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アルカディア学報

アルカディア学報(教育学術新聞掲載コラム)

No.02
研究所は何をしようとしているのか

主幹 喜多村和之

 当研究所はどのような仕事をしようとしているのか、ご説明してご理解とご協力を仰ぎたいと思います。研究所の目的は要覧には「高等教育、特に私学の在り方や制度・機能に関わる諸問題の研究調査を行うとともに、私学を研究対象とする研究者への援助、私学において教育・研究・サービスに従事する職員の教育・研修等を通じて、日本の私学高等教育の振興と質的向上に資することを目的とする」と謳われています。研究所は単に研究調査を行うだけでなく、その他にも私学に関連する事業も行うとしているのです。
 具体的には、@私学高等教育に関する調査・研究の企画・実施及び私学政策に対する見解や政策等の提言、A研究会及び公開講演会等の開催、B教育・研修プログラムの企画及び実施、C調査・研究課題の委託または研究助成、D実習・視察・実態調査等の企画・実施、E刊行物の編集・刊行・配布、『教育学術新聞』への寄稿を通じた成果や見解の広報、F懸賞論文募集および表顕彰等の企画・実施、G国際交流・国際共同研究事業・国際会議等への参加・提携、Hその他、私学の発展に必要な事業、などが挙げられます。
 そんなに欲張ったことばかりで、実行が伴うのかという疑問も出ることと思います。その通りですが、この研究所は学会活動や学術研究を志向しているのではなくて、私学の現実の悩みや要求にできるだけ密着した問題に、さまざまな形で応えたいと考えているのです。現場の必要性と研究の論理とはしばしば相容れないことがありますが、可能なかぎりそのギャップを埋めるような調査、研究、論議の場としたいと考えています。少なくとも私学の現実の悩みや問題の解決とはかかわりのない「学問」的研究は、それぞれ通常の学会や大学で行えばよいのです。
 さしあたっては私たちは以上の事業のなかから、@AEあたりから、つまりできるところから始めたいと計画しております。

研究所の基本方針と運営
 当研究所の運営は、日本私立大学協会の私学高等教育研究所運営委員会で基本的方針が審議され、決定されます。運営委員会は以下11名の私大協理事と研究所主幹とで構成されます(敬称略)。  森本正夫(北海学園大学理事長)/佐藤登志郎(北里大学理事長・学長)/小原哲郎(玉川大学名誉総長・特別顧問)/沖永荘一(帝京大学理事長・学長・総長)/清水司(東京家政大学理事長・学長)/黒田壽二(金沢工業大学学園長・総長)/齋藤諦淳(常葉学園大学学長)/小出忠孝(愛知学院大学学院長・学長)/小林素文(愛知淑徳大学理事長・学長)/佐川寛典(大阪歯科大学理事長・学長)/原野幸康(日本私立大学協会常務理事)/喜多村和之(私学高等教育研究所主幹)

