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平成20年7月 第2324号(7月16日)

可視光で汚れが落ちる? 家具や眼鏡に応用される光触媒

 「光触媒」は、紫外光照射下の酸化チタン(TiO2)表面で起こる有機物テトラリンの分解、および水の分解などの表面光化学反応でよく知られており、一九七〇年前後に相次いで日本で発見された。
 その後、光照射による固体表面の超親水化(接触角五度以下)や人体に有害なVOC(揮発性有機化合物)ガスの酸化分解、抗菌効果などが確認された。紫外線照射下で機能を発する光触媒は、住宅等の外壁タイル、テント、自動車ドアミラーなどに広く活用されている。
 一方、TiO2系光触媒の発見当初から紫外光ではなく我々の居住環境にふんだんに存在する“可視光”により動作する光触媒が強く切望されてきたが、研究レベルに留まり実用的性能は得られていなかった。
 中部大学の多賀康訓教授らはこの永遠の課題に一つの解を与える報告を二〇〇一年Science誌に掲載した。国内外の大きな反応とともに可視光光触媒の研究開発の流れを創出したのだった。
 TiO2結晶の酸素(アニオンサイト)の一部を窒素や硫黄で置換することにより可視光吸収による光触媒反応発現を実証した。この新しい触媒は、可視光下で有機汚染物分解、VOCガス分解、抗菌、超親水などの機能を有することが確認された。
 図1にVOCガスの一つであるアセトアルデヒドの光分解特性を示す。従来の紫外光光触媒TiO2と可視光光触媒TiO2―xNxに紫外光および可視光を照射し、アセトアルデヒドの分解によるCO2ガス発生を測定した。可視光下でほとんど機能しない紫外光光触媒に比し、可視光光触媒は五〜一〇倍の分解性能を有することが判る。
 白熱電球には紫外光は含まれず純粋に可視光のみである。ガラス基板上につけた指紋は光照射前後で全く変化しないが、可視光光触媒薄膜上につけた指紋はわずか一分でかなり薄くなった。汗や油脂成分からなる指紋が「光」により分解されることが判った。
 こうした機能は生活に必要な光の副次的利用によるもので、室内ガラス、ドアノブ、テーブル、家具、さらには眼鏡や携帯電話など無数の応用が考えられ、実用化に向けた開発が進められている。
 光触媒は代表的なナノテクの一隅を占める国産技術の一つであり、二十一世紀の省エネ環境技術として注目を集め、研究開発とともに新しい製品の開発が加速されるだろう。
 中部大学は学部間の有機的連携による教育、研究に邁進し、安全で住みやすい生活環境を創出している。(中部大学 光機能薄膜研究センター長 多賀康訓教授)

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