間連携においては、共同プログラムの開発、単位互換などを進める。
 その際、基礎教育や共通教育の充実の観点から、放送大学との単位互換も検討する。さらに、大学の個性・特色に応じて、地域社会に貢献する人材の育成に取り組む。

 【国によって行われるべき支援・取組】
 ◆個性や特色のある教育課程に関する優れた実践に対し、積極的に支援するとともに、そのための体制を整備する。
 例えば、学習成果に関する考え方を明確化し、順次性のある体系的な教育課程を実施する取組や、幅広い学修を保証するための意図的・組織的な取組などを支援する。
 ◆大学間の連携、学協会を含む大学団体等を支援し、国際的な通用性に留意しつつ、分野別のコア・カリキュラムを作成する等の取組を促進する。
 ◆大学間の連携強化に向けた取組を支援し、共同プログラムの開発、単位互換等を促進する。
 ◆国公私の設置形態の枠組みを超えて、複数の大学が、共同で教育課程を編成・実施し、修了者に対して連名で学位授与を行うことができる教育課程の共同実施制度を創設し、その普及を図る。
 ◆産学間の対話の機会を設け、インターンシップの推進に向けた理解の増進などの環境整備を進める。

 2 単位制度の実質化
 (1)現状と課題

 (ア)アメリカなどの諸外国と同様、我が国の大学教育のシステムは、単位制度を採用しており、この的確な運用は、教育の質の維持、国際的な通用性の確保の観点から不可欠である。従来単位制度をとっていなかった欧州においても、欧州高等教育圏の実現を目指す一環として、その導入に踏み切っており、単位制度の考え方は一種の国際標準となってきている。
 (イ)我が国の単位制度は、授業時間外に必要な学修等を考慮して、四五時間相当の学修量をもって一単位と定めており、制度上要請される学習時間としては、諸外国と比較して低いわけではない。
 しかしながら、内閣府の調査(平成十二年度)では、学外の勉強を「ほとんどしていない」者が約半数に達しており、最近の研究者の調査でも、学習時間の少ない学生が相当の割合に上ることが確認されている。総務省の調査(平成十八年度)では、学内外を通じた学習時間(土日を含む一日平均)は、三時間三〇分である。国際的な比較からも、我が国の大学生の学習時間は短い。
 こうした実態は、単位制度の趣旨を踏まえて運用されているとは言い難い。
 (ウ)学生の学習時間は、学習成果の達成にも密接に関連すると思われる。単位制度の実質化の必要性は、これまでも指摘され、改善策が提言されてきており、シラバス、セメスター制、キャップ制、GPA(Grade Point Average)などの諸手法が導入されてきた。文部科学省の調査(平成十八年度)では、各大学では、これらの取組は相当に普及しており、例えば、九割以上の大学がすべての授業科目のシラバスを作成している。
 しかし、学習時間の実態を鑑みると、これらの取組が十分に機能しているとは言えない。その原因の一つとして、諸手法の導入に当たって、単位制度の実質化とのかかわりが十分に理解されていない、あるいは相互連携の必要性が認識されていない可能性が考えられる。
 例えば、シラバスにおいて「準備学習等についての具体的な指示」を盛り込んでいる大学は約半数にとどまっており、学生が必要な準備学習等を行ったり、教員がこれを前提とした授業を実施する環境にないことが懸念される。また、キャップ制については、一年間の上限単位数が多過ぎて、各年次にわたって適切に授業科目を履修するという趣旨に必ずしも沿っていない事例も見られる。
 (2)改革の方向
 (ア)このような状況を踏まえ、単位制度の国際的な通用性の観点から、学習時間の実態を国際的に遜色ない水準にすることを目指して、総合的な取組を進める必要がある。
 その前提として、一単位当たりの授業時間数が、大学設置基準の規定に沿っている必要がある。具体的には、講義や実習等の授業の方法に応じて一五〜四五時間とされており、講義であれば一単位当たり最低でも一五時間の確保が必要とされる。これには定期試験の期間を含めてはならない。
 各大学では、学習時間などの実態を把握した上で、その結果を教育内容・方法の改善に生かすことが必要である。また、教育課程の体系化を進めた上で、きめ細かな履修指導と学習支援の実施も求められる。
 (イ)なお、学習時間の在り方を論じるに当たっては、学生の学習意欲等の問題のみに原因を求めることは適当ではない。学生生活において、アルバイトが相当の比重を占めるという実態があるが、経済的な困難を抱える学生が増大し、学習に専念できない状況が広がりつつある可能性を十分に認識しておく必要がある。
 (3)具体的な改善方策
 【大学に期待される取組】
 ◆自己点検・評価活動の一環として学習時間等の実態を把握し、単位制度の実質化の観点から、教育方法の点検・見直しを行い、質の向上を図る。
 卒業要件単位数、各科目の単位数配当、履修指導と学習支援の在り方などの点検・見直しを行い、諸手法(シラバス、セメスター制、キャップ制、GPAなど)を相互に連携させて運用する。
 点検・評価のための目安として、具体的な学習時間を設定することも検討する。
 ◆学部・学科等の目指す学習成果を踏まえて、各科目の授業計画を適切に定め、学生等に対して明確に示すとともに、必要な授業時間を確保する。
 シラバスに関しては、国際的に通用するものとなるよう、以下の点に留意する。
 ・各科目の到達目標や学生の学修内容を明確に記述すること
 ・準備学習の内容を具体的に指示すること
 ・成績評価の方法・基準を明示すること
 ・シラバスの実態が、授業内容の概要を総覧する資料(コース・カタログ)と同等のものにとどまらないようにすること
 ◆各科目の授業時間内及び事前・事後の学習の充実の観点から、各セメスターで履修する科目の数・種類が過多とならないようにする。
 例えば、細分化された二単位科目(週一回開講)を多数履修する在り方を見直し、三単位又は四単位科目(間に休憩を入れた二コマ続きの授業又は週複数回開講する授業)を標準形態とする。科目登録等に際し、各学生の実情に応じて登録の適否等に関する履修指導を積極的に行う。
 それらの種々の取組とあわせて、キャップ制の導入や受講科目数に対応した柔軟な授業料システムについて検討する。

