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アルカディア学報

アルカディア学報(教育学術新聞掲載コラム)

No.162
リエゾン・オフィサーの役割と要請―第三者評価を機能させるために (下)

私学高等教育研究所研究員 船戸 高樹(桜美林大学教授)

 学長の推薦を受け、地区基準協会の審査を経て登録され、トレーニングを受けた評価員は、初めて訪問評価チームの一員として活動することとなる。評価チームを編成する場合、各協会ともベテランの評価員と新人とを組み合わせる方針を打ち出している。その理由の一つとして、大勢の参加者を集める評価員の集団トレーニングは、経費の節減にはつながるものの、訓練の質を低下させる恐れがあることを経験的に認識しているからである。
 訪問評価は対象校の弱点を指摘して窮地に陥れるものでなく、あくまでも個々の大学の特性を理解したうえで、教育の質の維持向上を目指して取り組む改善への努力、発展への意欲を評価するものである。しかし、100年を超えるアクレディテーションの歴史を持つ米国でも、時として経験の浅い評価員の言動によって、評価そのものの意義が失われてしまうことがあるという。このような事態を避けるため、「教育に携わる誰もが知っていることであるが、教室での授業が唯一の方法ではない。また、それが最も効果的な教授法でないことは、往々にしてある。したがって、評価員養成についても評価の現場で、経験豊かな先輩評価員とともに過ごす現地訓練の形態により、過去に蓄積してきた評価員としての技術、精神、知識を受け継ぐことが可能になる」(CQAのハンドブックより)という理由で、評価員の組み合わせが重視されているのである。
 その上で、協会事務局は対象校の評価を行うのに最もふさわしい評価員をリストから選んでチームを編成する。基本的には、対象となる大学の学部構成や学生数等が似かよっている大学に所属する評価員が選ばれる。具体的には、学生数1000人程度のリベラルアーツ系大学に、数万人の学生を抱える大規模大学に所属する評価員は除かれる。また、同一地区の大学や競合校、ライバル校とされる大学所属の評価員も除かれる。さらに、WASC(西部地区基準協会)では、個々の評価員について「過去5年間に対象校に勤務したことがない」「子供が在学していない」「コンサルタントとして報酬を受けたことがない」などを確認、署名させている。このようにして慎重に選び出された評価員リストは、事前に対象校に示され同意を得ることになっており、正当な理由があれば評価員の差し替えがある。

 《訪問評価》
 評価チームの人数ならびに訪問評価の日程については、近年縮小される傾向にある。わが国で、第三者評価導入の議論が行われていた時期「米国では、評価疲れの状態にある」との指摘があった。確かに、アクレディテーションの前提となる自己点検報告書の作成作業を含めれば、約2年から2年半の期間、大学側はこの対応に忙殺される。協会が示す、数十項目にのぼる基準(スタンダード)を一つ一つ点検、クリアする膨大な作業は、携わる教職員に肉体的にも精神的にも過大な負担をかけている。また、訪問評価に関わる評価チームの滞在費等経費面での負担も小さくはない。
 一方、評価員にとっても緊張感を強いられる3日ないし4日にわたる訪問評価の期間だけでなく、事前の準備や事後に課せられるレポートの作成など、その負担は大きい。
 このため、各協会は評価に関わる双方の時間、労力、コストを節約し、より効率的に実施される方法を導入している。その一つが、SACS(南部地区基準協会)が取り入れている書類による事前審査(オフ・サイト・ビジット)である。同協会の示す基準は全部で73項目に上る。かつては全項目を対象に訪問評価を行っていたが、現在では書類審査でクリアできなかった項目についてのみ訪問評価の対象にしており、これにより評価日程が1日半短縮され、また評価員の人数も削減されている。
 また、WASCでも評価チームの人数見直しに取り組んでおり、過去には複数キャンパスを持つ大規模大学に30人を越えるチームを送り込んでいたが、現在では評価方法の改善で、標準的に6〜15名で構成されている。
 いずれにしても訪問評価は、協会と対象校との信頼関係によって成立している。評価を受ける大学側は、的確な判断を求めるために教育の現状、財政状況、将来計画などあらゆる情報をチームに提供する。過去に、訪問評価で訪れた大学の将来計画を、自分の大学にいち早く導入して訴訟になったことがある。このため協会は倫理規程を設け、評価員に対し厳しく守秘義務の履行を求めている。

 《評価》
 訪問評価の結果は、チーム・リーダーからのレポートを受けて、各協会の判定委員会が行う。米国の場合、認定期間は原則として10年だが、無条件でこの資格を取るケースは、驚くほど少ない。年間約80大学の評価を行っているSACSでは、無条件認定の大学は、わずか15%であり、残りは何らかのフォローアップが必要とされる。また、WASCでも無条件認定の大学は約半数で、残りは条件が課せられ、改善策の提出を待って再度、訪問評価が実施される仕組みである。ほとんどの大学は、改善策を講じて認定にこぎつけるが、一部の大学は協会の求める条件をクリアできず、警告や認定猶予の期間を経て、最終的に認定取り消しとなる。
 アクレディテーションに関わる評価は、協会と大学の間だけではない。訪問評価を実施した評価チームは、大学側から「評価はフェアに行われたか」などの項目について評価を受ける。また、評価チーム内でもリーダーは、評価員一人一人の仕事振りを評価し、逆に評価員はリーダーの統率力を評価する。このように評価に関するあらゆる場面で、相互評価が行われることにより、その結果が以後のトレーニングに生かされ、蓄積・継承されていくわけである。

 《リエゾン・オフィサーの役割》
 協会は、評価員のトレーニングのほかに大学側に対する「機関トレーニング」を実施している。訪問評価が近づいた大学から管理・運営や教学面の責任者である学長、プロボースト、シニア・ファカルティのほか、自己点検から訪問評価までのすべてについて大学側の取りまとめや協会との交渉に当たるリエゾン・オフィサー(以下LO)が参加する。一連の活動を円滑に進めるためにLOの役割は大きい。協会側も、「学内に自己点検や訪問評価の意義を徹底させ、実りあるものにするため、最も有能な人材をLOに登用すべきである」としたうえで、「LOは、日常の仕事の片手間に行えるものではない。その期間中は、LOに没頭できるような時間的な配慮とサポートするスタッフを用意すべきである」と重要性を指摘している。

 《おわりに》
 日本私立大学評価機構が評価活動を機能させるためには、今後、評価員やLOの養成に関する検討を更に深めていくことが重要である。

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