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平成14年2月 第2049号(2月6日)

井リポート/学校運営の現場から
 個性輝く大学を訪ねて 仙台大学

スポーツ・フォア・オール
日本私立大学協会顧問・弁護士 井伸夫

 競争力とは独自性である
 仙台大学は、東北新幹線白石蔵王駅から車で四〇分、蔵王連峰を遥かに眺め清流を湛える白石川を懐に抱く、美しい自然の中にある。
 宮城県柴田町船岡―この地方小都市にある小規模単一学部大学が、冬季オリンピックのボブスレー種目等に数多くの日本代表選手を輩出し、「個性輝く大学」として認知されている所以を探ることは、地方大学の一つのあり方として示唆に富むのではないかと考え、今回取り上げるに至った次第である。
 同大学は、昭和四十二年開学、創立三四年という若い大学であるが、体育学部を有する国立の教員養成系大学を除けば、北海道・東北地区で唯一の体育系私立大学としてユニークな存在感を発揮している。
 同大学の朴澤泰治理事長は、東大法学部卒業後、武田薬品工業鰍ナ管理部門を担当されていたが、平成三年、現職に就任された。
 理事長就任時は、少子化問題がクローズアップされ、各大学はその対応に苦慮する時期であったが、同大学は現在もなお志願者数の落ち込みを見ないまま推移し、異色の存在としての力を発揮している。
 競争力とは独自性である。そして、その独自性が社会に受け入れられることが必要である。ソフト化時代、即ち頭脳労働が極めて肝要な時代にあって、体育系大学が存在意義を保持し続けているということは、その教育内容・カリキュラムが社会の推移・変化との連動性を有してきていることの証左に他ならない。
 仙台大学は開学当初は体育学部体育学科のみであったが、平成七年には健康福祉学科、平成十年には大学院スポーツ科学研究科を順次開設した。旧来の体育学部という枠組みに囚われず、「スポーツと健康」を一つの学問領域と考えて人材育成を図ろうとする、朴澤理事長の理念の賜物である。
 健康福祉学科は、高齢化社会で需要の高い介護福祉の分野に照準を合わせ、高度の健康福祉の専門家の養成を目指している。つまり、同じ学部の中で、高度な運動能力を持つ競技者の養成と、身体介護の専門家の教育とが行われているのである。身体強固なアスリートと寝たきり老人の身体の動きに相関性を見出し、競技者だけでなく広く一般大衆を視野に入れた学問を構築しようとする発想は、同大学の理念「スポーツ・フォア・オール」(皆のためのスポーツ)を具現化する独自のものであろう。
 また、平成十三年五月に完成した『クラブハウス』も独自の発想に基づく試みである。広いフロアに部室がローパーテイションで間仕切りされているので、各部室間の見通しが非常によい。他部がどんな活動をしているのか理解し、共通認識を持てるような部室運営を行っているのである。
 要するに、各競技が個々に有する身体運動に関する技能・技術、または知見・ノウハウ等を共有し利用しあうということを自然に可能にするために、部室を半ばディスクロージャー(開示)する構造なのである。
 専門家を志すがゆえに、あまりにも狭隘な専門家であってはならないということ、むしろ専門家になるためには学際・業際といったものに対して目を向かせ、総体としての人間理解に達し得るシステムこそが重要であるという同大学の信念が、そこには認められる。

リーダーシップのとれる人材起用
 ソフト化時代への対応と並んで同大学が力を入れているのは、体育指導者の理論的指導力の強化である。
 体育各種目の実技に従事する教員が、中高年となり身体能力の衰えと共に実技者としての指導力を失うことはやむを得ないことであるから、中高年教員がなおその存在意義を発揮するためには、理論的指導を行う能力を身につけることが必要不可欠となってくる。
 ところが、指導者として運動理論を教示するためには、実技可能な身体能力の高い時期にこそ、その転換を可能にする勉強が必要となる。つまり、体育学部系の指導者は、単に実技能力だけで指導者であり続けることはできないという宿命を負っているのである。
 教員が常に先取りした勉強をしなければならないことは、何も体育系学部の教員に限ったことではない。
 ソフト化時代においては学問の進展のスピードは速く、絶えず変化し、まさに日進月歩である。要するに十年一日のごとき講義をしている教員像は、大学の教員として許されない時代・淘汰される時代となってきているのである。このように教員に対する指導をも重視する観点から、同大学はリーダーシップのとれる優れた人材を学長・副学長に起用している。
 粂野 豊学長は東京教育大学卒業後、同大学院修士課程を修了、文部省体育局体育官等を経て複数の大学の教授を歴任し、平成六年に現職に就いた。日本の体育教育関係の要職も歴任した粂野学長は、「生涯スポーツ」という言葉の生みの親でもある。
 向井正剛副学長は岡山東商業高校に奉職中、平松政次投手を擁し甲子園春の選抜野球大会で三年連続優勝を飾っているほか、日本オリンピック委員会理事・事務局長を、また、関岡康雄副学長は、日本学生陸上競技連合会常務理事をそれぞれ務められている。
 これらの指導者は、体育関係においてリーダーシップを発揮するに足る学識を持っているが故に、一般教員を刺激し続けることができ、そのことが同大学の力となっているのである。学生が勉強する以前に教員が勉強する。このコンセプトを学内で確立・実践していくことが大学改革の重要な決め手であることをよく知っているのである。
 さて、同大学には、教員になりたいという願望を持って入学する学生が多い。しかし、全員が教員になれるわけではない。一般企業に就職する者、教育以外のスポーツ関係の仕事に従事して力を発揮する者等がいるから、それらに合わせたカリキュラムを作成する必要がある。そのために、同大学には体育学科系に二つ、健康福祉学科系に三つのカリキュラムがある。
 仙台大学は冒頭で述べたとおり、北海道・東北地区で唯一の体育系私立大学であることを売り物にしてきたが、それだけでは今後は足りないであろう。
 ウインタースポーツもできれば夏のボートもできるという恵まれた自然環境の中で、これらの自然・地形を生かした実践体育教育を強調し、より一層の独自性・存在性を発揮する努力、即ち、時代の要請・社会の変化に即応すべく自己啓発を怠らず、絶えざる学風の刷新に意を用いて、「スポーツ・フォア・オール」の精神を一歩でも前へ進め、実現を期すことが求められているのである。

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