Home日本私立大学協会私学高等教育研究所教育学術新聞加盟大学専用サイト
教育学術オンライン

平成18年9月 第2246号(9月20日)

[井リポート/学校運営の現場から(9)]
個性輝く大学を訪ねて 愛知学院大学

変化に対応し続ける力
日本私立大学協会顧問・弁護士井伸夫

 愛知学院大学の歴史は古く、その前身は、宗門人教育のために明治九年に開設された曹洞宗専門学支校である。開学から一三〇年を数え、中部圏で最も古い私学であるばかりか、現在八学部一五学科、大学院八研究科に一万二〇〇〇名の学生を擁する同地区最大級の大学でもある。開学以来、仏教を教育の根幹に据え、「仏教精神、特に禅的教養を基として、行学一体の人格育成に努め、報恩感謝の生活のできる社会人の養成」をその使命としている。小出忠孝学長によれば「行学一体」とは、曹洞宗の開祖道元禅師の教えで、「単なる知的な理解だけに満足せず、進んで身心を傾け、真に身についた学問を体得して人間的に立派になることを目指す修学態度」を指すのだという。
 
今回お話を伺いながら、「大学はサービス業であり、顧客(同大学に就学する学生)の創造である」と痛感させられたのだが、それは同大学の取り組みが、すべからくこの思想に基づいているからである。ここでは、同大学の斯様な取り組みを紹介しよう。

 同大学は、名古屋市内と郊外に三つのキャンパスを擁するが、七月半ばの梅雨寒のある日、そのうちの一つである「日進キャンパス」を訪ねた。一五万坪もの面積を誇るキャンパスに一歩足を踏み入れただけで、学生に快適な環境を提供すべく力を注いでいることが容易に伺えた。緑豊かで、明るく、開放感に満ち、かつ隅々まで清掃が行き届いた清潔感溢れるキャンパスを歩きながら、こうした快適な環境もまた、大学が提供し得るサービスの一つなのだと改めて感じ入った。就学環境は、人間成長の基盤となるものであり、社会人となって、母校を懐かしむ時、その端緒となるものはやはり就学環境の良さなのであろう。

 さて、「頭のよい者や力の強い者が生き残るわけではなく、変化に対応し続ける力のある者のみが生き残り得る」という言葉が示すように、大学もまたその存続のため、社会的なニーズの変化に応え得る斬新な教育内容を取り込み続けていかなければならないことは言うまでもない。この点、同大学は開設以来、時代の要請に適った学部、学科を次々と創設し続けている。 最近では平成十五年に、心と身体の深い関わりを総合的に捉え、現代社会に不可欠な心と身体の専門家の育成を期す「心身科学部」を日本で初めて開設した。頭脳労働の時代から心の時代への過渡期を迎えている今日、こうした専門家に対するニーズが年々高まっていくことは間違いない。また、昨年の薬学部新設に続き、来春には「グローバル英語学科」、「ビジネス情報学科」、「現代企業学科」の三学科が開設される予定であり、これからの動向が益々注目される。

 小出学長に「モットーは何か」をお尋ねしたところ、「学生にわかりやすい講義を提供すること」であるとの明快な答えが返ってきた。そのお話のとおり、同大学では学生による授業評価を導入し、これを公表している他、教員による教員のための「授業参観」を実施するなど、授業研究にも余念がない。また、教職員等による委員会活動も活発であるとのことから、経営陣と現場に立つ教職員との風通しのよい関係が伺えるなど、学生をサービスの受け手と捉え、全教職員をあげてその提供者としての責務を全うしようとするサービス精神がここにも見えるのである。
 大学がサービス業である以上、顧客のニーズにマッチしたサービスを的確に提供できなければ、顧客を得ることはできないことから考えれば、中部地区で最大級の規模であるという事実が、そのサービスの質を物語っていると言えよう。

 時代の変化を的確に捉え、その変化を追い風にもしながら発展を遂げてきたようにすら思えるが、変化が激しい今日にあって、それは決して容易なことではない。ましてや、大学経営に限らず現代は、既存の延長線上の発想では対処できない時代であり、経営陣・教職員が一丸となって経営に参画せずして発展など見込めるものではない。
 一三〇年という伝統を重んじつつも、それに甘んじることなく革新を遂げている同大学の原動力は何かと考えた時、それは小出学長の摩擦を恐れぬ強い精神力と、強力なリーダーシップではないかと思えた。

Page Top