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アルカディア学報

アルカディア学報(教育学術新聞掲載コラム)

No.541
高大接続の課題 入試頼みの質保証では解決困難

研究員  濱名 篤(関西国際大学 理事長・学長)

 今期の中教審では、「大学入学者選抜の改善をはじめとする高等学校教育と大学教育の円滑な接続と連携の強化のための方策」が諮問事項としてあげられ、議論が続いている。
 平成24年8月の当時の平野文科相の諮問文には、「高等学校教育、大学入学者選抜、大学教育は相互に密接に関連し合うものであり、そのいずれかに責任を帰すことによっては問題を解決することはできない」と書かれている。大学分科会と初等中等教育分科会が別々に審議するだけでなく、高大接続特別部会を設けて審議されている点が今回の大きな特徴である。
 しかし、民主党から自民党への政権交代後は、教育再生実行会議、産業競争力会議、さらには、自由民主党教育再生実行本部成長戦略に資するグローバル人材育成部会等、グローバル人材の養成や成長戦略と結びつけた多くの要求が出される中で、高大接続のあり方の改善策を策定しなければならず、より複雑に外圧が強まる状況下での議論になってきている。
 現在、中教審での議論に先立ち、教育再生実行会議からは10月に第4次提言「高等学校教育と大学教育との接続・大学入学者選抜の在り方について」が出され、「達成度テスト(仮称)」という提案がなされている。大学入試センターテストを廃止し、達成度テストに「基礎レベル」と「発展レベル」という2種類のテストをつくるというものである。
 高大接続の議論のポイントはたくさんあるが、筆者は三つが重要であると考えている。
 第1に、高校教育の質保証に関わる高卒者の最低学力保証である。第2は、高等学校段階での学習の達成度を把握することに加え、大学教育で育成が期待されている汎用的能力やコンピテンシー等への適性、言い換えれば、大学教育を受ける適性を測る入試にどのように改善していくかという問題である。この点については、1点を争っての暗記型学力に対する社会からの批判と連動して語られることが多い。第3に、入試を「多面的」、「総合的」、「丁寧に」、「個性を尊重して行う」等、試験の性格についての概念の曖昧さに関わる問題である。
 第1の高校教育の質保証は、本来は中等教育の問題である。高校長が卒業認定権を持つ現行制度では、生徒は学習指導要領に則った必履修は求められても、教育内容の修得は義務づけられてはいない。どの高校を出ても、あるいはどのような進路をとろうとも、最低身につけておくべき“コア”の修得ができていることを確認する必要があるのではないかということである。東大が実施した「高校生追跡調査」(中教審高等学校教育部会・金子元久委員提出資料)の結果によれば、大学進学希望の高3では「教室外学習時間」は大学志願者では53%が「3時間以上」で、「ほとんどしない」は19%となっているが、専門学校・短大志願ではそれぞれ12%と57%と逆転し、就職・アルバイトでは2%と80%と、全く教室外では学習していないという結果になっている。現在では、大学受験のための学習になっているのが現状である。また、高校教育の質保証がなされていない、あるいはそのような仕組みがつくられてこなかったという問題は、高校進学率が96.5%に達していながら、中退率は2%未満(いずれも学校基本調査平成24年版)、留年者はごくわずかという状況にも表れている。
 このような高校教育の質保証が不在の中で、入試の多様化、多回数化が進み、基礎学力を問われることなく大学に入学する者の比率は年々高まっている。“非学力選抜”といわれる推薦・AO入試での入学者が私立では50.3%を占め(平成24年度文科省大学入試室調べ)、基礎学力不足でも入学できるという批判の声が大きくなってきており、大学の数が多すぎるといった議論と結びつけられやすいという事態も招いている。この問題の解決は、大学入試頼みの質保証では解決せず、高校教育としての基礎学力保証の仕組みが間違いなく必要である。
 今回の「達成度テスト(基礎レベル)」は、この側面に着目したものであるが、その活用を大学、中でも私立大学がどのように主体的に行うかについて、今後の議論の中で見通しを立てられなければ構想は活かされないだろう。
 第2の問題は、「大学教育に必要な能力」をどのように測定するかという問題である。高等学校での学習の達成度と、大学教育で必要な素養・適性をどのようにあわせ測るかという問題である。
 現在、すべての大学はアドミッションポリシーを定めているが、求める学生像だけではなく、高校段階で習得しておくべき内容・水準を具体的に定めているのは42.6%の大学に留まっており、私立では39.9%にすぎない(国立70.7%、公立33.8%。いずれも文部科学省大学入試室調べ)。高校の学習指導要領に即した学力試験だけで、大学教育に必要な能力や素養を測っているといえるのか、筆記試験の1点差や偏差値0.1の違いが、大学教育への適性の差なのかという点については、以前から中教審でも問題にされてきた点である。中国や韓国など日本の大学入試の影響を受けてきた東アジアの国などを除き、一発勝負の筆記テストで人生を左右される国は少ない。アメリカのSATやACTといった外部テストは、年複数回(それぞれ7回と6回)の実施であるし、得点も20点以上を1カテゴリーにしており、1点刻みではない。これらのテストでは、高校教育の内容の修得度を測っているだけでなく大学教育で必要な力を問題に加えている。
 今回の「達成度テスト(発展レベル)」の科目・内容は今後の高大接続部会の議論に委ねられるが、現在の大学入試センターテストの科目数削減、複数回実施や1点刻みではない得点幅の設定といった方向性を実現していくことも含め、議論されていくと思われる。
 第3の問題は、教育再生実行会議の「能力・意欲・適性や活動歴を多面的・総合的に評価・判定するもの」への転換という方針等に表れている。大学入試センターテストの後継とみられる「発展レベル」テストに、面接を組み合わせることを求めるかのような報道がなされたが、定員が数十名規模の中小規模大学のセンター利用入試ならまだしも、大規模大学が発展テストと面接を組み合わせて利用するかは大きな疑問である。それなら、AOや推薦入試との違いはどうなるのであろう。大規模大学では、それらの制約が課されれば、従来の一般入試により多くの定員枠を設定するだろう。
 中教審での前期までの議論では、800近い大学がまちまちに年に何回も多様な入試にエネルギーを割くのなら、教育にもっとエネルギーを注げるようにすべきであるという意見があったが、それとは逆の方向性にもなりかねない。また、企業等が期待する汎用的能力やコンピテンシー型能力が面接で測ることができるのなら、AOや推薦がその役割を果たしていることもある。
 大学教育で必要な能力や汎用的能力の素養を測るのならば、大学入試センターや国立教育政策研究所が開発に取り組みつつある「数理的能力」や「言語運用能力」の新テストの開発を国が支援し、急ぎ大学が活用できるようにする必要がある。
 高大接続の改善は、高等教育と初等中等教育、さらには企業等社会との「評価観(どのような力を育て評価するのか)」の連続性がなければ解決できない。その連続性を確保した上で、接続を促進する諸施策や入試方法が重要になってくる。高大接続の論議は、大きな視野に立ちつつ、慎重かつ速やかに進めていくことが求められている。

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