 【国によって行われるべき支援・取組】
 ◆各大学の自己点検・評価の一環として、学習時間の現状把握を行い、教育改善に生かすように促す。
 ◆適切な上限単位数を設定するなど単位制の実質化の趣旨に沿ったキャップ制の導入を促進する。
 ◆シラバスの内容(準備学習の内容や目安となる学習時間等についての具体的な指示を含む)を調査し、各大学における単位制の実質化に向けた取組を把握する。
 ◆各種の財政支援に当たって、単位制度の実質化に向けた取組など、質保証の在り方を勘案する。

 3 教育方法の改善
 (1)現状と課題

 (ア)第1節では、大学教育の改革については、「何を教えるか」よりも「何ができるようになるか」に力点が置かれることを述べたが、このことは、教育内容以上に、教育方法の改善の重要性を意味する。
 学習意欲や目的意識の希薄な学生に対し、どのような刺激を与え、主体的に学ぼうとする姿勢や態度を持たせるかは、極めて重要な課題である。
 (イ)第1節に掲げた学士力は、課題探求や問題解決等の諸能力を中核としている。学生にそれを達成させるようにするには、既存の知識の一方向的な伝達だけでなく、討論を含む双方向型の授業を行うことや、学生が自ら研究に準ずる能動的な活動に参加する機会を設けることが不可欠である。研究という営みを理解し、実践する教員が、学生の実情を踏まえつつ、研究の成果に基づき、自らの知識を統合して教育に当たるということが改めて大切な意義を有する。すなわち、教育と研究との相乗効果が発揮される教育内容・方法を追求することが、ユニバーサル段階の大学にとって一層重要である。
 その意味で、大衆化した大学における学士課程教育の充実と、教育と研究を活動の両輪とする大学制度は矛盾するものではない。
 (2)改革の方向
 (ア)各大学においては、教育方法に着目したときに、学生の主体的な参画を促す授業となっているか、授業以外の様々な学習支援体制が整備されているか、学内にとどまらず、積極的に体験活動を取り入れているかなどについて、改めて点検・見直しが必要である。
 (イ)教育環境の面では、少人数指導の推進(教員一人当たり学生数の比率の維持向上等)、支援スタッフや情報通信技術等の活用、豊かな課外活動や自習を可能とする施設・設備の整備など、双方向性を確保した教育システムが欠かせない。
 この点で、国際競争力を有するアメリカの大学との懸隔は大きく、教育投資の大幅な拡大が望まれる。
 (ウ)なお、情報通信技術の活用は、教育の双方向化・システム化を飛躍的に推進する可能性を秘めており、その普及が望まれるが、それ自体はあくまで教育の手段であって、目的ではない。各大学にとって、それぞれが目指している学習成果や、教育研究上の目的の達成にとって有効か、対面授業に準ずる教育効果が確保されるのか、などの適切な判断が求められる。
 (3)具体的な改善方策
 【大学に期待される取組】
 ◆学習の動機付けを図りつつ、双方向型の学習を展開するため、講義そのものを魅力あるものにするとともに、体験活動を含む多様な教育方法を積極的に取り入れる。
 学生の主体的・能動的な学びを引き出す教授法を重視し、例えば、学生参加型授業、協調・協同学習、課題解決・探求学習などを取り入れる。大学の実情に応じ、社会奉仕体験活動、フィールドワーク、インターンシップ、海外体験学習や短期留学等の体験活動を効果的に実施する。学外の体験活動についても、教育の質を確保するよう、大学の責任の下で実施する。
 ◆TA(ティーチング・アシスタント)等を積極的に活用して、双方向型の学習や少人数指導を推進する。
 授業における指導(例えば、ディスカッション、討論など)への参画、授業外の学習支援など、TAの役割を一層拡大する。優秀な学部学生をSA(スチューデント・アシスタント)として活用することも検討する。
 ◆教育研究上の目的等に即して情報通信技術を積極的に取り入れ、教育方法の改善を図る。
 的確な授業設計を行った上で、例えば、以下のような取組について検討する。
 ・ビデオ・オン・デマンド・システム等、eラーニングの活用による遠隔教育
 ・学習管理システム(LMS:Learning Management System)を利用した事前・事後学習の推進
 ・教室の講義とeラーニングによる自習の組み合わせ、講義とインターネット上でのグループワークの組合せ(いわゆるブレンディッド型学習)の導入
 ・携帯端末を活用した学生応答・理解度把握システム(いわゆるクリッカー技術)による双方向型授業の展開

