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平成19年3月 第2267号(3月28日)

"技術経営力"持つ人材を MOTシンポジウム開く

 経済産業省は、去る三月二十日、二十一日に、東京都内のホテルにおいて、「技術経営シンポジウム〜イノベーションを推進する人材育成・研究の進展に向けて〜」を実施、野間口 有三菱電機株式会社取締役会長の基調講演や、関係者による人材育成の提言に向けてのパネル等、多数の講演や報告、パネルディスカッションが二日間にわたり行われた。

 同省では、研究開発の効率性を高め、技術を着実に事業に結び付け、経済的価値に転換するマネジメントの重要性から「技術経営」(MOT:Management of Technology)人材の育成を推進してきたが、人材育成プログラムは、教育内容・方法・体制等の面で、一層の高度化が求められている。同シンポジウムでは、これまでの同事業の成果報告を通じ、人材育成や研究の現状について議論するとともに、今後、産学連携による自立的な人材育成・研究の進展に向けた取り組みの契機とすることを目的に開催された。
  基調講演で、野間口会長は、自社のMOT人材の育成について解説すると共に、「大学は普遍的な知見を、企業は手法やツールを持ち寄り、イノベーションプロセスの効率化手法やトップレベルの頭脳交流促進を行うべきだ」と述べた。
  続いて、同省からは、技術経営人材育成の課題において、MOTを学んだ後、すぐに処遇に変化があるわけではなく、現場で活かされていないのではないか等の調査結果を発表した。また、経営学修士(MBA)では取得後に大量転職が起こったように、MOTでも取得後すぐに転職されるのではないかという企業側の不安と消極性があるなどと述べた。
  次に、技術経営に関する学習事例について、同志社大学、東京理科大学、アイさぽーと、マサチューセッツ工科大学の受講者が報告した。報告者たちは、取得の動機や経験等を報告すると共に「様々な技術経営手法よりも、個性や人格を尊重した人間中心のマネジメントを忘れてはいけない」、「MBA時に起きた大量転職のトラウマは、一定の成績であれば、学費を企業が毎年「社員教育経費」として社員に返却できる制度を提案したい」などの意見を述べた。
  続いて、日本の製造業のイノベーション調査を目的とした産官学共同調査研究プロジェクト「ルネッサンスプロジェクト(技術革新型企業創生プロジェクト)」によるシンポジウムが行われた。まず、プロジェクトリーダーである榊原清則慶應義塾大学教授らが研究成果を報告した。テーマは、@イノベーションとコモディティ化、Aサイエンス型イノベーションの推進、Bサービス分野のイノベーションの三研究である。グローバル化・デジタル化によって、「どの会社のものを買っても機能や性能が同じ」状態(コモディティ化)が生まれ、収益が低下していると紹介した。また、特許において学術論文が多く引用されるなど、産業の基礎科学への依存度の高まりにより、改めて、その創出のメカニズム等が問われているとした。
  関係者によるパネルでも成果報告が行われ、イノベーションの研究は、直接的な効果はなくとも、データの蓄積は必要で今後も研究を続けていきたいなどと締めくくられた。
  二日目は、技術経営プログラム開発事業の取組事例教育プログラムの報告があった。東京理科大学、山口大学、同志社大学、北陸先端科学技術大学院大学、アイさぽーと、社内でMOT人材育成を行う松下電器産業がそれぞれ理論と実践が融合したプログラムの特性などを発表した。
  基調講演では、マサチューセッツ工科大学インダストリアル・パフォーマンス・センターのRichard Lester氏より、「創造性のブラックボックスを開ける」というテーマのもと話題を展開。様々な組織や文化、知的境界をまたいで統合させる能力こそが必要であると説いた。
  続いて、技術経営人材育成プログラムの評価と活用について、産学やMOT評価・認定制度検討委員としての立場からの発表があった。その中で、評価によって、多様な視点や生の意見によりプログラムの見直しの機会となることなどが挙げられた。
  最後に、今後の人材育成や進展に向けての提言のパネルがあった。その中で、現状の問題点として、人材の確保や交流の場・実践の場の整備などが挙げられ、「産学官がお互いに現場でMOTを経験しあい、より理想に近づけることが必要」などの意見が出た。その後、閉会となった。

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