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平成20年8月 第2328号(8月27日)

改革担う大学職員 大学行政管理学会の挑戦D
  ファシリティマネジメント研究会
  施設(ファシリティ)の戦略的活用を考える
  「キャンパスFMガイドブック」も発刊予定

ファシリティマネジメント研究会リーダー・早稲田大学 尾崎健夫

 日本の大学は、国公私立を問わず、現在、高度化、少子高齢化、環境問題をはじめとする様々な時代の波を受け、経営努力が求められている。経営努力、すなわちマネジメントとは、組織の資源(ヒト、モノ、カネなど)を有効に活用して、組織の活動目的を達成するために、最小の投資で最大の効果を目標とする手法、活動である。それら資源のうち、「ファシリティ(いわゆる施設、および付帯の大型設備・情報インフラ等を含む)」を最大、有効に活用することを切り口にして、組織の経営管理活動を支えようという概念が「ファシリティマネジメント(FM)」である。
 教育、研究の基盤を支えるキャンパスFMは、コスト管理のみならず、安全、防災、環境、アメニティ、それらのための基本データ整備などの課題を抱え、関係者間のコミュニケーションのあり方の改善を含めて、各所で特有かつ多様な試行錯誤が繰り返されている。
 最近では、大手の国立大学や一部の私立大学の施設部門等で、FMに相当する領域を業務としたり、FMのシステムを導入しつつある状況も散見されるようになってきた。
 しかし多くの場合、いわゆるファシリティマネジャーは未だ少なく、状況によって、その取り組みは大きく異なる。目前の個別の新築案件や大規模な建て替えや改修そのものだけでも手一杯のようである。スタッフ数の少ない私立大学などの場合は、その対応に忙殺され、中長期的なFMの視点があっても、具体的なシステム作りに入る余裕のない場合が多い。キャンパスFMへの十分な体制づくりは、まだまだこれからと言ったところだろうか。
 また、小規模大学においては、技術系スタッフ自体が少ないか不在で、一般の事務系スタッフが施設建設や維持管理の課題に、一時的に、あるいは急に巻き込まれ困惑しているとの話も聞く。FMの必要性が十分認識されていないケースもある。新しい建設計画の発注業務や仕様決定、老朽化施設改修の検討、既存建物の関係法令への理解も困難で、サプライヤーとなる設計会社、施工会社、管理会社のそれぞれのアドバイスに相当な部分を委ねざるをえないことが多く、長い目で、本当に正しい選択をしているのか、どのように進めるのが大学として最善なのか、判断が難しいという話もある。
 そもそもFMの目標・管理には品質、財務、供給の三つの管理項目があり、「FM品質目標・管理」、「FM財務目標・管理」、「FM供給目標・管理」が指標となると言われている。
 極めて大まかに言えば、品質は施設の診断や設計仕様により、財務はファシリティコストやライフサイクルコストの管理により、供給はスペース管理、有効利用により、運営され維持されるべきなのである。それらがPDCAサイクルとしてスパイラルアップしていくことこそが、キャンパスFMの理想的なシステムと言える。しかしながら、一般企業と異なり、利益や売上高に相当するものがなく目標を数値化しにくいことから、その管理を適正化し、実行していくことは決して容易ではない。
 キャンパスFMでは、大学固有の多様な目的を持った施設が複雑な機能を持っている場合も多いため、PDCAサイクルを始める際の正しい現状把握が、まず第一歩であり、重要であることを忘れてはならない。情報化の進展により、机上のパソコンで、現状把握のためのあらゆる情報を瞬時に得て、将来のシミュレーションを作成することも容易になってきたかのように見える。しかしながら、昨今、建築業界で話題の様々な事故やヒヤリハットは、現場を必ずしも的確に把握していなかったことによるリスクから生じていると言っても過言ではない。このことは年々歳々、時々刻々と少しずつ変化していく現場の状況を、専門家も含め、我々が今改めて、より正確に把握しなければならないことの重要性を浮き彫りにさせている。
 そのことは、企業において最近話題のBCM(Business Continuing Management、又はBCP=Business Continuing Plan)にも繋がっており、キャンパスFMとしても重要な要素として浮かびあがってきた。地震、火災、停電、風水害、テロ行為などの緊急的災害に対して、対応を考慮した施設の提供を考えるFMは、一般社会では、ユーザーから当然視されてきている。
 さらにファシリティのユーザーである学生、教職員に、様々な計画の理解を働きかける「ユーザーインボルブメント」も、欠くことのできないFMの要素であろう。トップダウンだけで物事を進めにくい大学の場合、「教授会」や「学部の自治」が思いもよらぬハードルになることもある。FMを進めるうえで、関係者との情報共有、相互理解、合意形成は一つの鍵になる。
 さらに、大学の外部的な構成要素としての学生納付金負担者である父母等、卒業生の供給先及び、知の創造の一端を担う共同研究先である企業、地域で大学を受け入れる自治体などとの連携も欠くことができなくなってきた。大学の役割が、教育・研究に加えて「地域貢献」をも挙げられる今、知の創造、蓄積、継承が重要視されている。とりわけ、この知の継承としての「地域貢献」「地域解放」については、近年どう取り組むかが問われ、大学を取り巻く全てのリレーションシップが良好であることが求められている。
 二〇〇六年秋に発足した「ファシリティマネジメント研究会」では、昨年末から日本のFM推進を実施している日本ファシリティマネジメント推進協会キャンパスFM研究部会の協力を得て、キャンパスFMにおける、特に配慮しなければならない事項、最低限、おさえておかねばならない事項を、できるだけ分かりやすく抽出することにより、現在、「(仮称)キャンパスFMの手引き(案)[暫定版]」の編集に取り組んでいる。同研究部会では、キャンパスFMを少し掘り下げた「キャンパスFMガイドブック2008」を今年度内には発刊する予定である。これを機会に、キャンパスFM特有の課題を、「手引き」により改めて認識し、FMのより高い知見を「ガイドブック」で獲得し、より良いファシリティを構築する誘いとなればと、考えている。
 本研究会では、新たな会員の参加、さらには職員の専門性の向上を期待し、こうした職務分野に従事・関係する方ばかりでなく、興味や関心を持って賛同する会員の方々を広く募っている。FMの考え方を基本に、そのコアスキルや事例調査を行うことで、当該分野に関する研究水準の向上を図り、もってキャンパスにおける実践的普及を目指すとともに、これらを担う人材育成に寄与することを願っている。

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