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平成20年7月 第2322号(7月2日)

東日本に"つばさ"広げるネットワーク
  連携FD 山形大学小田教授に聞く  ―上−

 四月より、学部教育でのFDが義務化された。山形大学は、山形県内の地域ネットワークFD「樹氷」、東日本エリアのネットワークFD「つばさ」の中心的存在。北海道から関東までのおよそ三五大学・短期大学等が参加する。ネットワーク化を牽引してきた山形大学小田隆治教授に聞いた。

 ―山形大ではどのようなFDを行っていますか。
 授業改善に有効な実践的なFDを目標とし、毎年、授業評価アンケートと公開授業、夏にはFD合宿セミナーやFDワークショップなどを実施しています。
 授業評価アンケートは、非常勤も含めて授業担当者全員が対象です。一番のポイントは、集計結果を迅速に教員と学生にフィードバックすることです。
 ある大学では、アンケートを行った一年後に公開するとか、結果を外部に公表するのは恥ずかしいから非公開とか聞きます。それだと個人的かつ組織的に授業を改善する資料として活用できないので、アンケートを実施しても何の意味もない。授業評価アンケートを授業改善に結びつけ、PDCAサイクルを回せるように設計することがもっとも重要なことなのです。
 公開授業もそれ単独ではなく検討会を併設して実施します。検討会は、参観した教員も自分の講義を反省できるスタイルに設計、授業担当者のみならず参観した方々にもポストアンケートに答えてもらっています。設問項目には、「良かった点」と「改善点」、それに「自分の授業をどのように振り返ったか」を挙げています。
 このように、授業者だけでなく、ディスカッションを通して参観者にも自分の授業を改善するきっかけにしてもらっています。そして、年度末に発行する『FD報告書』に授業者と参観者のアンケート結果を掲載し、全教員で共有しています。
 ―取り組みを始めた成果は何ですか。
 この二つの取組を始めた平成十二年当時は、教員はこのような取組に若干とまどっておりましたが、すぐに「こうすると講義はよくなるのだ」と気付きました。FD活動は学内に受容され、授業の公開も徐々に広がってっていきました。
 山形大学のこれまでのFD活動の最大の成果は、教員が自分の授業や教育活動を積極的に公開する、その意識の変革です。授業を公開・透明化することによって、学内で授業改善をオープンに議論できるようになりました。
 このことを基盤として、これからも教育改善を積極的に進めていくことができます。
 ―先生がFDに取り組むようになったきっかけは何ですか。
 二〇〇〇年にFDの委員会のメンバーに入りましたが、FDの用語はその数年前に出席したある研究会の基調講演で耳にしたくらいでした。その時は、そして今もですが、教員サイドからするとFDの背後に教員の管理という思想性が見え隠れします。大学は自由を尊んでいます。自由を否定すると大学の自己否定につながります。
 一方、大学の大衆化や社会の激変に伴って、大学のあり方そのものが問い直されていることは否定できません。それを避けて通ることはできませんし、健全な社会の構築には大学の改革は必須の作業です。
 ですから、FDによって大学の自由を損なわずに、果敢に教育の改革を進めていかなければならないと考えました。それはかなり過激でありかつデリケートな仕事です。大学を改革しつつ大学の本質を問う作業でもあるのです。そしてそこには、無駄にかき回してはいけない学生がいます。そんな認識の下でFDに挑戦してきました。
 二〇〇〇年の一年間で私は自分が計画したFD活動を立ち上げ実行しました。それが上記の授業評価と公開授業・検討会です。私は目的を達成したので、一年でFDの委員を辞めようと思いました。
 しかし、お世話になってた北海道大学の阿部和厚教授(当時)や京都大学の田中毎実教授の「小田さんが辞めたら山形大学にFDは定着しない」という言葉で現在までFDを続けることになりました。
 以後も、FD合宿セミナーなどを導入しながら、山形大学の教育改善を積極的に進めてきました。本学のFD活動はその当初から県内の大学関係者にも開放し、他大学から多くの教職員が参加していました。
 このようなことを基盤として、二〇〇四年に山形県内の国公私立の六つの大学や短大からなる「地域ネットワークFD“樹氷”」を設立しました。県内の高等教育機関がタッグを組んで、魅力的な大学・短大のある県にしていこう、という取組です。
 当時、山形県の大学進学率は全国の中でもかなり低い位置にありました。酒田短期大学が留学生の問題等から文部科学省から解散命令が出され、廃校となった時期でもあります。国立の山形大学は地域の高等教育を立て直すことによって、地域に貢献する責務があると考えたのです。
 ―山形県の「地域ネットワークFD“樹氷”」の特徴は何ですか。
 第一に、二〇〇四年当時は「大学コンソーシアム京都」に代表されるように、単位互換を始めとしたあらゆる活動を目的としたネットワークが全国に展開されていました。
 しかし、“樹氷”はFDに特化したネットワークです。現在全国で展開されているFDネットワークのパイオニアであることは間違いありません。
 第二に、 “樹氷”は参加校が六つという小規模なネットワークです。山形大学は大学の規模と実践的なFDの実績から言って、“樹氷”の中核としてFDを牽引することができました。
 “樹氷”はFDという目的志向性が高く機動性に富んだネットワークだったのです。
 (つづく)

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