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平成19年1月 第2260号(1月24日)

進化続ける米国の大学評価
  アメリカン・インターコンチネンタル大学の苦悩 −下−

桜美林大学大学院教授 船戸高樹

大学の第三者評価が法制度化されて四年目を迎えた。しかしながら、評価員の養成など課題も山積している。一方で、アクレディテーション制度に一〇〇年以上の歴史を持つ米国では、常にシステムの改善に取り組んでいる。このたびは、最近、全く新しい取り組みを始めた南部地区基準協会の試みについて、同協会に調査を行った桜美林大学大学院の船戸高樹教授に寄稿してもらった。今回が最終回。

 はじめに
 このシリーズも今回が最終回。第一回では、南部地区基準協会(以下、南部協会)が取り組んでいる、新たなアクレディテーションのシステムを紹介し、二回目では新しいシステムで指摘事項なしの“無条件認定”を受けたジョージア工科大学のケースを取り上げた。
 しかし、中には指摘事項を改善できないため、「警告」(ウォーニング)や「認定保留」(プロベーション)の措置を経て、最終的に「認定取り消し」の判定を受ける大学もある。アトランタ市内にキャンパスを持つ「アメリカン・インターコンチネンタル大学」(以下、AIU)は、現在「認定保留」の措置を受けており、「認定取り消し」寸前の危機的な状況に追い込まれている。
 なぜAIUが、このような状況に陥ったのか、再起の可能性はあるのか、大学はどのような取り組みをしているのか、について報告する。
 警告と認定保留
 南部協会が年間に実施するアクレディテーションは、約一〇〇校。そのうち、ジョージア工科大学のような無条件認定は、わずか一〇校前後。ほとんどは、認定は継続されるが、何らかの指摘事項がつけられる。いわゆる、「条件付認定」である。指摘を受けた大学は、一年以内に改善レポートを提出する。多くの場合、基準違反の内容が軽微なため、この時点で指摘された問題は解消され、一〇年間の認定が確定する。
 しかし、中には多くの指摘事項を受ける場合や、著しい基準違反など深刻な問題を抱えていることもある。期限内に指摘事項を改善できない事態に陥ると、南部協会は当該大学に対し、まず「警告」を発する。一年間の期限内に改善できない場合は、さらにもう一年、「警告継続」となる。
 それでも改善が認められなければ、一年間「認定保留」の措置に移る。この場合も、さらに一年間の「継続保留」の措置が取られるが、これは認定継続のためのラストチャンス。ここで改善ができなければ、「認定取り消し」の最終判断が下され、会員資格を失う。このように、アクレディテーションを受けてから、「認定取り消し」という最悪の状態になるまでには、最低五年間の猶予期間が設けられていることになる。
 これについて南部協会事務局長のトム・ベンバーグ博士は「アクレディテーションは、高等教育の質を高めることが目的であるが、一回の試験で、合否を決めるようなものではない。基準を満たしていないことがあっても、できるだけ改善のための時間とチャンスを与えている。しかし最終的に、組織の継続性に問題があると判断した場合は、“取り消し”の判定を下す。最近では、四校が取り消しとなり、うち二校は再申請を目指して、協会のトレーニング・センターで指導を受けている。他の二校は、判定を不服として訴訟となっている」と語る。
 現在、南部協会の認定校約八〇〇校の中で、「警告」を受けている大学は一〇校、また「認定保留」の状態にある大学は九校となっている。これらの情報は全て公開されており、「このことが大学をさらに苦しい立場に追い込むことにならないか」という質問に対して、ベンバーグ博士は「当然、学生募集には打撃を受けることになる。しかし、高等教育の質を正しく社会に示すことが我々の役割である。情報を公開しないで、一番被害を受けるのは学生たちだからだ」と協会の立場を説明した。
 営利型大学にかげり
 AIUは、「認定保留」の状態にある九校の一つ。しかも、この一月「継続保留」の判断を下された。今年中に指摘事項が改善できなければ、認定取り消しになるというギリギリの状態に追い込まれたということである。
