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平成21年1月 第2344号(1月14日)

高めよ 深めよ 大学広報力〈17〉
  志願者増が大きく貢献 共学化新学部 次々と新機軸打ち出す

 武蔵野大学総合企画部広報室課長補佐 丹羽 祐輔

こうやって変革した(14)

志願者数、偏差値、就職率…大学関係者にとって気になる数字がある。新聞や雑誌、大学専門誌などが実施する「大学ランキング」も、そのひとつ。武蔵野大学(寺崎 修学長、東京都西東京市)は昨年十月に「週刊東洋経済」が行った「日本の大学トップ一〇〇」で一〇位に食い込んだ。この調査は、「本当に強い大学」を財務、教育、就職力などで総合力を測定したもの。旧帝大や早慶が常連のトップ一〇に武蔵野大が入ったことに他の大学は驚くと同時に注目した。いったい、どのような手法や改革でもって武蔵野大はランク一〇位になったのだろうか―と。そこに広報は、どう関わったのか、など同大の広報担当者に聞いた。(文中敬称略)

武蔵野大 日本の大学ベスト10に

 「本当に強い大学」の総合一〇位になったとき、武蔵野大の教職員、そして学生は、どんな反応を示したのだろうか。武蔵野大総合企画部広報室課長補佐の丹羽祐輔が語る。
 大学は冷静な反応
 「大学幹部は、冷静に受け止めています。“一喜一憂せず、これまで通り、ひとつひとつ着実にやっていこう”と。学生のほうは、“自分たちの大学が認められた”、“自慢できる”と喜んでいました。愛校心や誇りを高めることにつながればいい、と考えています」
 雑誌「週刊東洋経済」の「日本の大学トップ一〇〇」調査の指標は、大学の経営基盤となる「財務力」、学生に付加価値を与える「教育力」、その結果がパフォーマンスとなって現れる「就職力」の三つで構成。「志願者の増減率」など十一の指標を使っている。
 トップ一〇の大学名は@東京大学A慶應義塾大学B京都大学C早稲田大学D大阪大学E豊田工業大学F東北大学G東京工業大学H北海道大学I武蔵野大学―となっている。武蔵野大と並んで注目を浴びたのが六位の豊田工業大。同大はトヨタ自動車からの寄付金が多いうえ就職率一〇〇%が寄与した。
 武蔵野大は、浄土真宗本願寺派の宗門関係学校が組織する「龍谷総合学園」の一員で、本願寺という大教団をバックに持つ。西東京市に本部キャンパスを置き、文学、政治経済(現代社会学部を改組)、人間関係、薬学、看護の五学部がある。
 長い間、文学部、短期大学部だけからなる女子大学だったが、一九九八年以降、次々と新学部を増設し、二〇〇四年には、薬学部の創設と同時に、全学部を一斉に男女共学化し、本格的な総合大学となった。
 さて、武蔵野大は「大学ランキング」の調査で、どのような点が評価されたのだろうか。
 ランク入りに、最も貢献したのは、志願者の増加だった。財務力を図る指標として収入に直結する受験者数を五年前のそれと比較した「志願者の増減率」。これが武蔵野大は一三九・三%とダントツだった。慶大一二・四%、早大六・〇%で、ベスト一〇入りした大学のうち六大学はマイナスだった。
 丹羽が説明する。「二〇〇四年に全学部を一斉に男女共学化し、本格的な総合大学となりました。二〇〇三年の志願者は六〇〇〇人でしたが、翌〇四年は一万六〇〇〇人と急増しました」
 共学化は、女子大の生き残り策として決めたそうだが、学内に反対論はなかったという。
 武蔵野大は、さらに次の手を打つ。二〇〇六年には看護学部を設置、センター試験利用入試を導入したほか、人間関係学部では新たに小学校教諭の資格を取得できるようにした。
 社会のニーズに沿う
 丹羽が続ける。「入学志願者は〇六年度、〇七年度と二年続けて過去最高を更新しました。看護学部の設置など社会のニーズに沿った形で受験生に訴求する取り組みが実を結んだと考えています」。受験生への訴求の一翼は広報部門が担った。
 「教育力」や「就職力」はどう評価されたのか。教育力の指標となる「教育研究充実度」は二九・五%とベスト一〇入りした大学の中では最下位。すぐ上の九位が東工大の二九・七%で、トップは慶應大の四二・一%。
 同大は、キャリア開発に力を入れている。二〇〇七年度の文部科学省の現代GPに「専任教員によるキャリア教育の実践」が採択された。丹羽が語る。
 「学生に実践的な能力を身につけさせることを目指した教育改革の一環として、キャリア開発プロジェクトを展開しています。全学的に社会人、職業人としての基礎的な能力や態度の育成に取り組んでいます。これが高い就職率につながっていると思っています」
 86%と高い就職率
 総合ランクの「就職率」は八六・九%で、ベスト一〇のなかでは豊田工大(一〇〇%)、東工大(八七・二%)についで三位。学部でみると、薬学部が理系総合三位(関東で二位)、現代社会学部が文系総合七二位(関東で二〇位)となっている。
 同大は、二〇〇三年度に校名変更、共学化等に伴って、VI(ブランドアイデンティティ)を確立するために、新たに大学理念を表したブランドマーク(スターリンク)とブランドステートメント(Linking Thinking)を定めた。このときは、様々な広告等でこれを用い、学内外への浸透を図った。
 「ブランドを強固なものにするため、経営管理手法のひとつBSC(バランススコアカード)を用い、大学の使命・到達目標等に続き学生の育成指標設定等を決めました。それらを実現するための取り組み等を構築し、実施、見直し、改善を行うなど大学理念・ブランドを実現化する教育体制を体系化しています」(丹羽)
 ランク一〇位入りに広報が果たした役割について、丹羽が語る。
 「『武蔵野ブランド』を広く学内外に発信することで、教職員の意識を高め、経営強化につなげていったことが今回のランキングにつながったのではないでしょうか」
 今後の広報活動について、丹羽は「今後は社会とのリレーションシップの強化『攻めの広報』と、事故や不祥事など危機発生時における危機管理『守りの広報』と両輪の広報活動を行っていきたい」という。
 同大は、二〇〇九年度、環境学部を開設する。また、二〇一二年度から臨海副都心の江東区有明に新キャンパス(一・三ヘクタール)を開設し、一部の学科・専攻が移転する。それに伴い、今春、移転学科・専攻に入学する学生は四年次を有明キャンパスで学ぶことになる。
 時代の変化を先取り
 最後に、広報室長を兼ねる総合企画部長の安久津康二が総括した。
 「本学は自己に目覚め、人の気持ちや痛みを理解し、人に尽くすことができる人格を身につけると共に、ひとりひとりが高度で専門的な知識を身につけてもらうことをめざしています。これまで時代の変化を先取りして発展・拡大をしてきましたが、これからも現在と未来に貢献する大学であり続けたい」
 安久津は、「時代の変化の先取り」を強く言った。みてきたように、武蔵野大学は、次から次へと新機軸を打ち出し続けてきた。このような不断の努力が、同大を日本の大学のベスト一〇に押し上げた原動力になっているような気がしてならない。

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