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アルカディア学報

アルカディア学報(教育学術新聞掲載コラム)

No.01
私学高等教育研究所の発足にあたって

主幹 喜多村和之

 このたび日本私立大学協会附置・私学高等教育研究所が設置されました。開所披露に多数のそうそうたる方々の御臨席をいただき、感激いたしております。私は当研究所の研究調査活動の企画・実施という責任をお任せいただきました者として、この場をお借りして、いささか私見を申し上げさせていただきたいと存じます。

なぜ私学高等教育研究が必要か
 今日、日本においても諸外国においても高等教育の量、質の両面における私学の役割や影響力は極めて大きく、今後も最も成長していく部門であり、同時に国・公立部門の「私学化」の傾向もますます進行していくと予測されます。また、少子化・高齢化などにみられる人口動態の変動や、それにともなう構造変化に対して、私学は教育・研究・サービスの面で、幾多の緊急に解決しなければならない問題に直面しています。それにもかかわらず、私学高等教育の実態や全貌は、十分に知られておらず、必ずしも国民の理解も得られているとはいえず、国政や行政の面でもその役割にふさわしい位置付けを与えられているとも思えません。
 その理由のひとつは、私学高等教育を研究対象とする人材が限られており、調査・研究の蓄積も十分でなく、私学に関する情報、知識、知見が欠如しているからではないかと考えられます。例えば私学関係の情報やデータは公開されていない部分が多く、従来までの高等教育研究も国・公立部門に比して量質ともに乏しいように思われます。こうした状況では、国民世論や政治・行政に対して私学部門の立場を理解して頂き、かつ発言力を持つことも難しいのではないでしょうか。
 これまで日本の私学高等教育の研究は、すでに幾多の貴重な研究成果も発表されてきています。しかし従来の研究者の多くは国立大学の出身者や関係者によって担われ、国公立部門の立場や国立中心の視点から取り上げられたものが目立ちます。一方、私学関係者や私学出身者による私学研究は残念ながらまだ質量ともに充実しているとは言えないように思われます。
 無論私学の研究は私学出身の研究者によってのみなされるべきだ、などという偏狭な考え方をする必要は全くないのですが、それでも国・公立とは大きく異なる私学の現場を踏まえた研究が少ないのは残念なことですし、私学の実態にせまるには、どうしても私学の立場と目線からアプローチすることが不可欠だと思います。本研究所はこうした私学の目線からの私学研究を興したいという動機も強くはたらいていると考えます。

私立大学研究所設立の念願
 私事にわたりますが、私はこれまで約30年余にわたって国立大学や国立研究機関に勤務してまいりましたが、出身は中学、高校、大学と私学であり、官にあっても私学出身の意識と誇りを持ち続けてまいりました。なぜなら私が高等教育の問題に目覚めたのは、大規模な私大の学部から小規模な公立大学の大学院に進学して、その余りの公私格差に愕然としたショック以来からだからです。当時の私には、一人の日本人青年が、なぜ設置者の違う大学に入学しただけで、学生数、教師数、施設設備、少人数クラス、授業料等々で、天と地も違うような条件のもとにおかれるのか、どうしても理解できなかったのです。
 私はこうした疑問を解くには、日本の高等教育を、従来のような「官」中心の観点からだけでなく、「私」の視点から見直してみる必要があると考えました。それにはどうしても私学の側から私学研究をおこすことが必要だという結論に達し、そこで「私大問題総合研究所」の設立を提唱し、この構想は以前に私大団体の雑誌(『大学時報』1977年11月号)にも発表したことがあります。

私学高等教育研究所の創設の意義
 当時に示した私の考えはいまもいささかもかわっておりませんし、あれから23年後の今日、日本私立大学協会の見識によって、こうした組織がつくられたことに敬意を表しますとともに、私のような者に私学高等教育研究の拠点づくりを任せていただいたことを非常に光栄に思うものであります。
 私学高等教育研究所は、日本私立大学協会の総会の総意によって創設され、私大協に附置された機関であります。したがって、日本私立大学協会の加盟校の発展に資することが第一義的な使命であることは言うまでもないことであります。しかしながらこの研究所が私大協の単なる下部組織でもなく、あるいは「附属」機関でもなく、「附置」されているというところに、私は深い意義を感ずるものであります。自分なりに解釈すれば、当研究所はあくまでも私大協加盟校に直接的に役立つような研究を中心に進めていくつもりですが、研究の対象や範囲は私大協にとどまらず、全私学、短大、高専、専門学校を含めた内外の高等教育全体にまで及んでいかざるを得ない、ということになります。なぜなら、現代の高等教育は、公と私、初等中等教育と高等教育、学校教育と社会教育とが密接に重なり合い、関連しあっており、教育問題の解決のための研究調査には、全体的な視点とネットワーク的文脈からアプロ−チすることが不可欠だからです。私学を理解するためには、国・公立部門も含めた高等教育の全体システムからの発想が不可欠だと私は考えるものであります。
 また「附属」というのは、あくまでも親機関があって、その下部組織という性格が強いのですが、「附置」というとその親機関のヨコにあって、あたかも叔父叔母のような関係であることを示唆します。さしあたって研究とはまず真実を正確に把握し、その上にたって必要な解決策を提示することだとすると、そのためには研究機関は親機関から一歩離れた地点から冷静に対象を分析・評価する自由が保証されなければなりません。親機関に気に食わない結論は出せないような状況にあれば、長い目でみて研究が現場に貢献することはできないと考えるからであります。
 なお、国立大学の独立行政法人化が確定され、公立大学もなんらかの形で法人化されるような事態になれば、日本の大学は国・公立すべてが独立した、より自立的な組織として、対等の立場と基盤をもつ可能性も開かれるわけです。そうなれば、国・公・私が互いに独立した組織体として切磋琢磨し合い、連携協力し合って、世界に誇り得るような日本の高等教育の形成に貢献し合うことも期待されるのではないでしょうか。
 このような仕事は一朝一夕で成し得ず、また多数の関係者の方々の御協力が得られなくては、とうてい成し得ることではなく、当研究所の趣旨に御賛同をいただきました方々を中心に、研究員、客員研究員、研究協力者として御協力をお願いすることにいたしました。私学高等教育の振興と向上のために、ひいては日本の高等教育全体の質的向上のために、各位の絶大なる御支援を心からお願い申し上げて、御挨拶に代えさせていただきます。
 (以上は当研究所の開所祝賀会における主幹挨拶です。なお当日配布させていただいた小冊子『現代日本の私学高等教育・・・展望と課題 ――世界のなかの日本の私学 付:データブック日本の私学2000』に詳しい記述がありますので、ご関心ある方はこちらまで御申し込みください。)

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