 AIUは、アトランタやヒューストンなど米国内に六キャンパス、海外に二キャンパス(ロンドン、ドバイ)の、合わせて八つのキャンパスを持つ営利型大学である。学生数は、八キャンパス合わせて四万人であるが、約半数はオンライン教育の学生が占めている。一九七〇年代に創立、主にデザイン、ファッション、ビジネスなどの専攻を持っており、キャリア・エデュケーション社(以下、CEC)グループの傘下に入っている。CECは、世界各地にAIUの八校を含め八四校の教育機関を擁しており、ニューヨークのナスダック市場に上場しているが、配当は出していない。「株の価値を高めることによって、株主の満足度も高まる」というのが、その理由だ。
 もっとも、クロニクル紙によると、営利型大学の株価は、二〇〇〇年から二〇〇四年までの四年間で六〇〇%という驚異的な伸びを見せたが、以後低迷を続けている。昨年、米国の株式市場全体では一一%の上昇を見せたが、営利型大学の株価は反対に、平均で一四%値下がりしている。CECは一八%も価格が下落、フェニックス大学を擁するアポロ・グループは三四%という大幅な下落で、営利型大学の勢いにかげりが見えてきたといえよう。
 営利型大学の特徴について学長のジョージ・ミラー博士は「最大の特徴は、利益を出さなくてはならないということであろう。基金からの収入はないので、学費が頼り。したがって、学生をいかにして確保するかということだ。その意味では、学生の満足度を高めることが唯一の目標といえる」という。
 また、営利型大学とアクレディテーションとの関係については「営利型大学のほとんどは、アクレディテーションを受けられない状況にある。AIUが基準協会の認定を受けているということは、他の営利型大学との差別化を図り、また社会の信頼を得るという点で、大きな利点がある。もちろん学生募集にも大きな力を発揮するが、最大のメリットは学生が奨学金を受けることができるようになることだ」と語る。
 認定保留の要因と再建策
 それでは、なぜそれほど重要なアクレディテーションの継続認定を認められず、「認定保留」の状態に陥ったのか。AIUが、南部協会から指摘されているのは、基準全体の八二項目のうち、社会的倫理性をはじめ、ガバナンス、教員スタッフ、教育プログラム、情報公開など全部で一五項目に上る。
 危機感を抱いた理事会は昨年一月、それまでヒューストン校の学長だったミラー博士をAIUの本部であるアトランタ校の学長に転任させた。バージニア大学で教育学の博士号を取得しているミラー博士は、これまで多くの大学のマネジメントで実績を挙げており、その手腕に期待しての異動であった。ミラー学長が、最初に取り掛かったのは、組織の強化である。中心となっていた五人のアドミニストレーター全員の首をすげ替え、さらに二六人にまで増員した。合わせて、スタッフに対するトレーニングを実施して、アクレディテーションの意義と目的を理解させることに努めた。
 「原因は、大学全体として、アクレディテーションに対する理解と認識が足りなかったことだ。ここ一〇年間に急成長したため、ガバナンスとマネジメントの能力が弱体化し、目先の仕事に追われて、アクレディテーションを軽視していたといえる」とミラー学長は分析する。
 その上で、今後の方策として「継続認定を得ることは、我々にとって必要不可欠のものだ。もし、認定取り消しということになれば、マーケットの信頼を失い、大学の存在意義そのものが揺らぐ。最後のチャンスを生かして、必ず指摘事項全部をクリアする」と意気込みを語った。
 とはいえ、AIUの前に立ちはだかるハードルは高い。教育の質を高め、南部協会から指摘された項目をクリアするという「プロセス」を重視する大学側の姿勢が、株の価値向上という目先の「アウトカム」を求める株主たちに理解されるのか、どうか。
 AIUは、営利型大学の今後を占うケースとして注目されている。(おわり)

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