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平成20年11月 第2340号(11月26日)

地域に評価される大学 GPの成果をどう考えるか

 教育、研究はもとより、地域活性化が政治課題に上っている今日、大学が存立する各地域での貢献活動がクローズアップされている。小紙では、これまで地域での大学の取組を紹介してきた。これらはGP等の国の支援があり、それが契機となって、支援終了後も地元で一層活発化し、他の地域への大きな波及効果をもたらしている。地域で連携する自治体、企業、住民等からも「共に頑張りたい」といった“共に地域を創る”「地域共創」の声があがっており、多くの成果が期待される。

はじめに
 大学が「地域を共に創る」というコンセプトを、日本私立大学協会では「地域共創」と呼んだ。地域のオブザーバー(傍観者)でも、サポーター(支援者)でもない。大学は地域を創るプレイヤー(当事者)なのだ、という想いが込められている。
 私大協会では、平成十九年に「地域との連携に関する実態調査」を実施。その結果によれば、全国で地方自治体と連携している私立大学は九六・四%、地元企業と連携している私立大学は七三・一%であった。
 沖縄大学は、離島への移動市民大学や観光産業の振興など、地域と共に様々な試みを行ってきた。創立五〇周年を迎えた今年、「地域共創・未来共創の大学へ」を新たな建学の精神として掲げ、新しいステージに向けた第一歩を踏み出した。
 岐阜経済大学では、商店街の活性化プロジェクトから始まったゼミの活動が、やがて大学全体に広がり、平成十五年には、「地域と共生する大学」として大学方針そのものの大転換に結びついた。
 日本福祉大学は、立地する知多半島を活性化するため総合研究所を設置。以来、江戸時代のすしを復活させたり、ビジターズ戦略を練り上げたりと、知多半島のシンクタンクとして地域の活性を担い、不可欠な存在となっている。
 一方、地域は学生の成長の場にもなっている。学生が地域で様々な人と触れ合う中で人間力が磨かれていく。
 こうした成長は、教室で講義を聴いているだけでは身に付かない。学生の学習成果が求められ、「教員が何を教えたかではなく、学生が何ができるようになったのか」が評価される時代において、地域という学びの場はますます注目される。
 「サービス・ラーニング」という教育手法がある。文字どおりサービス(貢献活動)とラーニング(学習)をつなげ、ボランティア活動を通して学びの獲得を目指す教育である。
 プール学院大学では、地元の小中学校での外国人児童生徒の日本語や学習支援、小学校での国際理解教育などが学生によって行なわれる。活動を通して学生はリーダーとしての自覚を持ち、中心的な役割を担うまでに成長する。
 女子美術大学では、女性の感性と知性に基づく新しい価値観を創り出せる人材を養成するため、「ヒーリング・アート・プロジェクト」を実施。医療・福祉施設での癒しについて、美術とデザインの領域から、社会との関わりや必要性を探る。また表現の可能性を創作と理論を通して学生自身が考え、分析し、芸術的感性と論理的思考力を育むことにより、自己の可能性を広げると共に社会性のある学習活動を行っている。
 しかしながら、「地域を共に創る」と言えば聞こえはいいが、実際はそんなに甘くはないというのが担当者の感想であろう。
 活動の始動時に多くのエネルギーを注がなければならない。また、大学が地域に出て行くことに懐疑的な人々から、ブレーキを踏まれることもある。基本的に一寸先は闇で、手探りで進むしかない。
 こうした現状を打破し、結果的に大学の地域共創を推し進めたのが現代・特色GPだったのではないか。当然のことながら、「大学の地域活動」そのものを推し進める政策ではなく、特色のある「教育」を行うためのものであった。また、対象は地域だけではなく、eラーニングや知的財産教育等も採択された。
 しかしながら、GPをきっかけに地域共創がスタートし、あるいは、予算的な裏づけが得られ、取組が推進された大学も多くあろう。いまやGPは、FDに並び大学関係者の間で最も話題に上るアルファベット二文字となった。
 特色GPは平成十五年度から、現代GPは平成十六年度から開始され、多くの大学が「グッド・プラクティス」として採択された。各大学で行われていた、あるいは、行おうとしていた特色ある教育が社会に広く紹介されることとなった。
 ところが、GPにも課題があった。最も悩ましいのは、数年で補助が終わるということであろう。もともとGPの補助金を頼りに邁進された活動は、スタートはしたものの、数年で「ガス欠」となり活動は止まってしまう。
 また、GPは本来的に、「他大学の参考になる」大学を採択したのであって、特色ある事例がヨコ展開して広がって始めて成果となる。ところが、特色ある大学が増えただけで、いっこうにその特色が広まっていないようにも見える。
 地域共創は、もはや大学の日常となった。様々な事例を見ると、それは実感できる。しかし、あくまでモヤッとした感覚的なものでしかない。感覚的なものだと、評価ができない。評価ができないと、「やらないよりはよい」程度の自己満足にもなりかねない。
 地域を共に創るとは、そもそもどういうことなのか。何を持って「地域が活性化した」と言えるのか。「学生が成長した」と言えるのか。あるいは、GPは本当に成果があったのか。次のステップを考える前に、見直す必要はあるだろう。
 このたびの特集では、主に大学の取り組みにおける外部からの声を中心に集めた。各地域でのニーズは様々であるが、大局的に大学がどのように評価をされているのかがうかがい知ることができればと思う。

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