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平成18年9月 第2246号(9月20日)

イノベーションを創出せよ 持続可能な社会のための科学技術国際会議

 日本学術会議(黒川 清会長)等は、去る九月八日・九日に、京都・宝ヶ池の京都国際会館において、持続可能な社会のための科学と技術に関する国際会議二〇〇六を開催した。今年はグローバル・イノベーション・エコシステム(GIE)をテーマに、各国から科学技術関連の担当者四四名を招いて、一般参加者およそ一五〇名とともに熱のこもった議論が行われた。

 科学技術のイノベーションとは、「科学的な知識から新しい技術やアイデアを創造し、洞察力を持って、それを経済的・社会的価値あるものとして、社会的ニーズを満足するプロセス」と説明され、イノベーションの創出は、多くの国において重要な政策課題となっている。アメリカにおいては、二〇〇四年に競争力評議会が、ブッシュ政権に提出した「イノベート・アメリカ」は有名で、天然資源の少ない我が国においても、日本経済団体連合会の御手洗康会長が会長就任の挨拶で、「イノベート日本」を掲げた。こうしたイノベーションが創出される仕組みとして、イノベーションのエコシステム、すなわち、多様なプレイヤーが相互作用し、競争し、進化をする「生態系」が重要であり、このたびの会議のテーマともなっている。
 このたびの会議は、GIEを定義し、これを実現するための仕組みを明確にすることにより、「持続可能な地球の実現に向けてイノベーションを促進するにはお互いどう協力し合えばよいか」を二日にかけて議論していくもの。黒川会長は、「イノベーティブなマインドを持つ人々が集い、次世代のために実際に動き出す場となることを望む」などと挨拶した。
 日本からは、石倉洋子一橋大学大学院教授、村田純一村田機械会長、馬場靖憲東京大学教授、植田和弘京都大学大学院教授らが日本のイノベーション政策の現状やGIEの仕組み等について発表し、また、アメリカ、スウェーデン、中国、韓国、ベトナム等各国の担当者による発表から、各地域や国において、イノベーションシステムは異なり、人口、経済規模、経済発展段階等に応じ、多様性があることが分かった。加えて、各国で産官学の役割は異なるが、一方で、各国に共通して、初期段階における投資、教育、基礎研究の充実等を重視していることが分かった。同会議では、さらに次のことが確認された。
 まず、経済、社会、産業の観点からは、国家と市場のルール作りや、研究者、起業家、投資家へのインセンティブの与え方、セーフティネットの構築が重要である。また、持続可能な社会の実現には、国レベル、世界レベルでのイノベーションシステムを踏まえた、各国間の競争と強調のフレームワークが必要である。
 続いて、人的資源、教育の観点からは、人的資源の国際間の流動性が増していく中で、国内のみならず国外からの人材獲得が重要になっている。そうした中、どのようにしてイノベーションを生み出す多様な人材を獲得しているか議論された。
 科学技術の観点からは、イノベーションを生み出す基となる多様な基礎研究の重要性や、イノベーションの発展に応じて各ステージをつなぐ研究者コミュニティの構築と維持、多様な資金供給、産学連携の制度の重要性が確認された。
 更に、イノベーションは不確実なものであり、長期間にわたる確立過程である。「イノベーション・エコシステム」は、この創出を担う多様なアクター・ステークホルダーが「場」(インタラクションフィールド:人材、技術、資金、クラスター、産学連携、知財、規制などを構成要素とする)において、相互作用し合い、また、システム自身も、各要素や場の有機的な連携により、自立的に進化していく。特に、その中心となる「場」の重要性が確認された。
 最後に、この国際会議の継続化、イノベーション研究のネットワーク及び政策研究者の質と量の拡大、特に、アジアイノベーション研究ネットワークの構築及び政策研究者の拡大を目指すことなどが提案され、閉会となった。

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