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アルカディア学報

アルカディア学報(教育学術新聞掲載コラム)

No.465
日英の大学管理職養成を考える 15年目の大学行政管理学会

客員研究員 村上義紀(元早稲田大学副総長・常任理事)


  去る10月、イギリスの大学のAUA会員10名が来日した。AUA(Association of University Administrators)とは、主にイギリスの大学に働くプロフェショナルとしてのアドミニストレイターが組織する職能団体である。
 AUAの会員は4000人(169大学)を超え、各大学に代表者をおいて地区支部17と全国ネットワークを組む。年会費は正会員、准会員等の給与額で違い、59〜113ポンドと差があるのが興味深い。
 AUAとJUAM(大学行政管理学会)との活動の大きな違いの一つは事務局体制。なんと13人(うち1人が男性)の事務局員がいる。二つ目は、AUAが主催する高等教育行政の専門研修(18か月、3年以内)で認定した者にはAUA Postgraduate Certificateを発行する。いわば先輩職員の協力をえて後輩職員を指導・育成するプログラムがある。三つ目は、キャリア・サービス(職業紹介)をネット上で全世界に人材を求めていることだ。
 さすがに今年創立50周年を迎えただけのことはある。日本スタディ・ツアーも記念事業の一環らしい。事前に、JUAMに来訪時の協力要請があったこともあって、一行は、早々にJAUM現会長の大工原孝(日本大学理事・総務部長)氏に面会を求め、東京・市ヶ谷の日本大学本部を訪問した。2004年、筆者もマンチェスター大学に置かれているAUA本部を訪ねていたこともあって、同席させていただいた。
 短い時間であったが、まずJUAMから、次にAUAのスタディ・ツアー側から活動報告をした後、懇談した。訪問団は10人中8人が女性だったのには驚いた。アメリカの大学では相当前から女性プロフェショナルが少なくなかったが、イギリスもこれほどまでか、とある意味で衝撃を受けた。両国の大学のオフィスを訪ねると、事実、男性が少ない。それに比べ、なんと日本の大学は男社会であるか。男女共同参画社会が問われている今日、いずれ日本でも問題とされるだろう。AUAの一行をみて強く印象に残ったことである。
 AUAの創立は1961年だった
 AUAの創立が1961年まで遡ることを不覚にも知らなかった。その理由がわかった。ニュー・ユニバーシティの嚆矢といわれるサセックス大学が創立した年だった。
 ロンドンの南、海辺の保養地に、大学を創りたいと50年近くも前から運動してきたといわれるが、なぜ、1961年に認可されたのか。1957年10月4日の、ソビエト・ロシアの人工衛星スプートニック打ち上げが引き金だった。これが政府をして設置を決断させたという。共産主義国が科学技術の優越を世界に知らしめ、自由主義諸国は震撼した。翌年の1月、アメリカはエクスプローラ第1号を打ち上げたが、はるかに軽い人工衛星だった。
 かくして自由主義諸国では国家防衛のために科学技術政策が論議され、大学の研究体制、教育体制が問われた。米ソの冷戦状況の中で、各国では大学紛争が起き、日本も例外ではなかった。国立大学ではとくに工学部を強化し、新設もされた。私学も同様の道を歩き、お金のかかる工学部がたくさん新設された。進学者の増大とあいまって、大学が膨張・拡大して今日に到ったことを忘れてはいけない。
 こうした時代にイギリスでは、新しい大学が創設されると同時に大学アドミニストレイティブ・スタッフ養成が急務だと論じられ、AUAの前身であるMUAAS(Meeting of University Academic Administrative Staff)が設立されていたのだ。
 では日本はどうか。この種のスタッフ養成の必要はいわれたが、極少数意見だった。大学の管理運営の決定権は教員の仕事で片手間でもできるという暗黙の了解があった。だから、AUAのごとき大学行政管理の専門家を必要としなかった。職員の当事者能力の問題もあったろうが、不思議なことだが、職員が管理運営能力を持つことを教員は望まなかった。大学経営という言葉も忌避されたのである。
 したがって、私学の職員研修は、私立大学協会、私立大学連盟等のもとで実施されてはきたが、AUAのようにプロフェショナルを目指して研修することはなかったし、許されなかった。かの国との大きな違いは、この国の大学職員を優れた大学の構成員とすることを目指さず、安上がりの教育を続けてきたことである。
 創設から15年、JUAMはアドミニストレイターを養成できたか
 1997年、JUAM創設時には役職者に限定して発足した。通信手段がまだFAXの時代で手弁当での発足だったからだが、それでも134大学から350人が会員となった。思いのほか多数だった。15年を経て現在、355の大学から、会員数1255人。内訳で見ると、課長以上の管理職749人、一般職488人、教員18人、そして女性は168人である。設置者別では、私立大学1135人、国立大学51人、公立大学32人、短期大学14人、その他文部科学省、財団・社団法人等の機関からの23人となっている。他に55人の賛助会員がいる。会費は創設以来年1万円である。
 役員は会長1、副会長2、常務理事10、理事31、事務局長1、そして監事2名が全国地区をも配慮して選ばれている。もとより、全員、ボランティアである。
 JUAM創設の理由を最後に記しておきたい。1990年代になり、21世紀を前にして社会の諸制度の大きな見直しがあった。大学も例外ではなかった。大学設置基準の大綱化、18歳人口減に伴う大学改革のうねりが大きな潮流となっていた。その背景には、グローバル化、情報化、それに伴う価値観・ライフスタイルの大きな変化があったから、大学、特に私立大学を支える大学行政管理(経営)が変わらなければ生き残れない、という恐れがJUAM創設メンバーにあった。とりわけ大学の構成員である職員が高度化しなければ世界の大学関係者に相手にされないという危機感、いわゆる大学行政・管理のプロフェショナルを養成して対応しなければ無視されてしまう時代がくるのは目に見えていた。先ずは、われわれ職員自身が変わらなければ、大学はよくはならないという、胸のそこからの叫びだった。大学で職員の果たすべき役割は大きくなっている。一大学を超えて、相互に鍛え合えば、できないはずはない。職員が高学歴化している事実からの確信であり、大学職員もまたエクセレントでありたいと願ったからだ。
 だが、まだこの道は遠い。大学の情報公開でも職員の顔が見えない。海外から日本の大学をみるとアドミニストレイターが存在していないと思われるにちがいない。これでは世界の大学とは競争できないだろう。
 JUAMを創設してはや15年、だがまだ少年。AUAのように50年も経てば、高度の知識、経験、調査に裏付けられて責任をもって計画・実践する「大学職員」なしには大学は動かない、語れない。そういう時代がくるだろう、と、AUAのツアー一行を迎えて願ったことだった。一行の報告書が待たれる。
 (筆者はJUAM創設メンバー、初代副会長)

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