 【国によって行われるべき支援・取組】
 ◆少人数指導の推進や情報通信技術の活用などに必要な施設・設備の整備を含め、教育方法の改善に向けた優れた実践を支援する。
 ◆学生に対して特に刺激を与える体験活動として、諸外国の大学との間の短期留学の派遣・受入れを積極的に推進する。
 これらを促すため短期留学生向けも含めた宿舎等の住環境・生活環境の整備を支援する。
 ◆TA等の教育支援人材の大幅な増加に向けて支援を行う。
 例えば、学部学生を含めてTA等の活用に対する支援を充実させる。
 ◆TA等の訓練等の取組を支援するとともに、各分野でのTA等のより積極的な活用に向け、各大学に対して環境整備を促す。
 例えば、業務内容及び教員との役割・責任分担の明確化、待遇の適正化、学内でのTAやSAの評価・統括システムの整備を促す。
 ◆大学間の連携、学協会を含む大学団体等を支援し、国際的通用性に留意しつつ分野別のモデル教材を作成する等の取組を促進する。
 ◆教育方法の革新に向け、基礎的な調査研究や実践事例の情報収集・提供、学協会を含む大学団体等の取組の連絡調整等を行う拠点を創設する可能性を検討する。

 4 成績評価
 (1)現状と課題

 (ア)我が国の学士課程教育をめぐっては、卒業認定における評価の厳格化も大きな課題となっている。
 評価の厳格化は、卒業時だけの問題ではなく、入学してからの教育指導の過程における成績評価についても、学生の成長という観点から考えなければならない。
 (イ)これまで、文部科学省は、成績評価基準の明示、アメリカで一般的に普及しているGPA等の客観的な仕組みの導入を各大学に促してきた。
 しかし、修業年限での卒業率や中退率などの指標で見る限り、我が国の大学の成績評価が厳格化してきているとは言えない。中退者の少なさは国際比較でも顕著であり、そのこと自体は、否定すべきではないが、適正な評価が行われていない可能性も示唆される。
 (ウ)我が国の大学は、成績評価について、個々の教員の裁量に依存しており、組織的な取組が弱いと指摘されてきた。従来のままでは、大学全入時代の学生の変容に際し、学生確保という経営上の要請も相まって、なし崩し的に安易な成績評価が広がるおそれがある。
 (2)改革の方向
 (ア)このため、教員間の共通理解の下、各授業科目の到達目標や成績評価基準を明確化するとともに、GPAをはじめとする客観的な評価システムを導入し、組織的に学修の評価に当たっていくことが強く求められる。
 (イ)評価に当たっては、多様な活動の成果を評価する観点から、学生の学修履歴等の記録と自己管理のためのシステムを開発することは、学習成果を重視した評価の条件整備として重要である。
 (ウ)なお、GPAの導入と運用に当たっては、国際的に認知されているGPAの一般的な在り方に十分留意すべきである。
 また、成績評価の結果については、基準に準拠した適正な評価がなされているかなどについて、組織的なチェックが働くような仕組みが必要となる。
 (エ)客観的な評価の推進には、資格や検定といった外部試験などの活用も考えられる。その際は、大学自身の学位授与の方針や教育課程編成・実施の方針との整合性の考慮が求められる。
 なお、客観的な評価という場合、特定の時点で実施するペーパーテストによる方法のみを想起するとすれば、必ずしも当を得たものではない。他の先進諸国でも、標準的なテストによって大学生の学習成果を測定することの可否、妥当性に関しては結論を見ておらず、十分な研究を要する課題となっている。
 第1節で示した学士力の学習成果の達成度を評価しようとするならば、多面的できめ細かな評価方法を取り入れることが望まれる。
 (オ)成績評価の厳格化や、卒業時の出口管理の強化は、単に学生を振るい落とすことが目的ではなく、学生の利益を増進する配慮も忘れてはならない。GPAも、学生へのきめ細かな履修指導や学習支援の実施、評価機会の複数化と一体的に運用し、学習成果の効果的な達成を促すことに意義がある。
 また、教育システムの在り方として、必要な時に再挑戦ができる柔軟な仕組みづくりが望まれる。
 (3)具体的な改善方策
 【大学に期待される取組】
 ◆教員間の共通理解の下、成績評価基準を策定し、その明示について徹底する。
 成績評価の結果については、基準に準拠した適正な評価がなされているか等について、組織的な事後チェックを行う。また、成績評価の通用性を高める方策として、当該教員以外の第三者の参画を求める仕組みを検討する。
 ◆GPA等の客観的な基準を学内で共有し、教育の質保証に向けて厳格に適用する。
 GPAを導入・実施する場合は、以下の点に留意する。
 ・国際的にGPAとして通用する仕組みとする(例えば、評価の設定を標準的な在り方に揃える、不可となった科目も平均点に算入する、留年や退学の勧告等の基準とするなど)。
 ・アドバイザー制を導入する等、きめ細かな履修指導や学習支援をあわせて行う。
 ・教員間で、成績評価結果の分布などに関する情報を共有し、これに基づくFDを実施し、その後の改善に生かす。
 ・その他単位制度の実質化に向けた諸方策を総合的に講じる。
 ◆学生が、自らの学習成果の達成状況について整理・点検するとともに、これを大学が活用し、多面的に評価する仕組み(いわゆる学習ポートフォリオ)の導入と活用を検討する。
 ◆各大学の実情に応じ、在学中の学習成果を証明する機会を設け、その集大成を評価する取組を進める。
 例えば、卒業論文やゼミ論文などの工夫改善や新規導入を実施したり、学部・学科別の、あるいは全学的な卒業認定試験を実施したりすることを検討、研究する。
 ◆国際性を特色とする大学においては、外国語コミュニケーション能力の評価を厳格に行う。
 例えば、卒業や進級の要件として、客観的な到達目標を独自に設定する(専門分野を学ぶために必要な語学力の修得等)。TOEFLやTOEICなどの検定の結果を活用する。

