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平成20年12月 第2342号(12月17日)

新刊紹介

 「シュタイナーの人間形成論」道徳教育の転換を求めて 吉田武男著

 シュタイナーに関する本に接するのは三〇年ぶり。子安美知子の「ミュンヘンの小学生―娘が学んだシュタイナー学校―」(七五年、中公新書)をかつて読んだ。日本で初めて本格的にシュタイナー教育を紹介した。
 独文学者の子安が、留学中に引込思案だった自分の娘を心配して『いい学校』と評判のシュタイナー学校に入学させた体験記。外国には、こんな学校があるのか、そんな遠い記憶。
 シュタイナー(一九二五年没)の教育理念を実践する学校はテストや成績表もない。一年生から八年生まで同じ担任、同じクラスで、授業の進め方も独特だ。
 本のはしがきに〈シュタイナーの人間形成論を肯定的にも否定的にも捉えず、彼の人間形成論に対する相対的な視点を重視。道徳教育学研究も本質主義的、人格教育、そして進歩主義的な立場に偏らないことにした〉とある。
 それは、〈シュタイナーを教育学研究の対象にすることは、オカルト的な宗教を基盤にもつ教育思想であるという理由から憚られた時代〉があったからと思われる。これを克服して、この本が誕生した。
 筑波大大学院教授の著者は七九年にシュタイナーに出会い、三〇年間研究を続けた。〈これまでの研究に一区切りをつけ、これからの研究の基点にし、多くのシュタイナー研究者の探索の一つの踏み台になりたい〉という願いは達せられた。
 いま、日本には、小中高校生を対象にシュタイナー教育を実践する団体が六つ。朝日新聞(12・7)が“教育特区”にできたシュタイナー学園を紹介していた。どこも学校法人を目指すが実現していない。
 子安の本を読んだ時代と大きく様変わりした。この本は「シュタイナー教育を学ばせたい」という親たちには重たいが、研究者の“踏み台”には打って付けだ。

 「シュタイナーの人間形成論 道徳教育の転換を求めて」
 吉田武男著
 学文社
 TEL: 03-3715-1501
 5,000円+税。
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