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平成21年1月 第2344号(1月14日)

セレンデピティを願って

 いわき明星大学学長 高重正明

 私は昭和二十四年丑年の生まれですが、三月末をもって任期満了で学長を退きますので執筆はやや躊躇するところもありました。ただ今日いかなる機会でも自らの大学を宣伝することも学長の役割かと思い、その紹介をもって任を果たすことにします。
 いわき明星大学は、学校法人明星学苑が地元からの誘致により昭和六十二年四月に福島県いわき市に設立した大学です。学苑設立者である児玉九十先生提唱の「和の精神のもと、世界に貢献する人を育成する」という建学の精神といわき市民の大学誘致の思いが融合してできた本学は、「全人教育に基づいた地域社会に貢献できる人の育成」という教育目標を掲げて歩んできました。
 開学当初は理工学部四学科、人文学部三学科でしたが平成十三年以後の改組で当初の理工学部は、現在、科学技術学部と称し電子情報学科、システムデザイン工学科、生命環境学科の三学科から、人文学部は表現文化学科、現代社会学科、心理学科の三学科から構成されており、開学二〇周年の平成十九年四月には薬学部薬学科(六年制)を開設し、総計三学部七学科それに博士課程まで備えた大学院理工学、人文学の二研究科から成るのが本学の現在の姿です。こうした歩みの中で輩出した卒業生と大学院修了生の総数はすでに一万名を超えており、この地域になくてはならない存在として社会的基盤を築き、「いわきに明星あり」と信頼を得ております。
 こう書いてきますと順風満帆に見えますが、決してそうではなく、特にこの一〇年、少子高齢化やグローバリゼーションによる日本社会の試練は、より強く地方社会を直撃し、地方の試練はまさに本学の試練という状態が続いており、その打開のために現代の科学技術の動向や社会的ニーズに沿った方向への学部改組を行なってきました。ただ一段と進む少子化のためか、若者達は簡単にこちらを向いてくれそうにありません。加えて最近の金融危機も、地方の私立大学にいかなる影響を及ぼすのか、先の見えない状況は続きそうです。
 しかし焦燥感をいだいているだけではしかたがありません。昨秋、学校法人明星学苑は創設八五周年を迎え、上記建学の精神のもと「健康・真面目・努力」を旨に一人ひとりの学生を大切にする「人格接触による手塩にかける教育」を行うことを各設置校ともに誓いました。若者の好みに合わせるだけでなく、とにかく真面目に勉強しなければいけないのだという雰囲気を日本の教育全体の中で醸成することが大切と感じています。
 六年前に実験物理学の一研究者から学長に転じ、様々に本学と関わってきました。実験科学では夢中で何かをしている時に偶発的に起こる発見をセレンデピティと呼びます。多くの大学での様々な試みから、セレンデピティ的なことが起こることを願い、私大協会並びに加盟大学のご発展をお祈り申し上げます。

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