 【国によって行われるべき支援・取組】
 ◆徹底した出口管理、成績評価の厳格化について先導的に取り組んでいる大学に対して支援を行う。
 そうした支援を通じ、例えば、当該大学において、成績優秀な学生に対する経済的支援(授業料減免や奨学金の返還免除など)を行うことや、学生が自らの学習成果の達成状況について整理・点検するための仕組みづくりなどを促進する。
 ◆成績評価の在り方に関して、対外的な信頼を確保する上で、最低限共通化すべき事柄は何かを検討し、適切な対応を取る。
 例えば、GPAの標準的な在り方、成績証明書の基本的要件などについて検討する。
 ◆大学間の連携、学協会を含む大学団体等を支援し、国際的な通用性に留意しつつ分野別の学習成果や到達目標の設定などの取組を促進する。
 ◆大学間の連携強化に向けた取組の支援を通じ、成績評価等の在り方について、外部評価や相互評価の取組を促進する。

 第3節 入学者受入れの方針について〜高等学校段階の学習成果の適切な把握・評価を〜

 1 入学者選抜
 (1)現状と課題

 @いわゆる大学全入と高等学校教育・大学教育の新たな課題
 (ア)少子化と大学の入学定員の拡大が進行することに伴い、大学・短期大学の志願者のほとんどが入学できる状態になってきている。このことを形容する大学全入という言葉は、大学進学の需給関係の変化を象徴している。入学をめぐって激しい競争が行われる選抜性の強い大学が一部に存在する一方で、私立大学の四七%(平成二十年度)は入学定員を充足できず、また、合格率が九〇%以上という大学も一〇〇校以上存在する。このように、大学の入学者確保をめぐる状況が二極化しているが、総じて大学への入学が容易となってきている。
 (イ)これまでの大学入試は、大学教育を受けるために必要な学力水準を評価・判定するというよりも、入学者を選抜する機能が強く意識されてきた。
 過度の受験競争は、知識の詰め込みを助長するものであり、自ら学び、自ら考える力などの「生きる力」を育むことを妨げるおそれがある一方、大学進学をめぐる競争が、入学者全体の学力水準を維持・向上させ、高等学校教育の質の保証や大学教育の入口の質を保証する機能を一定程度果たしてきたことは否定できない。
 (ウ)しかし、いわゆる大学全入時代においては、多くの大学において、大学入試の選抜機能が低下し、入試によって入学者の学力水準を担保することが困難な状態になりつつある。
 また、高等学校では、これまでのように、大学入試の存在自体が大学進学希望者の学習意欲を喚起し、高等学校の指導と相乗して学力を定着させることが困難になりつつあるという、入試方法の改善では解決できない問題も指摘されている。
 このように、大学の入口管理と、高等学校教育の質保証を、大学入試の選抜機能に依存し続けるならば、大学及び高等学校の双方に大きな影響を及ぼすと懸念される。
 (エ)第1章で述べたとおり、大学進学率が上昇すること自体は肯定すべきことであり、他の先進諸国でも同様の傾向にあるが、そのことは、高等学校において、大学入試における選抜機能の存在を背景とした指導や大学進学希望者の学習意欲の喚起が困難になっていくことを意味している。
 今後、高等学校・大学は、入試によって学力水準を担保できるという考え方から、様々な方法で客観的に学力を把握し、それを高等学校の指導の改善や大学入試、大学の初年次教育の基礎資料として役立てていくことを通じて学力水準の向上を図るという考え方への転換が求められる。
 A入試方法の多様化の経緯と現状
 (ア)本審議会は、従来、過度の受験競争を緩和する観点から、入試方法の多様化や評価尺度の多元化、受験機会の複数化などについて提言を行ってきた。
 平成十二年の大学審議会答申「大学入試の改善について」は、「十八歳人口の減少や推薦入学の増加等により、相当数の者にとって大学入試が過度の競争ではなくなりつつある中で、高等学校教育と大学教育との円滑な接続をどう図っていくかが重要な課題」との認識を示した。また、入試方法の多様化等の基本的な考え方を維持しながら、受験教科・科目数に関しては、「入学後の教育との関連を十分に踏まえた上で設定することが必要であり、各大学の教育に必要なものを課すことは当然」との認識を示した。また、「まず大学はそれぞれが特色ある教育理念等を確立することが必要であり、それに応じた入学者受入方針(アドミッション・ポリシー)を明確化し、対外的に明示する」ことを強く要請している。
 (イ)このように、様々な社会環境の変化に応じて、大学入試の改善策が示されているが、基本的には、入試方法の多様化を推進する方向で取組が進められている。
 これまで各大学では、学力検査だけでなく、面接、小論文、リスニングテストの実施や、推薦入試、帰国子女や社会人、専門高校・総合学科卒業生を対象とした入試を採用するなど取組を進めてきた。
 しかし、推薦入試やAO入試は、大学進学者は一定の学力を有しているとの前提の下、必ずしも学力検査を課さない形態で普及しており、学力検査を伴う大学の一般入試の割合は五六%(平成二十年度)まで低下した。
 (ウ)このような状況に対して、推薦入試やAO入試における外形的・客観的な基準が乏しく、事実上の学力不問となるなど、本来の趣旨と異なった運用がされているのではないかとの懸念も示されている。
