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平成19年1月 第2259号(1月17日)

第3回USRフォーラムを開催
  郷原氏(コンプライアンス研究センター長)が基調講演

 大学の社会的責任について研究を行う「私立大学社会的責任(USR)研究会」(藤田幸男会長)は、去る十二月十九日、東京・豊洲の芝浦工業大学において、第三回USRフォーラムを開催、各研究会の報告のほか、郷原信郎桐蔭横浜大学法科大学院教授・コンプライアンス研究センター長の講演があった。

 同研究会は、ガバナンスやリスクマネジメントなど、「企業の社会的責任(CSR)」の取り組みを参考に大学の社会的責任の研究を行ってきたが、私立大学の固有の課題にも対応すべく活動を展開している。
 フォーラムではまず、「大学のコンプライアンス」として、文部科学省研究費の不正対策検討会委員も務める郷原教授より基調講演があった。郷原教授は、コンプライアンスを「法令順守」と訳すことがあるが、これは間違いであると指摘し、本来は「組織に向けられた社会的要請に応えて、しなやかに鋭敏に反応し目的を実現していくことだ」と述べた。日本においては、時に法令よりも社会的な要請が重んじられることがあるので、法令のみを遵守していても十分ではない。また、日本の違法行為は組織の構造的要因から発生するため、違法行為を行った個人に罰則を与えるのではなく、組織の環境整備により改善していく必要があるとした。こうした取組には、社会的な要請を敏感に感じ取る鋭敏性と他組織との連携が必要であると述べた。
 続いて、文部科学省の安藤慶明高等教育局私学部参事官は、「私学の個性・特色の発揮と経営革新―大学の社会的責任を考えるに当たって―」と題して講演を行った。近年の大学を取り巻く厳しい経営環境について触れつつ、同省の大学支援事業を紹介。また、経営困難な学校法人の経営改善支援を行うための施策を私学事業団「学校法人活性化・再生研究会」等で研究を進めているとした。
 休憩をはさんで、同研究会の研究報告となった。まず、USRの本質研究専門委員会委員長の水野雄二獨協大学教務部教務課長より、「USRを改めて考える」と題して報告があった。水野氏は、大学オリジナルの考え方に基づくUSRの再定義を行うとともに、社会的責任を果たしているかどうかの評価方法は、現段階では評価指標をもって図ることができないが、将来はこれをUSRの最高要素と設定していくことが必要であると述べた。続いて、大学の不正・不祥事研究専門委員会委員長の秋谷芳英創価大学事務局長より、「大学の不祥事の事例研究」と題した報告があった。同委員会では、リスクマネジメントやコンプライアンスを調査しており、本年度に行われた不正・不祥事のアンケート調査の結果を報告した。最後に、不祥事の「事後対応型」から「事前予防型」に転換するために、教職員の倫理意識の向上、大学組織のマネジメント体制や、ステークホルダーの意見反映システムの構築が必要だと述べた。次に、情報開示専門委員会委員長の笠原喜明東洋大学総務部総務課長より、「USR報告書の作成に向けて」と題した報告があった。同委員会では、本年中に報告書の記載内容の検討及び事例の収集・分析を行うことになっており、各大学のホームページより優良事例をピックアップし紹介した。最後に笠原氏は、「研究・地域貢献といった私立大学が不得意な分野があり、また、USRに関する情報開示は少ない」などと述べた。最後に、USRを意識した財務情報開示と会計管理手法専門委員会委員長の舟山 亮東京農業大学財務部部長より「説明責任が果たせる会計的手法研究」と題した報告があった。舟山氏は、経済・財政についての説明責任を、ステークホルダーにどのように果たしていくかの観点が必要であると語り、財務会計と管理会計の違い等について述べた。また、様々な会計管理手法について各大学の事例を紹介しながら、USRを意識した財務情報公開の項目などについて報告した。最後に、藤田会長による研究報告の講評がなされ、終了した。
 なお、昨年十一月に発行した「私立大学の社会的責任に関する研究報告」の二〇〇六年度版(一冊一五〇〇円+送料)については、学校経理研究会で購入することができる。

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