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アルカディア学報

アルカディア学報(教育学術新聞掲載コラム)

No.481
ルーブリックが日本の大学を変える
ポートランド州立大学ダネール・スティーブンス教授の講演を中心に

客員研究員 土持ゲーリー法一(帝京大学高等教育開発センター長・教授)

 ルーブリックは、1998年にWalvoord, B.and Anderson, V.Effective Grading:A Tool for Learning and Assessment(Jossey-Bass)の著書が刊行され、学習成果をアセスメントする明確な基準が必要であるとして注目されはじめた。
 中央教育審議会も『学士課程教育の構築に向けて(答申)』(2008年12月24日)において、各専攻分野を通じて培う「学士力」の考えを示し、4分野13項目の習得を求めた。4分野とは、知識・理解、汎用的技能、態度・志向性、そして「統合的な学習経験と創造的思考力」である。各大学に対し、授業ごとの到達目標や成績評価の基準を明確にし、学士力がどれだけ定着したか把握するよう要請した。このような学士力を測るには、ルーブリックが不可欠である。ルーブリックによる評価は、学生が何を学習するかを示す評価規準と、学生がどのレベルで学習到達しているかを示す評価基準をマトリクス形式で示した定性的な評価指標である。
 2012年3月14日、私学高等教育研究所では、米国ポートランド州立大学ダネール・スティーブンス教授を招聘して、Rubrics and Teaching Portfoliosと題して公開研究会を開催した。スティーブンス教授は、ルーブリック研究の第一人者で、2005年の共著Introduction to Rubrics : An Assessment Tool to Save Grading Time, Convey Effective Feedback and Promote Student Learnin(Stylus Publishing)は、全米の高等教育関連図書のベストセラーとなり、近く、日本語にも翻訳される。著書によれば、ルーブリックは黒板の発明以来、教育者にとって最も便利なアセスメント・ツールの一つであると紹介され、教員の成績評価のための時間を節約し、効果的なフィードバックを導き、学生の学習を促進する評価方法である。最も基本的なことは、課題に明確な期待をもたせる採点ツールとして、さまざまな課題やタスクの評価に使用できる。例えば、研究論文、本の批評、議論参加、実験報告、ポートフォリオ、グループ活動、口頭プレゼンテーションなどがあると紹介している。講演会では、「ルーブリックとは何か」、さらに「ルーブリックの作成手順」に関するミニワークショップを参加者と一緒に行った。また、ティーチング・フィロソフィー(授業哲学)に関するルーブリックの事例も紹介された。
 本稿では、講演会で配布されたポートランド州立大学の科目に関するルーブリックの事例から、実際に、授業でどのようにルーブリックが使用されているかを紹介する。さらに、出席者から出されたいくつかの質問に対するスティーブンス教授の回答を抜粋して紹介することで、今後の日本におけるルーブリックの活用に繋げることができればと考えている。
 (1)学生の課題を評価するとき、いつもルーブリックを使用できますか。
 回答:ルーブリックは、どのような状況でも使用できます。プロジェクト、実践レポート、期末レポート、口頭プレゼンテーションなどの複雑な課題にルーブリックが使用できます。多項選択の短いワークシートにはあまり適さないでしょう。
 (2)学生にルーブリックを注意深く読ませる戦略がありますか。
 回答:ルーブリックを採点基準としていることを学生に周知させることが重要です。たとえば、レポートの提出時に、必ずルーブリックをつけさせること、あるいは記述の中に、ルーブリックを読んだかどうかを尋ねる項目を入れることも良いかも知れません。学期のはじめにルーブリックを学生に手渡すので、どのような課題にも応えられるようになります。
 (3)厳格な学習成果をルーブリックでどのように評価できますか。 たとえば、GPAで成績評価を出さなければならないとき、学生の学習過程と学習向上を、ルーブリックを用いてどのように評価できますか。
 回答:これは、ルーブリックで厳格な学習成果を評価するかどうかによります。まず、ルーブリックを点数化して、それからパーセントや成績に変えるのが最も良い方法でしょう。
 (4)絶対評価と相対評価について、もう少し説明してください。
 回答:大学は相対評価ですが、教員の授業は絶対評価です。相対的評価の場合、個々の教員の成績評価にルーブリックを用いることは難しいです。点数に変えて、相対的評価に調整しなければならないでしょう。自分の評価に責任をもつことが重要です。ルーブリックは、証拠に基づく評価であるということです。
 ルーブリックの議論では、評価の側面が重視されがちであるが、教員の学生への期待感を伝え、採点基準を事前に学生に手渡すことで、評価の客観性を保つという重要な側面も看過できない。さらに、批判的思考力の育成や測定も可能にする(詳細は、http://post.queensu.ca/~rsa/assessment.htmを参照)。
 ルーブリックは中教審においても議論され、今月の北海道大学の第34回大学教育学会のラウンドテーブルでも「体系的なカリキュラム構築と学習成果の可視化のためのルーブリックの構築・活用」と題して取り上げられる。

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