 また、高等学校段階の学習成果を記した重要な資料である調査書の活用状況を見ると、例えば、高等学校の教科・科目の評定平均値を出願要件としているのは、推薦入試・AO入試の実施学部のうち、それぞれ七割、一割にとどまっており、こうした実態も、推薦入試・AO入試をめぐる懸念を強めている。
 大学側も、推薦入試・AO入試の実施学部の半数以上が、学力担保に課題を感じるようになっている。
 (エ)大学入試の改善に関連して、文系志望者、理系志望者がそれぞれ理系科目、文系科目を十分学ぼうとせず、学習の幅が狭く、偏ってしまう懸念が指摘される。そこで、できるだけ募集単位を大くくりにすることが望まれる。これは、学部・学科の縦割りの壁をどのように打破するかなど、学士課程教育の改革と連動して実現される課題でもある。
 (オ)受験生の側に着目すると、多くの大学において入学者受入れの方針の策定が普及したものの、その中身は抽象的なものにとどまるため、高校生に対して習得を求める内容・水準を具体的に示すものとなっていない。
 また、推薦入試やAO入試などの入試方法の多様化が進むにつれて、高校生等にとって入試方法が複雑になり、分かりにくくなっている、入試に携わる大学の教員にとって負担が重くなってきている、との問題も指摘される。
 (カ)我が国の入学者を選抜するシステムは、大学入試センター試験と大学が個別に行う入試の組合せで行われている。
 大学入試センター試験を利用する大学数は、現在、七七七大学・短期大学(平成二十月実施)に至っている。利用大学は、大学入試センター試験によって、高等学校段階の基礎学力を客観的に把握するとともに、当該大学の個性・特色に応じた入試の工夫を行っている。大学入試センター試験は、我が国全体として、入試の改善を推進する上で、大きな貢献をしてきたと言える。
 こうした積極的な評価の上に立ちつつ、各大学は大学全入時代に伴う様々な環境変化を踏まえ、改めて大学入試センター試験と大学が個別に行う入試との関係の在り方について考えることが望まれる。
 B高等学校教育への影響、特定の大学をめぐる過度の競争
 (ア)大学入試の在り方は、社会的な関心が極めて高く、国民生活への影響も大きい。また、高等学校以下の学校教育の在り方とのかかわりも深く、慎重な検討を要する。
 国においては、高等学校以下の教育課程の基準である学習指導要領の改訂が進められており、本審議会は、本年一月、「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について」答申を行った。同答申では、大学入試について、記述式など思考力、判断力、表現力等を問う出題の充実、ボランティア活動などの社会参加の状況の評価の推進などを求めた。
 また、同答申は、大学全入時代における高校生の学習意欲をめぐる課題についても提起した。高校生の学習時間の二極化等が指摘され、大学進学者について、平日の勉強時間が「ほとんどなし」、「三〇分程度」が約三割を占めた調査結果もある。
 (イ)近年の高等学校における必履修科目の未履修問題は、大きな社会問題となった。高等学校関係者が教育課程の基準を遵守せず、大学での選考に重要な調査書の信頼性を著しく損なうことになったのは、極めて残念なことである。
 一方、この問題は、大学入試の選抜機能が低下しつつある今日においても、大学入試が高等学校教育に与える影響が強いという現実を改めて示すことになった。
 (ウ)また、全体から見れば少数であるが、社会的な影響力という面で、選抜性の強い特定の大学をめぐる受験競争の問題も看過できない。大学進学を念頭において行われる中学校受験等をめぐり、競争の低年齢化や裾野の広がりが生じていることも、知・徳・体のバランスのとれた発達や、教育の機会均等といった観点から懸念される。大学全体として見れば、入試方法の多様化等は相当に進んでいるが、こうした特定の大学については、必ずしも多様化が十分に進んでいるとは言えない。
 こうした問題は、社会全体の価値観が反映しているとも考えられ、大学入試だけを通じて解決しようとしても限界がある。
 また、有力な大学への進学をめぐる受験競争は諸外国にも見られ、競争そのものが全否定されるべきでないという意見にも十分留意する必要がある。
 しかしながら、選抜性の強い特定大学にあっては、調査書等で高等学校段階の学習成果を適切に評価するとともに、総合的な学力を問う方向で、入試制度をさらに改善することが望まれる。
 C高等学校と大学の接続の在り方の見直し
 (ア)このように、高等学校と大学の接続については、様々な課題が存在し、必ずしも十分に行われているとは言えない。この問題は、高等学校の努力だけに帰することも、大学の努力だけに帰することもできない。また、客観的できめ細やかな学力の把握にも、各高等学校・大学それぞれの取組だけでは限界がある。
 大学入試の選抜機能の低下が高等学校における大学進学希望者の学習意欲の喚起や指導に影響し、大学の約六割が高等学校の履修状況に配慮した取組が必要となる現在、高等学校・大学は選抜だけでつながる関係から、客観的できめ細やかな学力の把握とそれに基づく適切な指導によって学力向上が図られるよう、共に力を合わせて取り組む関係へと転換することが求められている。
 すなわち、大学全入時代を迎えた今日、教育の質を保証する観点から、システムとして高等学校と大学との接続の在り方を見直すことが重要である。
 (イ)受験生、大学の双方が多様化する中で、学士課程教育の質の維持・向上の前提として、高等学校と大学間の円滑な接続を実現し、両者の希望のマ
