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平成21年1月 第2343号(1月1日)

現状打開への努力を

 日本私立大学協会副会長/北海学園大学理事長 森本正夫

 明けましておめでとうございます。
 毎年、本紙のこの欄の冒頭で過ぎし一年を回顧し、波乱、転換、混迷、多事多難などの言葉をいつも使って来たようで、まさにこの十数年は平成の名に似つかわしくない激動の時代であったように思います。その中でアメリカ流の市場原理主義や金融主導モデルの危険性をきびしく批判して参りました。昨年来の全世界を巻き込む金融大恐慌や、その影響もあっての実体経済の大不況を見るにつけ、その心配のとおりになった感があります。
 日本でも近年、構造改革の名による大幅な規制緩和が結果として非正規雇用の増大や財政赤字の地方への転嫁につながり、所得格差や地域格差が深刻化したことも否めない事実です。時代の変化に照応した規制緩和をあながち否定するものではありません。ただ、経済や社会の秩序維持に必要不可欠の規制までも一絡げにして緩めたあげくの各分野での偽装など不祥事の続出を見るにつけ、為政者の見通しの甘さを指摘せざるを得ません。教育もそのあおりを受けて特に高等教育への参入問題で翻弄されてはならないと思います。今後の中教審の「中長期的な大学教育の在り方」の審議に当って、前轍を踏まぬよう私大団連などがしっかり関っていくべき年と存じます。
 次にふれたいことは国の教育振興基本計画です。思えば二年前、制定以来六〇年ぶりの教育基本法改正で、大学、私立学校、生涯学習、家庭教育、幼児教育等がはじめて明文化され、さらに新法の目的や理念を具体化するための教育振興基本計画の策定が義務づけられたことを、私共は遅かりしと思いつつも心から喜んだのでありました。そして昨年、その基本計画づくりの大詰めに当って、文部科学省をはじめ、あらゆる教育関係団体が総力を結集し、その中で私共の私立大学協会も常にリードオフマンとして活躍しました。特に教育への公財政支出拡大目標の数値化をめぐって激しいバトルの末、結果として数値化は実現しませんでしたが、それを方向づける文言が繰り込まれることになりました。また、わが国の教育投資が先進諸国のなかで極めて低く、特に高等教育については最低であることなどが国民の前に明らかにされたことは、今後の教育予算確保の上で大きな意味があったと思います。
 いずれにしても次世代育成の中核機能としての教育は、外交や防衛などと同じく国家の存亡にかかわる国政の最重要事項です。国がこの基本法や基本計画にある幼児教育や初中教育さらに高等教育から生涯学習に至る、教育全体の公共性、継続性、関連性に配慮したグランドデザインを、その財政的裏付けを含めて益々充実したものにしていくことを期待しております。その際の公的資金の配分に当っては設置形態や学校段階による甚だしいアンバランス、特に高等教育段階において四分の三以上のシェアを占める私立学校への非常識とも言える冷遇を早急に是正しなければ、教育立国の基本理念もスローガン倒れになってしまいます。ヨーロッパのほとんどの国が大学を含めて学費を無料にしているのは、教育の受益者は本人であると共にその成果は企業や国家のためにも不可欠のメリットとして還元されるが故に、子弟の就学は社会全体で支えるべきというコンセンサスが出来ており、それに応えて学生達も一生懸命勉強して国家社会にお返しするという気風が強いということで、わが国も、もって範とするべきでありましょう。
 ともあれ、かかる苦境の時こそ私共は個々の大学としても協会としても、先人の建学の精神や協会設立の情熱を想起し、歯を食いしばって現状打開への努力を今年も続けたいと思うのであります。

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