どんな問題の研究をどのようにすすめていくか
 21世紀に向けて私学高等教育が当面する重要かつ緊急な課題だけでも、少なくありません。例えば人口減少に伴う学生確保の方策は、私学にとって生き残りをかけた切実な問題です。また国立大学の法人化に伴って大学や学部の合併、統合、連合の動きが盛んになってくることが予想されますが、私学の側ではどのような戦略をとるべきかも重要な課題となるでしょう。国立の第三者評価機関も2000年4月から発足しましたが、大学評価の問題にどう対処すべきかは、私学にとって緊急に態度表明を迫られている問題です。ユニバーサル化に伴って学生の多様化はますます進むと予想されますが、多様な学力、進学動機、学校への期待を抱いてくる学生に対して、どのような教育・研究・サービスの体制で臨んだらよいのかは、最も難しい、未知の研究課題であります。
 そこで、とくに今後緊急に取りあげるべき研究課題としては、例えば以下のようなものを挙げております。
 @私学の特性と社会的役割に関する基礎的研究、A私立大学の経営、教学の実態と今後の戦略に関する比較研究、B今後の私学政策と私学助成の在り方に関する政策研究、C私学における意思決定過程に関する開発研究、D私学財務、人件費、給与、待遇等に関する実態調査、E寄付、募金、基本財産、関連事業に関する国際比較調査、F国立大学の法人化問題と学校法人への影響に関する研究、G私学における大学評価及びアカデミック・ランキングに関する研究、Hカレッジ・チョイス(学生の学校選択動向)に関する国際比較研究、等。
 発足したばかりで、まだ体制ができあがっていない当研究所が、これらの重要課題のすべてに適切に対応していくことは不可能であり、所外の多くの大学関係者や研究者の方々の絶大なご支援とご協力を得ることなしには、私学高等教育の研究を立ちあげることはできないことはいうまでもありません。そこで私たちは、所外に研究員、客員研究員、外国人客員研究員、研究協力者等の形で当研究所の事業にご助力いただく研究者の協力ネットワークを形成し、各研究者と研究所との提携によって研究事業に着手させていただくことを切望しています。
 そのような研究組織は、以下のような構成になるでしょう。すなわち、
 @所員(所長1名、主幹1名、事務職員1名)
 A研究員(17名)
 B客員研究員(14名)
 C研究協力者
 Aの研究員の方々は、実際に当研究所の研究調査活動の企画・実施を分担していただく方々で、それぞれの研究課題の選定、提案、企画から、実施、報告に至るまでのプロセスをご担当していただくことにしています。以下の方々です(50音順・敬称略)。
 岩永雅也(放送大学教授)/浦田広朗(麗澤大学助教授)/沖清豪(早稲田大学専任講師)/小林雅之(東京大学・大学総合教育研究センター助教授)/鋤柄光明(大阪商業大学教授)/杉谷祐美子(日本学術振興会特別研究員)/田中敬文(東京学芸大学助教授)/谷岡郁子(中京女子大学学長)/土橋信男(北星学園大学教授)/羽田積男(日本大学教授)/濱名篤(関西国際大学教授)/福井有(大手前大学副学長)/船戸高樹(尚美学園大学事務局長)/丸山文裕(椙山女学園大学教授)/森利枝(大学評価・学位授与機構助教授)/山田礼子(同志社大学助教授)/米澤彰純(広島大学・高等教育研究開発センター助教授)
 Bの客員研究員の方々は、当研究所の事業や研究活動に、助言者、講師として時に臨んでご参加いただく方々です。以下の方々にお願いしております(50音順・敬称略)。
 阿部美哉(國學院大学学長)/市川昭午(国立学校財務センター教授)/潮木守一(武蔵野女子大学社会学部長・教授)/馬越徹(名古屋大学教授)/金子元久(東京大学教授・大学総合教育研究センター長)/小原芳明(玉川大学理事長・学長)/高木英明(光華女子大学学長)/瀧澤博三(帝京科学大学副学長)/寺崎昌男(桜美林大学教授)/中津井泉(『カレッジマネジメント』編集長)/村上義紀(早稲田大学副総長)/矢野眞和(東京工業大学教授)/山岸駿介(多摩大学教授)/山本眞一(筑波大学教授・大学研究センター長)
 Cの研究協力者は、当研究所の事業に賛同し、参加して下さる方々を中心としていますが、当研究所の研究課題への参加・ご協力をお願いする場合もあります。
 いずれも委嘱期間は任期2年とし、再任を妨げないことになっております。
 かつてカリフォルニア大学総長のクラーク・カー博士は、カーネギー財団からの委嘱を受けて、カーネギー高等教育審議会を創設しました。これは全く私的なイニシアティブで民間の資金だけで運営された組織ですが、わずかな数の常勤スタッフだけで、研究者をほとんど外に求めつつ、七年間におおきな業績を達成し、アメリカ高等教育の政策形成や高等教育研究の向上に、はかり得ない貢献を果たしました。このモデルになぞらえるにはあまりにもおこがましいのですが、「暮らしは低く、思いは高く」のワーズワースの精神をもって、私学高等教育研究という課題にあえて挑戦していきたいと思っております。

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