ッチングを図るため、高等学校の出口管理や大学入試のシステムを改善することが求められている。そして、それぞれの学校段階において、一人一人の生徒や学生に対し、学力を客観的に把握する指標を活用し、そこで得られた情報を高等学校と大学間で共有することにより、教育の質を保証する新たな仕組みを構築していくことが望まれる。
 (2)改革の方向
 (ア)大学全入時代を迎え、各大学の入試の在り方、高等学校での履修状況や評価の在り方がますます多様化してきている。ユニバーサル段階、大学全入時代を迎え、大学が選抜する時代から、大学と進学希望者とで相互選択する時代に移っている。両者の希望、ニーズのマッチングを図りながら、ともすれば抽象的とされる入学者受入れの方針の明確化が求められる。
 (イ)また、教育の質を保証する観点から、単に個別の学校の努力のみに委ねるのではなく、システムとして、高等学校と大学との接続の在り方を見直していくことが求められる。
 従来、主に過度の受験競争の緩和の観点から、入学者選抜の改善等が推進されてきたが、今後は、各学校段階で最低限必要な知識・技能等を身に付け、若者が人生の階梯を着実に歩んでいく仕組みを再構築していくことが重要である。
 (ウ)本答申を契機に、生徒・学生が意欲を持って学んでいくことができるよう、高等学校及び大学の関係者が緊密に連携を図り、これらの点を踏まえた新たな枠組みづくりに向けた主体的な議論を進めていくことを期待したい。
 その際、本審議会が審議に当たって基礎資料の一つとした「高等学校と大学との接続に関するワーキンググループ」の「議論のまとめ」を踏まえ、以下の「具体的な改善方策」を進めていくことを望みたい。
 (エ)この中で提言している「高大接続テスト(仮称)」に関しては、学力を客観的に把握する方法の一つとして一定の意義があると考えられる一方、高等学校教育の在り方との関係上、留意すべき点も種々あることから、高等学校及び大学関係者間の十分な協議・研究が行われることを期待する。また、この新たな仕組みも含めて、今後、高等学校教育全体の質保証に向けた取組が進められることを望みたい。
 なお、本審議会は、このテストを導入すれば学習意欲や学力が育成されたり、大学入試の選抜機能が回復したりするなど、高等学校との接続の課題が直ちに解消すると考えているわけではない。大学全入時代における学習意欲や学力の育成、大学入試の改善は、学力を客観的に把握する様々な指標に関し、各高等学校・大学・大学進学希望者がいかに有効に活用するか、その努力にかかっている。
 (3)具体的な改善方策
 【大学に期待される取組】
 ◆大学と受験生とのマッチングの観点から、入学者受入れの方針を明確化する。
 その際、求める学生像等だけではなく、高等学校段階で習得しておくべき内容・水準を具体的に示すように努める。特に、高等学校で履修すべき科目や取得が望ましい資格などを列挙するなど最低限「何をどの程度学んできてほしいか」を明示する。
 ◆受験生の能力・適性等を多面的に評価するという観点から、入試の在り方を点検し、適切な見直しを行う。
 個別学力検査は、入学志願者の自ら学ぶ意欲や思考力、判断力、表現力等を適切に判断できるよう一層の改善を図る。また、現行の入試方法が、必要以上に複雑化し、透明性を損なうおそれがある場合は、簡素化・合理化を図る。逆に、入試方法の多様化等が不十分な場合は、改善を図る。
 ◆推薦入試やAO入試については、それぞれの意義を踏まえ、入学者受入れの方針との整合性を確保しつつ、適切に実施する。
 いかなる入試方法であっても基礎学力の把握が適切に行われるべきであるとの認識に立って、学力にかかわる様々な客観的な指標を活用し、学力把握措置を講じる。なお、高等学校の学科ごとの特性にも配慮する。
 また、専ら学生確保の目的のみによって、入試の実施時期の過度の早期化を招くことは避ける。
 さらに、AO入試を担う職員の専門性を高め、体制の充実に努める。
 ◆入試科目の種類・内容については、入学者受入れの方針に基づいて適切に定める。
 その際、入試に限らず、例えば、高等学校の履修の実態も踏まえつつ、あらかじめ履修すべき科目や学習内容を指定又は奨励するなどの手法を活用することも検討する。さらに、文系・理系の区別にかかわらず、幅広い総合的な学力を問う学力検査を行ったり、募集単位を大くくりにしたりすることを積極的に検討する。
 ◆高等学校との接続をより密にする観点から、求める資料の多様化や適切な活用を進める。
 推薦入試において、評定平均値を出願資格や出願の目安として募集要項に明記する等、調査書の積極的な活用に努める(あわせて、高等学校においては、必要な情報を確実に記載することをはじめ、調査書の信頼性や精度を高めるための取組が必要)。高等学校での学習状況に関する資料として、どのような情報を欲しているかをあらかじめ明示し、当該情報の調査書への記入や、関連資料(例えば、主体的な学校外活動の成果の記録や、様々な学習活動に関して整理した記録)の添付を高等学校あるいは受験生に求めるよう努める。
 ◆入試問題作成の合理化を図り、良問を出題する観点から、大学の実情に応じて、過去の試験問題等を利用することも検討する。
 検討に当たっては、当該大学に限定せず、複数の大学間で相互に利用することも選択肢となり得ることに留意する。また、当該大学の入学者受入れの方針との整合性に十分配慮する。
 ◆大学入試に関する取組や関連データの情報公開を積極的に行う。
 
