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平成20年5月 第2315号 (5月14日)

革新的技術戦略 総合科技会議有識者議員が中間とりまとめ

 総合科学技術会議の有識者議員が、去る四月の同会議において、革新的技術戦略の中間とりまとめを提出した。革新的技術とは、世界トップレベルの技術で、持続的な経済成長と豊かな社会の実現を可能とするもの。我が国が世界との競争に打ち勝つための革新的技術を協力に推進していくことが不可欠であり、イノベーションの源泉になる技術は、科学的知見に裏打ちされる傾向が強くなっていることから、単なる既存技術の改良ではなく、地道な研究開発努力を積み重ねて科学技術による成長を実現していく必要がある。そのためには、長期的に社会全体のイノベーションに結び付けていく技術開発戦略を展開することが重要である。そのための具体的な戦略は次の通り。

1.革新的技術の戦略的推進

 (1)革新的技術によって目指す成長
 @産業の国際競争力強化
 これまで我が国を支えてきた産業(自動車、エレクトロニクス、素材など)の国際競争力の一段の強化に資することが期待される競争力ある技術シーズの研究開発を加速する。また、我が国が強い環境エネルギー分野の技術力を更に強化することにより、「環境と経済の両立」を目指す。
 加えて、将来の新たな産業を形成する大きな可能性が期待される研究開発を加速する。
 これらの取組によって、資源・エネルギー制約を解決する地球温暖化対策技術、価格面以外で新興国の台頭と闘える電子デバイス技術、信頼性と生産性を飛躍的に向上させる組込みソフトウェア技術などを世界に先駆けて育成、開発、産業化し、将来の産業の持続的発展、国際競争力の強化及び新産業の創出を目指す。
 A健康な社会構築
 世界でも比類なき高齢化社会を迎えている我が国において、国民が健康で安全・安心な生活を送ることを可能とする技術の実現により、国民生活の質の向上を目指す。このような技術の普及・展開を通じ、今後二〇〜三〇年遅れで訪れると見込まれる諸外国の高齢化社会に活かされるよう、我が国が強い知能ロボット技術を活かした生活支援ロボット技術、医療工学技術、iPS細胞を利用した再生医療技術などを更に強化し、健康・医療産業を我が国のリーディング・インダストリーに育て上げる。
 B日本と世界の安全保障
 今後の新興国における人口爆発や経済成長を考慮すると、食料、資源などの量的確保と価格安定化は世界的な課題である。特に、資源に乏しい我が国は一層厳しい立場に立たされる。また、温暖化以外の環境問題や感染症もより深刻なものとなると考えられる。我が国にとって、このような制約の克服を可能とするのは技術力に他ならず、不断の技術革新による成長を目指すことが唯一の生き残り策となる。
 これまでの蓄積の上に、食料制約を緩和できる技術、希少物質を代替・回収する技術、環境負荷を減ずる製造プロセス技術、感染症対策技術などを更に発展させ、成長の制約要因を除去し、我が国産業の国際競争力強化を図るとともに、これら技術を核に世界に貢献する。
 また、国の存立に係わる最先端技術として国主導で取り組む国家基幹技術を推進する。
 (2)革新的技術の推進のための新たな仕組み
 ○組織の壁を越えたトップクラス頭脳の機動的結集
 ・研究者の所属組織の壁を越えた一〇〇人規模の頭脳を結集する仕組み
 ・初期段階から産業界の参加を求め、研究開発の進捗とともに関与を拡大
 ・参加する企業等への知的財産に係る優先的な実施権の設定などによる産学連携推進
 ○統合的ファンディング
 ・革新的技術を推進する特別な研究資金枠を設定
 ・研究資金の使い方について、ルールの統一化を進めるなど、現場で使いやすく効率的な資金活用を可能とする
 ・複数府省がその枠を越えて連携した統合的な予算の運用
 ○出口を常に見据えた研究マネジメントと成果の社会への普及
 ・先端医療、ロボットなどテーマに即した規制の特区的運用、規制当局と研究者の対話の場の設定、技術毎の府省協議会設置
 ・革新的技術推進ロードマップ作成とPDCAサイクルの確立(目標達成状況及び国際的なベンチマークを基に毎年見直し)

