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平成20年8月 第2327号(8月20日)

高めよ 深めよ 大学広報力〈2〉
  大事な不祥事対応 会見では誠心誠意 失敗すればダメージ大

 広報セミナーから 中
 企業や大学といった組織・団体に不祥事はつきものである。「大学広報セミナー」(フジサンケイグループのFCG総研主催、七月二十四日・二十五日)の二日目は大学で起きた不祥事を想定した模擬記者会見(メディア・トレーニング)が行われた。マスコミとの対応を適切かつ効果的に行うため、基本的なテクニックを習得、確認するのが目的。セミナー参加者が大学側幹部になって本物の新聞記者らから追及された。参加者の真剣な取り組む姿勢に、いま大学広報が置かれている状況が映っているようにもみえた。「広報セミナーから」は(中)を追加して三回連載になる。(文中敬称略)

 模擬記者会見に熱気

 「プレスリリースに書いてあることは(話さなくて)いいから。そこに書いてないことを話して欲しい」
 「学生部長に聞きたい! セクハラの相談は(年間)どのくらい あるのか」
 「ストーカー被害にあった女子学生の側に隙があったとは、考えられないか」
 新聞記者から大学側の代表者に矢継ぎ早の質問が飛んだ。なかには、犯人を追求する刑事のような鋭い問いかけもあった。
 これは、「教授が女子学生へのストーカー行為で逮捕」を想定したメディア・トレーニングの一場面である。
 このメディア・トレーニングでは、セミナー参加の各大学の広報担当者が大学側代表(五人で一チーム)となり、産経新聞記者らの厳しい追及を受ける。
 参加者五人は、某大学の学長、総務部長、学生部長、工学部長、広報部長に割り振られた。最初に、全員が深々と頭を下げて謝罪した。司会は広報部長。
 「K教授はどんな人物で、家族構成はどうなっているのか」という質問には学長が答弁した。
 「学生からも慕われていたし、まさか、という思いです。家族は奥さんと子ども二人で、家庭のトラブルは聞いていません」
 「事件の原因はどのあたりに?」という質問にも学長が立った。
 「大学は人を育てる機関、こういうことはあってはならない。学内組織を見直し、カウンセリングなどの対策を打っていきたい」
 学長には程遠い年齢だが、申し訳なさそうに理路整然と答弁した。やや場慣れした様子は、企業の不祥事の記者会見をテレビで見慣れているせいだろうか。
 「メディア・トレーニング」について、セミナーを主催したFCG総研の資料には、こう書いてある。
マスコミの特性確認
 〈自社の情報がマスコミにどう報道されるか、また、経営トップのマスコミ対応の巧拙で企業イメージを損ねたり、逆に向上させることがあります。トップが適切なマスコミ対応を通じて正確な情報、メッセージを伝達するには、”敵”の特性を知ることが不可欠。
 マスコミや記者の特質、特性は何なのかなど、意外に知られていないポイントについて確認するとともに、記者会見などの模擬演習を体験することで、自分自身の長所と短所を確認しておくことが大切です〉
 この日のメディア・トレーニングは二つのテーマで行われ、もう一つは「男子学生(未成年)がコンビニの強盗殺人で逮捕」という事件だった。
 大学側代表には、別のセミナー参加者五人が学長、総務部長、学生部長、工学部長、広報部長を演じた。
 こちらは異例な会見となった。大学側が「事件があまりにも凶悪」として逮捕された学生が未成年にもかかわらず氏名を公表した。
 学長は会見の冒頭、「個人情報の論議はありましたが、氏名含めて公開する方向で発表します」。取材側からどよめきがおきた。
 「未成年なのに、氏名を公開した理由は」
 「公開すべきではないという意見はなかったのか」
 「疑いの段階、まだ退学になっていないのに、氏名公開した理由は」
 記者達の厳しい質問に、学長は言葉を選びながら真摯に答えていた。
 「事件があまりに凶悪だ。授業料を使い込んだので強盗を働いたという動機を重くみた。(個人情報の)保護より公開がいい、となった」
 「公開は再発防止の面もある。学生の処分は理事会の決定事項なので、この会見が終わったら(理事会を開いて)決めたい」
 学長役を演じたのは大阪国際大学の学生サポートセンターグループ長、貞光啓史。貞光の丁寧で誠実な応対は評判になった。
 この日のセミナーで「記者会見が大学の価値を決める」の講演をしたFCG総研常務の小林静雄は「講評」で、こう述べた。
 「コンビニの強盗殺人で逮捕の学生の名前を公表したのは、常識的にはありえない。取材側は意表をつかれた面もあり、追及もちょっとやりにくかった。
 しかし、”学長”の誠実な応対、落ち着きぶりは立派だった。学長の、そして大学の誠実さが伝わってきた」
巧い会見、下手な会見
 小林は、自身の講演では、平易に語りかけた。
 「会見に先立って考えることは、まず何をどう伝えるか、だ。新しい企画の発表会見だったら”売り”を決める。マスコミは『日本初』、『○○では最大』、『○○としては他に例がない』という表現に弱い」
 「うまい会見とは、記者がストレスなく話ができ、頭に見出しが浮かぶ。詳しい説明がうまい会見とは言えない。下手な会見とは、話がわかりにくく、何を伝えたいのか不明確なもの」
 メディア・トレーニングの直前に「大学不祥事とマスコミ対応」の演目で講演したのは産経新聞社会部長の鈴木裕一。
 鈴木は、想定される大学の不祥事として▽学校経営・運営をめぐるもの(サイバー大、LEC大など)▽セクハラ、論文盗用など教員の事件▽学生の起こす事件(明大応援部のしごき自殺など)―をあげた。
 こうしたときの大学のマスコミ対応を説明した。
 「迅速かつ正確な情報収集、情報伝達態勢の確立が大事。広報が参加して情報の共有・一元化を図り、記者会見の必要性、出席者の人選等を判断する。
 重大な事件事故・不祥事が起きたら記者会見を開き、事実関係を説明し、今後の対応を述べることは教育機関としての社会的責任だ。
 記者会見で失敗すれば、事件や不祥事そのもの以上のダメージを受ける。成功すれば、不祥事を帳消しにしたうえで、さらなるイメージアップにもつながる」
 また、「内部告発」についても言及した。
内部告発に関心持て
 「食品偽装事件の大半が内部告発によって発覚した。教員のセクハラ、研究論文の捏造など大学の不祥事も内部告発によるものが多くなっている。
 これは、内部告発に対する考え方が変化したと考えられる。チクリによって社会正義を実現するというような風潮がある。
 内部告発に対して無関心では困る。学内で何らかの対応を誤ると、大学の不祥事などが外部(監督官庁、マスコミ)に流出する」
 不祥事の記者会見での留意点を話した。
 「誠心誠意、真摯に対応することが大事だ。うそをつかず、隠し事をしない。うそをつくと、結果的に不信感の増幅を招く。
 専門用語は使わず、わかりやすく説明する。マイナス情報を含め積極的に情報を開示する。大学内の論理は世間では通用しないと思ったほうがよい」
 鈴木は最後に、きっぱりこう述べた。「不祥事への対応含めて、いま大学に問われているのは広報力である」

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