 【国によって行われるべき支援・取組】
 ◆入学者受入れの方針のさらなる明確化や具体化などについて各大学の取組を促す。
 過去の試験問題の利用については、それが適切に行われる場合、公正性に反するものではないという考え方を明らかにする。
 ◆明確な入学者受入れの方針の下、高等学校との接続や連携の面で、優れた教育実践を行っている大学に対して支援を行う。
 ◆推薦入試やAO入試等について、その基本的な留意点を明確化して周知する。
 推薦入試・AO入試等について、調査書を有効に活用するとともに、これを補完する学力把握措置を講ずるように促す。AO入試の実施時期については、青田買い等の批判を受けないよう、実施時期のルール化を図る。
 ◆高等学校段階の学力を客観的に把握・活用できる新たな仕組みづくりについて、高大接続の観点からの取組を進める。
 調査書の活用を促進する観点に立って、その様式を見直す。また、高等学校段階での学力を客観的に把握する方法の一つとして、高等学校の指導改善や大学の初年次教育、大学入試などに高等学校・大学が任意に活用できる学力検査(「高大接続テスト(仮称)」)に関し、高等学校・大学の関係者が十分に協議・研究するよう促す(協議・研究に際しては、大学入試センター試験や各大学の個別学力検査との関係、卒業や入学に関する各校長・各学長の責任・権限、高等学校教育に与える影響、高校生の負担感等についての配慮が必要。)。
 ◆大学入試に関する取組や関連データの情報公開を促す。
 各大学の情報公開の実施状況を調査して公表する。