2.革新的技術を持続的に生み出す環境整備

 (1)未知の分野に挑戦する人材の確保
 革新的技術を絶え間なく創造する基盤は「人」であり、今後、日本が人口減少の局面に入っていく中で経済成長を持続させていく鍵は、未知の分野に挑戦する人材の確保にかかっている。このため、次のような新しい発想に基づく改革が必要である。
 ○トップクラス人材の流動性確保と育成・獲得
 ・大学・研究開発独立行政法人において目標を設定して人材の流動化を推進し、その達成度をとりまとめ公表(例えば、大学におけるいわゆる「純血主義」を排し、自らの大学出身教員の割合を五割以下とする)
 ・世界最先端の研究施設・拠点に優れた外国人を受け入れるための魅力ある研究・生活環境を整備するとともに、研究機関毎に目標(例えば、大学の教授、准教授としての外国人の採用比率を二〇一一年までに倍増)を設定し、世界から優れた頭脳を受け入れ
 ・学生やポスドク、教員等の海外派遣を飛躍的に拡充し、国際的競争環境下での研鑽を推進するとともに、テニュア・トラック制度の導入などにより、世界で戦える若手や女性を能力にふさわしい処遇で迎え、人材の還流を促進
 ○次の世代の人材を確保するための改革
 ・大学・教育委員会との連携の下に、指導力と能力のある理数教員を養成し、活躍の場を広げるための「スーパー・サイエンス・ティーチャー(仮称)」制度の導入と支援
 ・各地域における理数教育の中核拠点となる「ハイパー・サイエンス・ハイスクール(仮称)」への支援
 (2)革新的技術のシーズを生み育てる研究資金供給の実現
 革新的技術は、従来の常識を打ち破る発想から生まれる。従来の研究資金では実績に基づいた提案が優先され、全く異なる発想に基づく挑戦的提案が採択されにくい。このため、新しい未知の分野に挑戦する人材が高い目標を設定して活躍するためには、新しい審査基準に基づく大挑戦を促進するための研究資金が必要である。
 ○挑戦的かつ高い目標設定の基礎研究への投資
 ・多様な基礎研究を推進する競争的資金を拡充。その中に、一定比率の「大挑戦研究枠」を設定。斬新なアイディアやチャレンジ性を重視した課題選定。
 ○切れ目のない研究資金供給
 革新的技術を絶え間なく生み出し、その成果を成長に結びつけるには、二〇年、三〇年を要する場合が多い。従って、優れた研究を支援し続け、イノベーションを起こすには、助成機関同士の連携による切れ目のない研究資金供給の仕組みを確立する必要がある。
 ・国の全ての競争的資金の間での連携システムを二〇〇八年度中に確立し、進行中の助成案件の結果の評価と、その案件の継続課題としての採択審査を共同又は同時に実施し、優れた成果を上げた助成案件に対し、次の段階でも切れ目なく継続的に支援するシステムを構築
 なお、地球温暖化対策関係の技術については、温室効果ガス排出の着実な削減を図るための技術戦略と国際的な削減への貢献策等を本戦略の一環として「環境エネルギー技術革新計画」として別途とりまとめる。
 「環境エネルギー技術革新計画」についても、我が国が強みを持つ環境エネルギー技術を更に発展させて世界に冠たる環境調和型産業を育成・構築し、我が国の成長に貢献するという点は本戦略と同様の考え方であるが、温室効果ガス排出削減に当たっては、技術開発のみならず、社会への普及策やシステム改革、国際的な削減への貢献が重要であり、これらを総合的に展開する。
 〈革新的技術(候補)〉
 ▽高速大容量通信網技術、▽電子デバイス技術、▽組込みソフトウェア技術、▽地球温暖化対策技術、▽知能ロボット技術、▽医療工学技術、▽再生医療技術、▽創薬技術、▽検知技術、▽食料生産技術、▽希少資源対策技術、▽グリーン化学技術、▽新材料技術
 国家基幹技術に海洋地球観測探査システム、X線自由電子レーザー、宇宙輪送システムなど

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