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平成20年10月 第2334号(10月8日)

琵琶湖がキャンパス
  近江楽座 近江環人 "シンク"タンクから"ドゥ"タンクへ

  滋賀県立大学 地域づくり教育研究センター 主任調査研究員 奥野 修

 滋賀県立大学は、一九九五年四月の開学以来、「キャンパスは琵琶湖。テキストは人間」をモットーに滋賀の地域に根ざし学ぶ教育・研究を進めてきた。環境科学部・工学部・人間文化学部・人間看護学部の四学部と大学院からなり、学生数は約二五〇〇名の大学である。「地域に根ざし、地域に学ぶ大学」としての取組みを、同大学地域づくり教育研究センター主任調査研究員の奥野 修氏に寄稿して頂いた。

 滋賀県立大学では、これまでに、滋賀県内のフィールドをテキストに、「環境フィールドワーク」(琵琶湖とその周辺地域の自然と人間の間で生じている環境問題を調査)や「環琵琶湖文化論実習」(地元近江の生活の中に息づいた、豊富な歴史や文化遺産等の実地調査)といった演習型の授業を充実させてきた。
 これら「地域に根ざし、地域に学ぶ」教育の成果の一つが、〇四年の現代GPに採択された「スチューデントファーム近江楽座」である。地域活性化活動を学生から募集し、審査を経て採択されたプロジェクトに対し、調査研究活動等の経費を助成し、教員や外部専門家の指導・助言等により活動を支援する。この五年間で一一三件が採択実施され、参加学生はのべ二〇〇〇人となる。

 地域づくりの拠点となるセンターを設立
 そんな中、〇六年四月に本学に地域づくり調査研究センター(センター、〇八年四月に地域づくり教育研究センターに改組)が設立。〇六年三月に滋賀県のシンクタンクであった滋賀総合研究所(総研)が解散となり、調査資料や機能の一部をセンターが引き継ぐ形となった。本学としては、それまで地域貢献プロジェクトの窓口が一本化されていなかったが、その拠点形成を図ることができたのだった。
 総研は、一九七八年、当時の武村正義知事の肝いりで設立され、県や市町村の長期構想づくりや住民参加型まちづくりに積極的に関わり、地域からの政策提言とその実践に一定の成果を上げてきた。しかし本学に継承されたことで、自治体系ではなく、大学シンクタンクとしての活動を模索することとなる。

 センター事業の四つの柱
 センターの事業は、地域づくりに関する調査研究、人材育成、提案・発信、研究活動支援の四つ。事業費は、委託料や受講料収入等外部資金で賄うように経営努力している。
 @地域づくり調査研究
 地域づくりに関する調査研究は自主研究と受託研究に分かれ、受託研究はこの三年間で計一八本行った。主な相手先は、滋賀県や長浜市、高島市などの自治体や商工会。研究体制は専任研究員が行い、プロジェクトによっては本学教員と学生等で研究チームを結成するスタイルも増えている。
 A人材育成
 ▽近江環人地域再生学座
 近江環人地域再生学座(学座)は、近江楽座の大学院レベルの教育プログラムとして構想し、文部科学省「地域再生人材創出拠点の形成」に採択され、〇六年十月からスタート。近江楽座で育った学生、地域社会で活動する社会人(自治体、建築士、NPO等)を対象とし、所定のカリキュラムを修了し検定試験に合格することで、「コミュニティ・アーキテクト(近江環人)」の称号を付与する。
 コミュニティ・アーキテクト(近江環人)は、湖国近江の風土、歴史、文化を継承し、自然と共生した美しい居住環境、循環型地域社会を形成するリーダー、コーディネーターとしての資格を目指している。この二か年で三八名が学び、うち一六名が検定試験に合格。学座は、四つの大学院研究科の地域づくりに関する知的資源を結集し、センターが事業の総合調整の役割を果たすため、四研究科の教員による専門委員会を組織し、PDCAサイクルで事業のバージョンアップを図っている。
 ▽近江楽座(Aプロジェクト)
 上記のとおり、総合調整はセンターが委嘱する四学部の教員からなる専門委員会で進行を管理。楽座での学生活動は、まちづくり、地域イベント、古民家再生、産業振興、環境保全等、テーマは多岐に亘る。
 その他、滋賀県出身のジャーナリストの田原総一朗氏を塾長に招き「生きる」を学ぶ「琵琶湖塾」等の活動を行う等、人材育成事業に力を入れている。
 B提案・発信
 地域づくり情報誌「近江環人」を年二回発行。地域づくり・地域再生に関する情報を提供すると共に、学座や近江楽座の紹介を行っている。三〇〇〇部発行。
 C研究活動支援
 ▽近江楽座(Bプロジェクト)
 〇七年度からは、自治体や企業等から提案されたテーマについて活動チームを募集するBプロジェクトをスタートさせた。選定されたチームは、センターのフォローのもと、提案者と共に実施する。〇七年度は、滋賀県から「湖北地域の古民家で田舎暮らしをするための移住などを支援する活動」の提案を受け、三グループが活動を実施した。
 〇八年度は上記の継続と高島市から「高島市における若者が輝くまちづくり調査活動」の提案を受け活動を開始。資金は提案団体からの受託研究・共同研究によって賄っている。

 「シンク」と「ドゥ」の連動的取り組み
 現在力を入れているのは、育成した人材が活躍し地域づくり・地域再生に繋げていくことの一連の総合的な取組である。具体的には、受託研究×Bプロジェクト×近江環人・近江楽座等の連動による目的の達成である。
 例えば、滋賀県からの受託研究「都市と地方の交流居住・移住促進事業」は、県湖北の人口流出による地域コミュニティ崩壊を防ぐため、地域資源を見直し、都市からの交流居住・移住促進を進めようというもの。受託研究では、どのような仕組みを構築すれば事業がうまく展開できるか提案を試みる。
 同時に、Bプロジェクトでは、実験の実施とその効果を計るため、近江楽座で育った学生チームが交流居住の具体的な実験プロジェクトを実施し、広報誌の作成等情報発信事業を展開する。また地域側の受け皿として、近江環人の称号を得た建築士がコーディネーターとして関わり、交流居住を地域側から引っ張る。
 つまり、調査提案したことを、実際に実験してその調査結果をまた提案に反映させると共に、地域側のリーダー、コーディネーターを育て提案した事業を実践している。滋賀県と協働で取組んでいる。
 また高島市との「若者の定住のための地域活性化」の調査は、人間文化学部の黒田研究室が共同研究として受け、Bプロジェクトで学生が若者定住のヒアリング調査や情報誌の発行等を展開。地域側では、近江環人の称号を得た行政職員が事業を引っ張っている。ここでも「自治体×地域×学生×大学の協働による若者定住化の促進」が共通の目的となっている。
 今後重視すべき点は、@学生力の成長と実践への結実、A学生、教員の研究・活動の結集、B他大学・研究活動機関との連携である。特に@は、大学シンクタンクの利点として、地域づくりに貢献できる「学生力」を持った学生の成長と実践への積み重ねの支援が重要である。
 @〜Bを通じて、地域づくりの実践研究を積み重ね、「提案して終わり」でなく、実践を通じて実際に地域社会の課題を共に解決していくことが大学として求められていると思われる。

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