 2 初年次における教育上の配慮、高大連携
 (1)現状と課題

 @初年次における教育上の配慮
 (ア)入学者選抜をめぐる環境変化、高等学校での履修状況や入試方法の多様化等を背景に、入学者の在り方も変容しており、総じて、学習意欲の低下や目的意識の希薄化などが顕著となっている。
 大学教員を対象とする調査によれば、六割を超える教員が「学力低下」を問題視し、特に論理的思考力や表現力、主体性などの能力が低下していると指摘している。また、大学一年生を対象とした調査結果によれば、大学の授業に「ついていけない」、大学で「やりたいことが見つからない」等の回答が相当の割合を占めている。
 こうした実態を踏まえ、大学においては、高等学校での履修状況に配慮した取組を多くの大学で行うようになってきている。とりわけ、近年では、補習・補完教育が広がりを見せつつあり、文部科学省の調査(平成十八年度)では、約三割の大学で補習・補完授業が実施されている。
 (イ)一方、新たな学校段階への移行を支援する取組として、初年次教育への注目も高まってきている。初年次教育は、「高等学校や他大学からの円滑な移行を図り、学習及び人格的な成長に向け、大学での学問的・社会的な諸経験を成功させるべく、主に新入生を対象に総合的につくられた教育プログラム」あるいは「初年次学生が大学生になることを支援するプログラム」として説明される。
 アメリカの初年次教育は、主体性や意欲の乏しい学生への対応策として考案されたものである。その取組が中退を抑止する上で有効な役割を果たすとともに、その後の大学生活への適応度を規定している。
 我が国の大学においては、初年次教育として、「レポート・論文などの文章技法」、「コンピュータを用いた情報処理や通信の基礎技術」、「プレゼンテーションやディスカッションなどの口頭発表の技法」、「学問や大学教育全般に対する動機付け」、「論理的思考や問題発見・解決能力の向上」、「図書館の利用・文献検索の方法」などが重視されている。
 (ウ)今後、学部・学科等の縦割りの壁を越えて、充実したプログラムを体系的に提供していくことが課題となるが、初年次におけるこれらの教育上の配慮を行うための前提として、当該学生の高等学校での学習状況等に関する必要な情報が、大学に円滑に引き継がれることが大切であり、高等学校との一層緊密な連携を図っていくことも課題となる。
 A高大連携
 (ア)高等学校と大学との接続の場面においては、大学入学者選抜の点のみ焦点化されがちであるが、高等学校と大学との連携により、教育内容や方法等を含めた全体の接続が図られていくことが重要である。
 高大連携の取組により、特定の分野について高い能力と強い意欲を持ち大学レベルの教育研究に触れる機会を希望する生徒に、高等学校段階から科目等履修生として大学の授業科目を履修させることや、その学習成果として生徒が大学の単位を取得し大学進学後に既修得単位として認定を受けることなどは、生徒の能力の伸長を図る上で有効と考えられる。
 また、高大連携は、個々の高等学校教員・大学教員にとって有効な研修の機会となり得るものである。大学の社会貢献機能が着目される中、大学がそれを通して地域社会に教育研究成果を還元していくことも可能になってくるものである。
 しかしながら、高大連携の取組の現状としては、いまだ散発的な状態にとどまっている。
 (2)改革の方向
 (ア)学校間の接続をめぐっては、高等学校が学習指導要領等に基づき、高等学校として求められる学力を保障して卒業生を送り出すこと、また、大学が、安易に学生数の確保を図るのではなく、自らの入学者受入れ方針に基づき、大学教育を受けるに足る能力・適性を見極めて入学者を判定することが本来の在り方である。
 そうした観点からは、補習・補完教育の広がりを安易に是とすることはできないが、大学として、自らの判断で受け入れた学生に対し、その教育に責任を持って取り組むことは当然であり、必要に応じて補習・補完教育や初年次教育等の配慮を適切に行っていかなければならない。
 (イ)高大連携の一層の推進に当たっては、個々の大学が、学生募集の観点から実施するだけでは、その普及・深化が十分に図ることはできない。大学間の協同による教育の提供など、その実質化に留意する必要がある。
 また、優秀な高校生を念頭に置いて、学問へ誘う活動のみならず、学力が必ずしもいざな高くない高校生に対して、大学進学の目的意識を持たせたり、入学後の補習・補完教育の負荷も軽減したりする観点からの取組も重要になってくる。同時に、高等学校における進路指導が、偏差値に偏ったものとならないよう、大学改革の状況や個々の大学の個性・特色について、一層の理解を求めていくことも大切である。
 さらに、専門的な知識や技能の効果的な向上を図る観点から、専門高校等と大学が連携して、学習の連続性に配慮した高大連携を推進することも望まれる。
 (3)具体的な改善方策
 【大学に期待される取組】
 ◆学習の動機付けや習慣形成に向けて、初年次教育の導入・充実を図り、学士課程全体の中で適切に位置付ける。
 その際、大学生活への適応、当該大学への適応(自分の居場所づくり、自校の歴史の学習等)、大学で必要な学習方法・技術の会得、自己分析、ライフプラン・キャリアプランづくりの導入などの要素を体系化する(例:「フレッシュマンゼミ」、「基礎ゼミ」など)。また、きめ細かな学習アセスメントを実施し、学生の現状や変化の客観的な把握に努める。
 ◆大学や学生の実情に応じて、補習・補完教育の充実を図る。
 自ら受け入れた学生に対しては、十分な教育の責任を負うという認識に立って取り組む。ただし、高等学校以下のレベルの教育を計画する場合、教育課程外の活動として位置付け、単位認定は行わない取り扱いとする。
 ◆幅広い高校生を対象に、地域の実情に応じた連携事業など、高大連携の様々な取組を一層推進する。

 【国によって行われるべき支援・取組】
 ◆初年次教育や高大連携などに関する優れた実践に対して支援する。
 ◆補習・補完教育の充実のため、eラーニング型のシステム開発、大学間の連携による教材開発を支援する。
 ◆高等学校までの学習歴に関する情報が、大学に引き継がれていく仕組みを構築する(大学から社会への移行の段階も同様)。
 例えば、高大接続を実効あるものとする観点から、必要に応じ、所定の資料に加えて入学者に関する具体的な情報が高等学校から大学へと引き継がれ、入学後の指導に当たって適切に活用されるよう、所要の環境整備を図る。

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