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平成20年6月 第2318号 (6月4日)

ESD−J 阿部代表理事(立教大教授)に聞く
  "つながり"活かす持続発展教育(ESD) 大学間でネットワークも

 「持続可能な開発のための教育(ESD:Education for Sustainable Development)の一〇年」は、「持続可能な開発」に必要な教育と国際協力を積極的に推進するよう各国政府に働きかける国連のキャンペーンである。
 二〇〇二年のヨハネスブルグサミットで、日本のNGOと政府が共同提案し、同年十二月の第五七回国連総会で実施が決議された。
「ESDの一〇年」の目的として次の五つが提案されている。
 @持続可能な開発の実現を人類が協力して追い求める中で、教育・学習が中心的な役割を果たすということについて、幅広い理解を得ること
 AESDに関係する様々な機関・団体・人々の間でネットワークや交流を推進すること
 Bあらゆる学習や啓発活動を通じて、持続可能な開発のあり方を考え、その実現を推進するための場や機会を提供すること
 CESDにおける指導と学習の質を向上すること
 DESDにおける能力を強化するため、各段階で戦略を策定すること
 「持続可能な開発のための教育の一〇年」推進会議(ESD―J、代表理事:阿部 治立教大学教授)は、こうした流れを受け、ESDを推進するため二〇〇三年に発足した国内のネットワーク組織である。
 我が国では、特に初等中等教育の中で様々なESDが実践されている。環境・福祉・健康等をテーマとした総合的なまちづくり、学校と地域の連携による総合的な学習の時間のほか、環境、開発、多文化共生、福祉、人権、平和、ジェンダーなどの教育・学習活動、さらに国外では国際協力の現場でも、社会的な課題に関わる様々な学びが進められている。これらは多面的なものの見方やコミュニケーション能力などの「育みたい力」、参加型学習や合意形成などの「学習手法」、そして共生や人間の尊厳といった「価値観」などで結ばれている。
 このような目標、方法、価値観こそがESDのエッセンスである。
 大学においては、現代GPのテーマの一つにも、「持続可能な社会につながる環境教育の推進」が盛り込まれ、岩手大学や立教大学を中心として、ESDに取り組む大学のネットワーク(HESD:Higher Education for Sustainable Development)が設立されており、情報交換などが積極的に行われている。
 このたびは、HESDについて、ESD―Jの阿部代表理事に話を聞いた。
◇  ◇  ◇  ◇
 ―ESDの特徴は。
 一言で言えば、「つながり」を活かした教育です。持続可能な社会を実現するために大学の学部間のつながり、カリキュラムでのつながり、大学間でのつながり、地域と大学とのつながり、様々なつながりを活かしながら教育をしていくことが特徴です。
 また、「ESDという特別な講義」があるのではなくて、既存にある講義にESDという視点をそれぞれ組み込んでる点です。文学、理学、工学、農学…全ての学問の中に、環境問題や平和問題などのテーマとのつながりを見出していくことが重要です。
 ―初等中等教育におけるESDとHESDとは何が違うのでしょうか。
 双方とも「持続可能性を主体的に担う人材育成」ではあるのですが、高等教育の主な特徴は、「指導者(リーダー)養成」です。地域や社会と連携しながら、持続可能な社会の構築のための指導者を育成することです。
 また、京都議定書の第一約束期間が始まり、大学でも直接的に二酸化炭素の削減が求められていますが、教育機関なのだから学生の環境教育が大事だと考えています。一つ一つの講義科目の中でそうした要素を入れて頂ければと思います。
 ―これからESDを始める大学は、まず何をすればよいでしょうか。
 何か特別に新しく始めるということではありません。ESDと重なる講義がどのくらい行われているか、キャンパスの環境対策がどのくらい取り組まれているかの現状把握が大事です。大学にどういう人材がいるか、外部との連携はどうなっているかを調べて詳細に書き出すと結構色々と取り組んでいるのですが、連携もなくバラバラということも少なくありません。
 実際に学内で推進するときは、学内の連携をどう作るかが非常に重要です。しかし、学部間は縦割りですし、教員一人ひとりが自由な研究が行っている中で、ESDという全体的な大学の方向性をどうやって共有していくかが一番の課題になるでしょう。
 また、ESDは学生募集のメリットにも繋がっている部分はあると思いますよ。今では「ESDは大学の特色」ですが、徐々に「やって当たり前」というスタンダードになっていくでしょう。その後は、それにプラスアルファをして、各大学のESDの個性をどう発揮していくか、それが大学自体の持続性にも返ってくると思います。
 ―HESDはどのようなものでしょうか?
 設立して二年目のゆるいネットワークで、まだ、それほど具体的な組織ではありません。
 一昨年、私と岩手大学の玉真之介副学長(大学教育総合センター長)と話をしていて、「これから岩手大学はESDに力を入れるので、教員向けに講演をしてくれ」と依頼されました。その時、高等教育でもESDをテーマにした集まりは大事だという話になり、最初の会合は岩手でやろうと言って、昨年十二月に、「HESDフォーラム二〇〇七in盛岡」を行いました。ESDをテーマに現代GPに採択された大学に呼びかけたら、たくさん集まったという経緯です。各大学の取組事例の発表がメインでした。
 ―今後はどのように展開されますか?
 将来的には、地域単位の大学が一緒になってネットワークを構築していきます。ローカルとグローバルの共通の視点に立った教科書のようなものを作っていきたいと思っています。
 また、大学の社会連携における競争的資金の問題があります。大学間で取り合いをするのではなく、各大学の特徴を活かしたESDを進めていくことはできないか。もちろん、資金だけではなくて、市民の力、ソーシャル・キャピタルもあるわけで、ボランティアやインターンをどう活用していくかのノウハウなどをHESDでまとめていけないかと考えています。
 第二回のHESDフォーラムは、十二月一二・一三日に立教大学で開催しますので、興味のある大学関係者には是非ともご参加頂きたいと思います。

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