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アルカディア学報

アルカディア学報(教育学術新聞掲載コラム)

No.445
大学改革力の強化へ 職員に求められる4つの課題

研究員 篠田道夫(日本福祉大学常任理事)


マネジメントの前進
 私学高等教育研究所「私大マネジメント改革」チームによる私大協会加盟大学への調査によると、中期計画に基づくマネジメントを進めている大学は4年前の調査から一気に20"ポイント以上も増加し55%となった。厳しい環境の中、急速に経営、教学運営システムの改善が進んでいる。
 昨年からは、地方・中小規模大学の定員割れが改善しはじめた。この原因として、経済的困難から自宅通学を選択したり、入学者が確保できない学部の定員削減などが指摘されている。しかし、その根幹には地方大学の急速なマネジメント改革の前進があると思われる。それは、この調査で地方中小規模大学の中期計画策定率が平均よりやや上回っていることからも見て取れる。
総合作戦推進の力
 同調査は、中長期計画が、今や狭い経営計画に止まらず、教育改革や学部・学科再編、学習支援やキャリア支援、学生募集や地域連携などあらゆる場面に及んでいることを示しており、その総合力なしには、大学評価の向上に結び付けることはできない。
 こうしたあらゆる分野の総合力による勝負、総合作戦を成功させるには、これら全ての分野で実務を担っている職員、実態と切り結んで奮闘している職員の、チームとしての力が不可欠だ。それは、大学が存立し、評価され、活動を続けていく上で最も肝心なステークホルダー、学生や高校生、高校の進路指導教員や企業の人事採用担当者、地域・自治体の方々との接点で仕事をしていることによる。そして、ここからの情報を如何に発信し、また、問題意識を持って分析し、大学の改革に生かしていけるかが問われている。
 与えられた仕事を正確かつ専門的に執行するレベルから、そこを足場に政策的業務に飛躍することが求められる。データの分析、現場実態からの課題設定、情報の収集、他大学調査等から改善策を企画・提案し、決定に持ち込み事業実施をマネジメントできる新たな職員の役割と力量が求められている。これなしには、大学改革力の強化は望めない。そのためには以下の四つの取組みが重要だと思われる。
1、職員の開発力強化
 従来からの育成制度、学内研修制度、外部セミナーや外部研究組織への参加、大学院入学等は効果がある。しかし、ただ聞くだけの知識型研修をいくら積み上げても身に着いたものにはならない。自らの実践をこの過程に組み込むことが肝心だ。また人事制度全体を育成型にすること、求める力を見る採用方式の改善、育成型の異動、実力主義の管理者昇格、人事考課・育成制度の活用など、総合的な取り組みが効果を発揮する。人事に関する全ての事柄を人材育成にシフトするトータルシステムの構築が求められる。
 私高研調査では、人事考課制度も48.1%の大学が導入しており、これも業務の改善と育成に有効である。しかし、調査では「評価結果を本人に知らせ」「考課を育成・研修に結び付け」「面接を重視し」「目標管理」と連動させる点で不十分なところもある。しかし、これなしには育成の効果は上がらず、単なる査定になってしまう恐れもある。人事考課制度自体も、今日求められる開発・創造型の力量育成にシフトして改善されなければならない。
 また、管理者改革、年功序列の打破、中堅管理者層の強化は改革推進に決定的に重要だ。戦略を現場の言葉で語り、課員を改革に組織できるのは管理者しかいない。管理者の選抜・昇格制度の改革、管理者行動指針の設定などはトップ層の決断で道筋をつけられる。職場には、必ず力のある職員はいる。
 今日求められるのは、こうした新たな開発力育成の総合的な取組みである。
2、考える組織への脱皮
 さらに目標の実現に迫るには、個人の育成と共に、それが生きる組織作りが大切だ。  今日の大学の中心的課題は、個人だけでも、課室内だけでも解決が出来ない。私高研調査でも、部課室単位の会議の開催八割に対し、課室横断のプロジェクトが62.3%となっており、課室縦割りと併せ横断的組織運営が機能していることが読み取れる。また企画部局設置も5割を超え、職員の関与が難しかった教育改革でも改革推進事務部局が34.3%もある。IR組織はまだ2割弱と端緒的だが、全体として政策推進を担う企画事務部門の重視、専門的な調査分析提案組織・IR機能の拡充、横の連携重視の方向に向かっていると言える。
 考える組織への脱皮、目標に基づき主体的、自律的に行動できる組織への前進が、斬新な政策とその実現を支える。
3、職員参画と教職協働
 調査結果では、教職協働が進んでいる分野は、職員の影響力が強い分野と重なる。特に、中長期計画、事業計画、財政計画などの政策分野や就職支援、学生支援、学生募集などの分野で職員の影響力が7割〜8割と顕著だ。そして、この力の背景には、これを実質的に推進する組織への職員の参加、権限移譲があると見ることが出来る。認証評価やGP獲得の取組を契機に教職協働が大きく前進を始めている。
 また、職員の教学組織への正式参加は8割を超え、前進していると評価できる。専門委員会や各種プロジェクトの正規メンバー参加から、副学長など教学幹部への登用まで、教育に果たす事務局の役割に相応しい参画が求められている。それは職員の地位向上のためなどでなく、実態を踏まえた教学改革、学生本位の教育・支援にとって不可欠だということだ。職員の参画こそが実効性ある大学改革の力となる。
4、高い目標へチャレンジ
 これらを実現するためにまず何をすべきか。職員の力、特に、企画提案力を付けていく上では、何よりも業務の高度化、高い目標へのチャレンジが重要だ。処理型を脱し業務目標のレベルを上げること。大学の目標と業務目標の結合、目標の連鎖が必要だ。高い目標への繰り返しの挑戦、OJD(オンザジョブディベロップメント)=業務を通しての開発と統治の実体験によってしか本当の力は身に着かない。
 分掌業務の中で1年間にチャレンジすべき改革目標は何か、それを抽象的ではなく具体的に書く。大学業務は評価になじまないという声も聞くが、目標の到達状況がイメージでき、成果物が特定され、期限や方法が明示できれば十分に評価できる。自分の知恵や行動で事業や業務改善を形にすること、この積み上げこそOJDの実践であり、この繰り返しの中で企画提案力は身に着いていく。「目標と評価」なしに人が自然成長することはない。
 これをチームで取組めればさらにパワーが増す。例えば退学率の改善や大学評価向上策など、チームで解決策を模索すべき課題は山積している。課室縦割り、課長の縄張り意識を超えて、チームで取り組む仕事こそが、問題の本質に迫り、より成果を上げ、職員の視野の拡大や成長につながる。チームの提案は学内組織にも議題として取り上げられやすく、この蓄積の延長に職員参加、真の教職協働の前進がある。
 目標にチャレンジする個人の主体的な行動、チームによる問題解決への挑戦、その積み上げによる職員の力量向上と職員の運営参加が、大学改革力を強化する。

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