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平成19年1月 第2257号(1月1日) 2007年新春特別号

2007年 新春座談会
  「全入時代の教育と私学経営 高度化と多様化への対応」
  学校法人制度を堅持し私学振興を 建学の精神の下、特色ある教育を展開

学士家庭教育のプログラムが重要

 瀧澤 先ほど大沼先生、また、黒田先生から厳しい状況下だけれども、自分の大学が何を目指し、どんな教育を展開していかなければならないかを考えることが重要であるとのお話がありました。中教審の大学分科会の重要なテーマとして、多様化時代の学部教育、すなわち学士課程教育のあり方が議論されています。この古くて新しいテーマである「学士課程教育」のこれからのあり方についてご意見をいただけますでしょうか。
 福井 再び教養教育が強く言われるようになって、今度の教育基本法にも、教養を身につけることの重要性が盛り込まれているのは、大いに歓迎すべきことだと思っています。教養とは何かとなると、非常に広い意味があると思いますが、私たちが私立大学を経営していく時に、ただ目先の生きるか死ぬかという視点の他に、やはり良識の府と言うのでしょうか、経済性ばかりで考えるのではなく、大学としてあるべき理想を求め、学生たちにとっての豊かなキャンパスライフを形成するためにも、私たち自身が時代に即して持たなければならないものだと考えています。
 中教審の答申の中にもあったと思いますが、自らがどういう地点に立っているかを見極め、今後の進むべき目標を考え、その実現に向けて主体的に行動していく力を持つことが、まさに新時代に求められる教養だと思います。経営の現実面はさておき、私はその点を忘れてはならないと自戒をしているのです。
 廣川 理工系の学問は、非常に専門化されていますので、学部の時点でかなりの専門知識を身につけて大学院のマスターを修了することが求められていますが、現在の学生はやる気のある者とない者、学力の差が大きく一律の授業では学力の高い者はやる気をなくし、低い者は取り残されてしまうので授業のあり方を工夫し、常に学生に受け入れられているかどうかを検証し、きめの細かい対応の仕方が求められています。
 しかし、学士課程にあっては専門知識に偏り過ぎないように、社会人として自立した人間らしく生きるための力を身につけるための教養教育や基礎教育が、荒廃する社会を救うためにもますます重要になってきます。
 東京電機大学では、初代学長である丹羽保次郎先生が「技術は人間なり」と言いました。
 つまり、立派な技術者となるためには立派な人間でなければなりません。立派な人間でなければ立派な技術者にはなれませんという教えを現在でも教育理念としています。
 大橋 これまでの学部教育、学士課程教育は、新制大学発足以来六〇年近くになろうとしているのに、教養教育あるいは一般教育の扱いを含めて、スタンスが定まらないまま模索が続いているという状況にあります。
 昔の法学部は、法曹の専門家を育てるところでしたが、法科大学院ができた今、学部の役割は大きく変わったはずです。私が関係している工学教育でも、修士課程進学率が平均で三〇%、高いところでは八〇%を超える現実を踏まえて、学部教育と大学院教育、特に修士教育との役割分担を再定義しなければなりません。現在の学部教育を見ますと、学部教育がすべて同じ舞台で語られているわけですけれど、実は学部教育にもいろいろな性格があります。一つには、リベラルアーツに代表されるように、職業とは直接的な関係なしに、まさしく高等教育の名に値する知力と人間力を養うような、そういう教育が厳然として存在します。
 それと、今日ここにご参加の先生方は、特定の仕事に直結する教育を担っている大学の代表ばかりがお揃いですが、それがもう一つの学部教育の分野になります。卒業生が社会に出て、きちんと仕事をやっていけるように育てるという、そういう性格の学部教育は、リベラルアーツ教育と一緒に考えることはできません。これから学部教育の議論をするときに、それぞれの目的を明確にしたうえで、それに相応しい学士教育プログラムを組み上げる必要があります。特定の職業を念頭に置いた教育でも、仕事をするうえで教養は不可欠ですから、教養教育をその見地から取り入れる必要があります。これからの学部教育に関する議論が、これまでのようなごちゃ混ぜの議論から、教育の特性に応じた議論に深化することを願っています。
 瀧澤 ありがとうございました。
 単に「学部教育」ということではなく、課程に着目しての「学士課程教育」をどうするのか、従来からのいわゆる教養教育の位置づけはどうするのかなど、それぞれにご意見をいただきました。やはり「学士課程教育プログラム」をきちんと確立することが求められるようです。
 ところで、創立六〇周年記念式典で黒田先生が朗読された決意表明で言われている「私学魂」について、その具現に向けた心構えといったようなことはいかがですか。
 黒田 先ほども少し申し上げましたが、今後、規制緩和の波は避けられないとしても、何らかの処置は取られてくるのだろうというふうに思っています。そういう時代に日本の私立大学が、先ほどから出ていますけれども、大手が定員増をする。小さいところは定員割れを起こす。そういう二極分化が出てきているわけですが、それはやむを得ないと言えばやむを得ないのですが、それぞれの大学が今後自分の大学はどういう目標を持って大学を経営するのかという理念、これは理事会がその先頭に立ってつくらなければならないと思うのですが、そういうミッションをきっちりと定めたうえで学生募集をする。それに賛同する子どもたちを集めてくるという、そういうことをやっていかないと、結局他の大学との差別化、それが起きなかったら弱小のところはなくなる、消えざるを得ないという、そういうことになってくるのだろうというふうに思います。

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